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2021.11.01

「ありたい姿」からスタートするデジタルマーケティング成功の要諦

日本企業の多くが喫緊の課題としてDXを推進するも、なぜその試みは失敗しがちなのか。その理由と成功の要諦を探るべく、デジタルマーケティングの実現に取り組む大手化学メーカー・JSR、同プロジェクトを支援する国内最大規模のデジタルマーケティング会社・電通デジタルのチャレンジを紹介する。


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自社にとっての「デジタルマーケティング」の定義が大前提

――JSRと言えば半導体材料や液晶表示材料などで世界トップレベルの技術力とシェアを擁す化学メーカーとして、高い認知度と支持を得ています。なぜデジタルマーケティング推進に至ったのか、当時の課題、経緯についてお聞かせください。

JSR株式会社 藤谷智浩(以下、藤谷):当社は合成ゴム・樹脂などの石油化学系分野に端を発し、情報電子材料、ライフサイエンス分野にも市場を広げ、研究開発分野ではイノベーション創出、デジタル化を進めてまいりました。

お客様へのアプローチは技術のすり合わせなどの観点から対面型を軸に展開してきました。しかし近年、当社のようなBtoB分野でもお客様がWebサイトで事前に製品・サービスの選考をするなど購買行動のデジタルシフトが進行。マーケティング分野においてのデジタル化の推進が課題となっていました。

そこに新型コロナウイルス感染症拡大の影響も加わったことで、デジタル化の推進はさらに喫緊の課題に。そこで経営トップからの要請があり、私がプロジェクトリーダーの任を受け、2020年7月を基点にデジタルマーケティング実現に舵を切ることとなりました。

JSR株式会社 後藤健太郎(以下、後藤):私もマネジャーとしてチームメンバーと議論を進めるとともに、個人でもDX(デジタルトランスフォーメーション)に関する講演会やメディアの事例記事などを通じ情報収集を進めてきました。しかし、何が当社にとって正解なのかが見えてこない。議論を進めていけばいくほど方向を見失い、4カ月間ほどは迷走状態でしたね。

藤谷:そこではたと気づいたのは「我々は一体何をやろうとしているのか」と。気づけば「どのツールが便利なのか」といったツール導入を基点に発想してしまっていたんですね。では、大前提となる戦略コンセプトをどう構築するか。そこには従来の業務スタイルや企業文化をも否定していく作業を避けては通れません。ならば公平、中立的な第三者の視点を入れるべきではと判断したのが、電通デジタルさんとの出会いにつながりました。

――相談を受け、電通デジタル側ではどのように状況を理解し、最初の提案を実施したのでしょうか。

電通デジタル 加藤淳(以下、加藤 ):プロジェクトを進める上で最も大事な「自分たちがやりたいこと」からどんどん離れてしまっている状況と理解しました。ですから、まず「JSR様にとってのデジタルマーケティングとは何か」といった再定義からスタートしましょうとお話ししました。変哲のない当たり前のことのようですが、このプロセスなくして前に進むことはできません。

電通デジタル 谷米竜馬(以下、谷米):さらにデジタルマーケティング、DXと一言で言っても、人によって捉え方や認識は様々。社内で認識のすり合わせを行い、共有する作業も必要不可欠です。

これはどのような業務でも共通して言えるのですが、トップダウンで言われたから仕方なくやるのではなく、会社や自分自身にとって今何が必要なのかを考え抜き、自分たちが主語となり、やるべきこととやりたいことをしっかりと持つことがプロジェクト成功の要だと考えます。

藤谷:お話を受け、ゼロの状態から当社の課題に寄り沿っていただける印象を持ちました。そして、当社の課題をしっかり評価した上で、適切な提案や実行支援をしていただけると確信できたのが決め手となりました。また、自分たちが何を発信するかではなく、顧客視点を取り込むアプローチとして、CX(顧客体験)の概念をご提示いただいたことも新たな気づきにつながりましたね。

後藤:お話を受け、ゼロの状態から当社の課題に寄り沿っていただける印象を持ちました。そして、当社の課題をしっかり評価した上で、適切な提案や実行支援をしていただけると確信できたのが決め手となりました。また、自分たちが何を発信するかではなく、顧客視点を取り込むアプローチとして、CX(顧客体験)の概念をご提示いただいたことも新たな気づきにつながりましたね。

ビジネスの上流から下流まで一気通貫でマーケティング活動を支援


――電通デジタルではマーケティングツール導入にとどまらず、ビジョン構築から組織変革、施策実行まで一貫して伴走する長期スパンのアジャイル型支援サービスを展開されています。具体的にどのようにプロジェクトを進行されたのでしょうか。

谷米:当社では中長期の戦略から短期的な施策プラン、利用ソリューションの策定まで連続性を持って実施し、実際のマーケティング活動に落とし込んでいく。ビジネスの上流から下流までを一気通貫でクライアントのビジネスや変革をご支援していくスタイルを強みとしています(図1)。

加藤:その観点から、会社全体の組織マネジメントの理解を進めるとともに、現場の業務フローを把握するために各事業のヒアリングを必ず実施しています。現場の現実を知らずしていくら見映えのいい戦略を立てても、所詮は机上の空論。DXを進めるためには、人の動き・業務フローの変革、いわば「ピープルドリブン・トランスフォーメーション」の視点が欠かせません。

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谷米:現場の声から顧客コミュニケーションの前後関係や事業部の課題を可視化します。例えば、認知獲得に問題がある事業については「デジタル上で狩猟型の情報発信を行う」、情報が点在していた営業管理の課題に対しては「共通の営業管理基盤の構築を進める」など、課題一つひとつに解決法を積み上げていく(図2)。まずはこのようなボトムアップ型のアプローチを取ります。その一方で、積み上げた解決法という目指すべきゴールから今度は逆算して具体的なプランを構築、実践していく作業を並行して行います。理想と現実のかみ合わせを確認しながら進行することで具体的にやるべきことを明らかにしていくアプローチを重視しているのも当社のDX支援のポイントです。

藤谷:お2人が捨て身で当社の課題に踏み込んでくださる姿は、まさに“ディープダイブ”というべきでしょうか。最初は正直、抵抗感や戸惑いもありました。しかし、電通デジタルさんの姿勢を見て、我々も実態をさらけ出し、変わっていかねばならないという覚悟ができました。

後藤:まさに丸裸にされるような心境でした(笑)。しかし、身内だけでは甘えや遠慮が出てしまうところを、現状の課題に対してズバリ忖度なくご指摘いただきました。経営陣にとって新たな課題認識につながったのも大きかったと思います。

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――20年11月から2カ月と短い期間で、課題・要求整理から実現に向けたロードマップと実行プランの提供、利用ソリューションの選定までを含めたデジタルマーケティングの実装・実働の基盤づくりを完了されました。スピード感を持って達成できた背景についてどうお考えでしょうか。

谷米:今回、海外も含めて3事業5部門にまたがる20人超のJSRチームと我々でプロジェクトを推進したわけですが、通常は各人の意見の違いや関係性などにより、この規模でこれだけ迅速に物事が進むのは珍しい。お2人の社内調整力やチームをまとめる力には本当に助けられました。

後藤:この取り組みでは、我々の文化や考え方、行動様式をデジタルにシフトしていくことも重要なミッションに掲げていました。つまり、我々2人だけでなく、実際にお客様と対峙するメンバーが変わらなければ意味がありません。メンバーには毎日のように電話やメールで連絡を取り、プロジェクトへの積極的な関与の働きかけに注力しましたね。

環境の変化に合わせたアジャイル型のデジタル推進が肝要

――今回のプロジェクトを通して得られた成果や、今後の展望についても教えてください。

藤谷:新しいことに挑戦すれば必ず痛みを伴う。過去の成功体験を手放して、どう改善につなげて前に踏み出すかが肝要だと思います。

我々はまだ小さな一つの山を登頂したにすぎませんが、社内のメンバーにも意識の変化が見え始めています。技術力で成長してきた過去にとらわれず、提供している製品・サービスが顧客のニーズに果たして合っているのかを改めて考え直す。「お客様から見たらどうなのか」といった意見が自然に出てくるようになったのは、組織変革への挑戦という観点から大きな一歩だと考えています。今後はその経験を生かし、準備を進めている海外市場でのテストマーケティングを成功させたいと思います。それには、山の登り方の工夫が肝要です。こうした積み上げにより、デジタルマーケティングにとどまらず、新たな市場ニーズの開拓やブランディングにもつなげていけたらと思います。

後藤:今回はアジャイル型のマーケティング支援を受け、様々な取り組みを同時進行で進めていったわけですが、まさに山登りの例えのように環境が目まぐるしく変化する時代に、アジャイルでのプロジェクト進行は必要不可欠と言えます。

谷米:従来の中長期的な計画を、その通りに達成するだけではだめです。山登りで言うと、天候が変わったらルートを変えるなど、計画の見直しといった柔軟性が求められる場面も多くあるでしょう。しかし、ルートは変えても最後は頂上に向かう。このアジャイル型の業務スタイルを、今回のプロジェクトを通して知ることができました。また、どんな分野にも応用できるはずといった理解も少しずつ進んできています。その考え方を具現化する第一歩として、今回の取り組みで成功体験を全社で共有できればと考えています。

加藤:私たちは外部のコンサルタントという立場ですが、コンサルティング業務としてゴールに向けた地図(ロードマップ)を描くだけでは、お客様の価値向上にはつながりません。お2人がおっしゃる通り、“動かないと見えてこない景色”がある。机上の空論とならない地に足の着いたプランを描き、実行し結果を出すことまでが構想策定でありコンサルティング業務であると考えています。引き続き、我々もしっかり手足を動かして長期スパンで伴走してまいります。

まずは次の海外市場でのテストマーケティングをいかに成功に導くか。これからも持ち前の“泥臭さ”を大事に、多くの企業のデジタルシフトを支援していければと考えています。

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JSR株式会社  デジタルソリューション事業企画部 部長
藤谷 智浩氏

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JSR株式会社  デジタルソリューション事業企画部 主査
後藤 健太郎氏

日経BPの許可により「日経ビジネス電子版Special」2021年10月21日公開に掲載された広告から抜粋したものです。
禁無断転載©日経BP

谷米 竜馬 Ryoma Tanigome

プラットフォーム&データ本部 / プラットフォームコンサルティング部 シニアデータマーケティングコンサルタント
データドリブンなOne to Oneコミュニケーションの実現を支援するコンサルティング業務に従事。
国内大手メーカー、製薬、EC、教育、不動産などB to BとB to Cの両領域に対し、マーケティングオートメーション(MA)ツールの導入・運用支援から顧客コミュニケーションの立案、施策結果の検証を含む一連のPDCA業務をしてサポート。

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加藤 淳 Jun Kato

CXストラテジー本部 CXストラテジー1部 プランニングディレクター
戦略プランニングディレクターとして、企業のビジネス課題・マーケティング課題を解決すべく現状把握・課題発見・戦略立案までを実践的手法で提供。Webキャンペーン企画や、黎明期のSNS運用や研修の設計などの経験をベースに、一貫してエンドユーザー視点を大事にしたコンサルを実施。プロジェクトにおけるワークショップ設計とファシリテーションの実績多数。

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