2022.01.14

顧客の体験価値を向上させるデジタル活用のヒント 〜チュチュアンナに学ぶ、心を動かす顧客体験のつくりかた〜

長引くコロナ禍で消費者の“デジタル慣れ”がかつてないほどに進んでいます。生活の中でのデジタルの比重が高まる今日、企業は従来施策の延長線上ではなく、「より利便性の高い顧客体験とはどういうものか?」をイチから考え直す必要に迫られています。

確かに各企業、とりわけ小売業は、コロナ禍で急速にオンライン施策を進めてきました。では、次のステップとしてどのようなことに取り組めばいいのでしょうか? その答えとして挙げられるのが、店舗とECそれぞれの特徴を生かし、総合的な顧客体験価値を最大化できるような仕組みづくりとその実践です。

本稿では、ウェビナー「顧客の体験価値を向上させるデジタル活用のヒント」の内容をベースに、店舗DX(デジタルトランスフォーメーション)やアプリ活用など、デジタルを用いて実現する「心を動かす顧客体験」について、ゲストとしてお迎えしたチュチュアンナ様の取り組みや体験談を交えてお伝えします。

チュチュアンナについて
1973年8月創業。レッグウェアやインナーウェア、服飾雑貨等の商品企画、小売、卸売を行なっている。本格的な商品からファニーなものまで幅広いラインナップを展開しており、中高生を中心に幅広い女性から高い人気を誇っている。
実店舗として国内外の大型商業施設内に出店するほか、自社ECサイトの運営や「tutuanna (チュチュアンナ) 公式アプリ」での情報発信やeコマースにも力を入れている。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

コマースデザイン事業部
エグゼクティブプランニングディレクター

口脇 啓司

実店舗とECを展開する企業が抱える課題と解決法

――実店舗とECをどう位置付けるか?

昨年来、消費者は「実店舗に足を運びたいけれど難しい」という状況に置かれるようになっています。それに対応すべく、既存の小売各社は自社ECサイトを立ち上げるなどし、「買いたい気持ち」に応えてきた、というのが昨今の流れだといえます。

そして、徐々に消費者が店舗に戻るようになった今日、新たに起こり始めたのが「実店舗とECサイトの両方を運営することで生じる混乱」です。実店舗とECサイトの担当者が異なるため、意思疎通や情報共有が図られず、組織内でも混乱が起きるケースは少なくないとの声もあります。

こうした企業が抱えがちな問題について、チュチュアンナ デジタルマーケティング部 マネージャーである西岡和也氏は、「チュチュアンナでは私が実店舗とEC、両方の『販促・プロモーション』を統括しているので、組織内で意思が統一されていると言える。一方、顧客にとっては実店舗でもECサイトでも、どちらもでも違和感なくお買い物ができるのが理想だと考えるが、店舗から成長した企業でもあるため、まだ何か新しいことをする際などに店舗中心の発想になりがちなところがある。しかし、最近ではクロスユースするお客様の方がロイヤリティが高い傾向があるといったことも分かってきた。例えば、初回は店舗で採寸して、次回以降はECで購入するといった体験ができるように、また、その時には店舗とECとで得られる情報の量に差が生じないように、改善したい事柄は多い」としました。

――企業理念は実店舗とECを一体感を持って運営する基礎になる

企業にとって、顧客のロイヤリティを高めることは非常に重要なことです。これについて、チュチュアンナ公式アプリの開発をサポートしてきた株式会社ヤプリ マーケティングスペシャリストの島袋孝一氏は、「企業理念である『世界中の女性が明るくオシャレを楽しむ社会の実現』を軸に、実店舗とECをうまく運用しているように感じる」と述べ、共通のゴールを目指して進むことが実店舗とEC双方を運営する上で“見逃されがちだが、大切なこと”だと指摘しました。

島袋氏の発言を受け、チュチュアンナ 情報システム部 DX担当の池田雅春氏は、「このところパーパス経営が注目されているが、私たちも以前から企業理念は大切にし、毎月これを考え直す機会をもうけている。実店舗でもECでも、運営においての判断基準として『チュチュアンナらしいよね』と言えるかどうかを重視し、従業員が自律的に動く指針にしている」としました。

――店舗スタッフにも「ECは役立つ」と感じてもらうための工夫

一方、企業理念の浸透と同時に重要なのが、ECサイトやデジタルの力が店舗運営や顧客体験の向上に繋がる、つまり、ECは店舗スタッフにとっても“使える存在だ”と理解してもらうことでしょう。これは今後、店舗DXを始める際、現場に“デジタルへの心理的なフリクション(障壁)”が起こらないようにするためにも重要です。

西岡氏は、「実店舗のスタッフにとって、まだECサイトは馴染みのある存在になってはいないという見方もある。ECサイトからでもお客様に幸せや喜びをお届けできるのだと分かってほしいし、現在は店舗からの発想で企画される商品も、ゆくゆくはECならではのアイテム展開をはかっていきたいと考えている。それが可能になるように、まずは『ECならこういうことができる』と理解してもらうよう、社内に伝えていく必要があると考えている」とし、その方法の一例として、「店舗だけで行われている社員割引をECサイトでもできるようにするなど、まずはスタッフら自身が使ってみたいと思うように促したい」としました。

この西岡氏の指摘は、まさに、顧客体験(CX)を向上させるには、従業員体験(EX)を向上させる必要がある、という考え方を言い表したものだと言えます。

今の顧客を正しく理解し、カスタマージャーニーを描くことの重要性

他方、CXを向上させるには、顧客を正確に深く理解することも欠かせません。

このテーマについて島袋氏は、アプリ開発をサポートした経験を振り返りつつ、「チュチュアンナに限らず、多くの小売事業者は実店舗を展開している企業であるという先入観をもとにカスタマージャーニーを描きがちである。しかし、今日の状況も考えるとオンラインから顧客になるジャーニーも当然考えられる。両面を見なければ正しいジャーニーは描けないし、それぞれのジャーニーで最良の顧客体験はどのようなものなのか、考える必要があると感じた」としました。

続いて池田氏は、カスタマージャーニーを再考するにあたりグループインタビューを実施した経験から、「例えば、大型商業施設内のテナントでの出会いをきっかけに顧客となったお客様の場合、まだお子様の年代のころは親御さんに連れられてお買い物に訪れ、『自分で下着を買いたい!』と思う年齢になった時、『下着屋さんに行くのは恥ずかしいから』と馴染みがあって、下着以外にも取り扱いのあるチュチュアンナにおひとりで来店するようになる。そして、社会に出始めるとパンストを購入しにいらっしゃる、というようにジャーニーが変遷していく。つまり、お客様と私たちの間には10年〜20年ほどの繋がりがあるということだ。一方、お手頃価格であるがゆえに、あるタイミングでハイブランドに移行して『チュチュアンナ卒業』をされる方もいらっしゃる。しかし、そうした方々も子育て世代になると再び訪れてくれるようになり、そのお子様はお母様と同じジャーニーを体験することになる。このような実態が見えることで、できれば卒業しないように繋がり続ける施策を考えるなど、打ち手を想像できるようになった。こうしたことに気づくきっかけになるので、顧客理解を深める上でもリサーチはとても重要だと考えている」としました。

デジタルの力はどう顧客体験を支えるか?

先述から垣間見られる通り、チュチュアンナの実店舗の存在感は、顧客にとって大きなものだと分かります。そうなると、ECサイトの存在はどうあるべきか? この場合のデジタルを活用した顧客の体験価値を高める方法にはどういったものが考えられるのか? との疑問がわいてくることでしょう。

池田氏と西岡氏は、そもそも「デジタル=ECとイメージしがちだが、そういうものではない」と強調した上で、その意図を次のように解説しました。

まず、「実店舗の価値向上という意味でデジタルを活用する意義は大きい。例えば店舗では商品をアピールする紙のPOPの付け替え作業など、店舗スタッフの負荷になる業務があった。これをサイネージの活用によってデジタル化すれば付け替え作業が不要になり、その時間をお客様に対応する時間にすることができEXの改善だけでなく、結果的にCXも向上すると考えられる。また、アプリやECサイトで店舗在庫の情報が見られるようになっていたら、顧客が来店前に自分がほしい商品があるかどうか確認でき、『この店舗にあるならこちらに行こう』という判断ができるようになる。特に下着はほしいサイズがなければがっかりさせてしまうことになるので、デジタルを活用してそうならない環境を作りたいと考えている」と、池田氏。

さらに、店舗スタッフの業務改善として、できるだけ日々のオペレーションを簡素化できるように、商品発注の手間を省けるような仕組みを導入して自動化し、その分を付加価値の高い接客に注力できるようにするなどの取り組みもし始めているとのことです。

このほか池田氏は、「店舗可視化カメラによって通行量やそこから来店客になる人数を把握したり、店舗内の滞留エリアの把握もし始めている」と述べ、「特に来店客の人数の傾向を把握しておくことは、店舗スタッフの休憩のタイミングやシフトの最適化に役立っており、店舗内の滞留エリアの把握は店舗レイアウト変更の参考になっている」と続けました。

このような店舗アナリティクス、店舗での行動分析が実際に行なわれていることについて、電通デジタル コマース事業部 エグゼクティブプランニングディレクター の口脇啓司は、「店舗での動きの可視化はテクノロジーの発展によってできるようになったこと。しかし、実際に活用できているというのは、先進的な取り組みだと思う」と感想を述べました。

前述のような店舗アナリティクスなどの取り組みは、経営側からすると非常に興味深いことである一方、店舗スタッフやエリアマネージャーら現場を支える従業員の協力が欠かせません。

これについて池田氏は、「店舗アナリティクスは、経営陣の肝煎り施策だった。このほかにも、デジタルリテラシーの高い経営陣が『このテクノロジーを導入してみてはどうだろうか?』と、話を持ち込んでくることもある。一方、商品発注のデジタル活用や現場オペレーションの改善についてはボトムアップで話が舞い込むことが多い。いろんなところからアイディアが寄せられ、DX担当としては日々刺激的な状態だ」としました。

店舗DXにはソリューション導入が必要。けれどそれだけでは達成できない

チュチュアンナで行なわれている店舗DXの特徴は、部分最適解ではなく、自社の顧客を深く理解した上で、どのようなことをすれば顧客の体験価値を高められるか? それが可能な状況になるために店舗スタッフの働き方をどう変える必要があるのか? という広い視点に立って行われていることだと分かります。

では、そうした中でさらに店舗DXを加速させるにはどうすればいいのでしょうか?

口脇は、「近年、顧客の興味関心の範囲は広がっており、商品そのものだけでなく、作られた環境やプロダクトのバックグラウンドも知りたいと感じている消費者が増えている。そうした発想は今までになかったことであり、今後も『今までには想像しなかったニーズ』が増えていくと予想される。先ほど池田氏や西岡氏が触れていた通り、顧客を深く理解することはCXの向上を考える際に欠かせないことだ。その理解をより素早く正確にするためには、オンライン/オフラインの垣根を超えて顧客のデータを集め、分析し、1 on 1のサービスに生かすようにデータ活用することが理想だと言える。つまり、店舗DXの根本には顧客理解が大きなテーマとしてあり、それをデジタルやテクノロジーでサポートするためにソリューションを導入する、ということだと言える。

一方、実店舗やECサイトといったタッチポイントでお客様を迎えるスタッフや従業員らが企業に求めることも変わってきている。業務の効率化や接客のスキルを上げるためのソリューション導入だけでなく、どういったプラスの経験を職場で得られるか? という視点も含める必要があるだろう。電通デジタルが提供している店舗DXを推進するソリューション『One Tempo』はそうしたことも踏まえてサポートできるようになっているし、そのような充実した環境があってこそEXが向上して、お客様にワクワク感が伝わるのだと考える」としました。

続けて島袋氏は、「店舗DXをサポートするにあたり、パートナー企業となる我々がすべきなのは、案件として取り組む前に一消費者として実店舗やECサイトで購買体験を積んでおくことだ。どのようなテクノロジーが活用されているかは分からないだろうが、『顧客視点で見る、体験して考える』ということは欠かせないことだと言える。その体験がCX向上に繋がる施策を思いつくきっかけになると考える」としました。

お客様と向き合う企業側の意見として池田氏は、「DX担当という肩書きはあるが、私はCX(顧客体験)担当を自認している。デジタルでできることはまだまだあり、例えば、ECサイトでは、商品画像のパターンは多くは用意できていないが、靴下なら身長によって違った印象を受けたり、その他の商品もサイズによって印象が違ったりする場合もある。これをサイト上で確認できるようにすることは、お客様が抱える小さなペインの解消になるだろう。ささげ(撮影・採寸・原稿)にかけられるコストには上限があるが、最近注目されているバーチャルモデルの活用は打開策になると考えている。

一方、テクノロジーによって採寸に人の手が介在しなくてもよくなったが、サイズが分かっても体型やデザインによって実際にフィットするサイズが前後することもある。どの商品が合うか、おすすめするには店舗スタッフの存在が欠かせない。それらも含めて、デジタルを使う必要があれば導入し、そうでないなら使わず別の打ち手を考える。そうしてお客様の理解を深めてCX向上を実践していきたい」としました。

加えて西岡氏は、「データ活用の話があったが、そうしたものを活用することで顧客理解は加速するのは間違いないだろう。企業理念を踏まえて取り組んでいきたい。今は我々の提案する商品のユニークさが受け入れられているが、それに加え、商品を購入したお客様にお手入れの仕方を伝えたり、他社との差別化部分をより楽しんでもらったり、メリットを享受してもらえるような情報発信も続けていきたい。また、店舗スタッフにチャレンジを促し、それを支える取り組みも進めていくことでより良い顧客体験を提供できると考えている」としました。

一度始まった店舗DXを加速させるかどうかがビジネスの分岐点になる

パーパス経営や経営陣らのデジタルへの理解の深さなど、理想的な環境が整っていると見えるチュチュアンナ。しかし、もちろん小売業ならではの判断の厳しさやKPI管理の厳格さもあり、最近では中間指標としてクロスセルやクロスユースの数値も丁寧に見ながら、売り上げ向上もはかっていると言います。

このことを踏まえ、口脇は、「チュチュアンナではまさに店舗DXが始まっていると感じるし、『楽しそうなことをしている』という雰囲気も伝わってくる。デジタル活用はある種のチャレンジでもあり、どこも試していないので成果が出るかも分からないことも多い。しかし、『もっとこうしたらよりよくなる』という好奇心からPDCAを回し、成長が始まれば、組織の中も前向きに取り組むようになるのだ、と感じた。この一年あまりでデジタル活用の仕方は大きく変わった。その内容には店舗スタッフのスキルが欠かせないものも多い。一度試したそのような施策について、今後本腰を入れて本格的に取り組んでいくかどうかの判断はビジネスの分岐点になるだろう。私たちとしても、デジタルを活用しやすい環境づくりに欠かせないソリューションとして『One Tempo』を提供するだけでなく、EXやCX向上にまで繋がるようにサポートしていきたい」と結びました。

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