2022.02.04

中国越境EC参入時に選ぶべきスキームとは? 大手ECモール活用とソーシャルEC活用のメリット・デメリット

中国の人口が多いことはよく知られていますが、日本やアメリカを大きく上回り、2020年には14億人を突破しました。人口が多くそもそもの市場規模が大きいことに加え、「爆買い」に代表されるように、訪日客としても大きな経済インパクトを持っています。

しかし、コロナ禍の影響で世界的にインバウンド市場が縮小。代わって日本で拡大傾向にあるのが、オンラインを活用した中国へのアウトバウンド(越境EC)です。

越境ECを成功させるためにはどうしたら良いのか、また、そもそも進出すべきかどうか。越境ECの代表的なスキームやメリット・デメリットを中心に、電通デジタル コマース部門 プロデュース1部 コマースコンサルタント 沖野由樹の講演内容をご紹介します。越境ECを始める前、また業務改善のために、ぜひ知っていただきたい内容です。

 

※この記事は、10月25日〜10月29日に開催した「Commerce Week 2021」のセッションの採録です。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

電通デジタル コマース部門 プロデュース1部
コマースコンサルタント

沖野 由樹

なぜ今、中国越境ECなのか。アウトバウンドを検討すべき世界的背景

新型コロナウイルス感染症の流行は、世界中にウイルスの脅威という身体的・医療的な打撃だけでなく、経済的な打撃をももたらしました。特に、観光客などのインバウンドに頼っていた国では、大きな経済的打撃を受けてGDPが減少しています。

日本は経済活動の大半をインバウンドに頼っていたというわけではありませんが、訪日者数の上位7カ国だけを見ても90%近い約2,284万人のマイナスとなり、そのうち中国だけでも850万人以上が減少したことは、インバウンド市場に大きな打撃を与えました。
※出典:日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(総数)」

実際、2019年の年間訪日消費額4兆7,300億円以上のうち、訪日中国人の旅行消費額は実に35%以上を占めており、中国が日本に与える経済的なインパクトは非常に大きいことがわかります。沖野はこれを受け、「インバウンド市場復活の見通しが不明瞭な状況下では、中国へのアウトバウンド施策が最優先事項となりうる」と指摘しました。

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コロナ禍においてインバウンド市場が縮小せざるを得ない反面、日本から中国への越境EC、すなわちアウトバウンドの市場規模(BtoC)は着実に拡大しています。2020年には約1兆9,499億円となり、2019年と比べて17.8%もの伸びを見せました。

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新型コロナ流行後、中国国内では行動様式が変化し、オンラインでの購買行動が加速し定着しています。外食から自炊へといった変化に伴い、食材・食器・調理器具をオンラインで購入するようになったほか、スーパーマーケット「盒馬鮮生(フーマフレッシュ)」に代表されるような、オンラインとオフラインを融合させたニューリテールの消費体験が進んでいます。

カテゴリーごとの消費動向を見ても、一部の高額商品を除き、中国越境ECでの取扱額はほぼ増加傾向にあります。これを受けて沖野は、「感染症や政治的要因など、外部環境要因でインバウンド消費が不安定になっている今こそ、中国越境EC参入を検討すべきだ」と述べました。
※出典:株式会社Nint「情報通」推計値


中国越境ECで使われる主要な4つのスキーム

日本企業が中国越境ECに参入する際、考えられる代表的なスキームは、下図にある「①中国越境ECモールに出店中の店舗に販売委託する」「②中国越境ECモールに自社出店・出品する」「③中国のSNSアカウントを利用して自社出品・出店する」「④自社ECサイトをミラーサイト化し、海外IPからの販売を可能にする」の4つだと沖野は言います。それぞれ詳しく見ていきましょう。

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①中国越境ECモールに出店中の店舗に販売委託する

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中国の大手越境ECモールに既に出店している第三者の販売委託会社に、自社の商品を販売。販売委託会社は買い取った商品を中国越境ECモールに出品する、というスキームです。商品を販売した時点で自社の売買契約は成立し終了していますので、非常にシンプルだというメリットがあります。

一方で、販売委託会社に商品を販売したのち、その販売委託会社が中国越境ECモールでどのように商品を販売するかについては法的にも言及しづらいため、ブランドコントロールの面で非常に制限が大きいというデメリットが考えられます。
 

②中国越境ECモールに自社出店・出品する

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①のように販売委託会社を通すことなく、自社が旗艦店となって中国越境ECモールに直接出店・出品するスキームです。出店の手間はかかりますが、ブランドコントロールが自由であり、原則、自社の判断においての運用が可能な為、自社のポリシーに基づいた販売活動を行えます。
 

③中国のSNSアカウントを使い自社出品・出店する

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中国の大手SNSには連携した越境ECの販売システム(ソーシャルEC)があるため、これを利用して自社が直接SNSアカウントから出店・販売するスキームです。近年トレンド化している人気のスキームで、シェアは拡大傾向にあります。
 

④自社ECサイトをミラーサイト化し、海外IPからの販売を可能にする

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今ある日本国内の自社ECサイトを海外からも購入できるように、言語や決済、物流などを再構築するスキームです。自社サイトを多言語化している企業は多いのですが、実際に海外からアクセスした場合、カートや決済方法が現れなかったりなど、購入できないパターンも多く、購入を可能にするには再構築を行うか、専用のサービスを利用する必要があります。

このスキームは既に一定数以上海外からのアクセスがあるという場合にはおすすめです。逆に海外からのアクセスが現状ないという場合だと、新たにターゲットとなる国を決めて集客からスタートしなくてはなりません。集客から始める場合、プロモーション費用のコストがかさむことを理解しておきましょう。


ソーシャルEC出店と大手越境ECモール出店、それぞれのメリット・デメリット

前述した中国越境スキームの中で、今も多くのシェアを持つ②の中国越境ECモールと、トレンドである③のソーシャルECについて詳しくご紹介していきます。

まず、最近のトレンドとして、中国ではWeChatなどのSNSアカウントを利用したソーシャルECが急成長しています。2020年には35兆円以上の市場規模になっているとされおり、2018年と比べて3倍以上もの伸びがあります。※1 WeChatを利用したソーシャルECのWeChatミニプログラムは、1日に約4億人が利用しているとも言われているほどです。※2
※1出典:iResearch「Social E-commerce Develops Fast in China(Social E-commerce GMV in China 2015-2021)」
※2出典:経済産業省 商務情報政策局 情報経済課 「令和2年度電子商取引に関する市場調査 報告書」

 

ここで、沖野は日本の企業が中国でソーシャルECや大手越境ECに出店する際のメリット・デメリットを5項目で紹介しました。

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沖野は、WeChatミニプログラムなど、ソーシャルECに出品するメリットについて、「日本での自社ECサイトと近い手法なので、ブランディングやプロモーションをコントロールしやすく、情報の蓄積や分析がしやすい」と述べています。「中国では値下げやクーポンなどがスタンダードなプロモーション手法だが、これらに依存せずとも企画立案から実装までを自社でコントロールできるのは、ブランディングの面で大きな強み」とも指摘します。

一方、ソーシャルECのデメリットとして「よほど認知度が高い企業でない限り、ゼロから認知や集客を実施しなくてはならない。プロモーション費用が相対的にかさんでしまう」ことを挙げています。

沖野はまた、大手中国越境ECモールに出店するメリットを、「システム基盤が整っているため、出店までのフローが簡単。さらに、モールに一定数の顕在顧客・潜在顧客がいるため、場合によっては一定の集客が見込めることがある」と述べています。実際に、商品のユニークポイントを全面に押し出した商品ページを作ったことで口コミ拡散されて、プロモーション費用をあまりかけずに実績を得られたという事例もあります。

大手中国越境ECモールのデメリットとしては、「ECモールのポリシーや様々な制約があるため、思うようにブランドコントロールができないことがある、場合によっては価格競争に巻き込まれて利益圧迫が起こりやすい」などを指摘しています。

沖野は両者のメリット・デメリットを踏まえ「一概にどちらが良いということではなく、自社の経営方針や事業戦略に合った越境ECスキームを選ぶべき」とまとめました。また、2021年11月1日に中国で個人情報保護法が施行されたことにも触れ、個人情報の取り扱いには今後より注意が必要になることも指摘しています。


中国越境EC参入における3つの課題とは?

最後に沖野は、「中国越境ECに参入する際に、注意すべき大きな課題が3つある」として、それぞれのケーススタディを段階ごとに解説しました。
 

中国越境EC参入の課題①:市場調査〜出店(マーケティングによる課題抽出)

これは越境ECに限らず、日本国内で新規事業を始める際にも言えることですが、事前に環境分析、戦略立案、施策立案までしっかり行うことは必要不可欠です。そうでなければ事業計画はもちろん、方針の設定もできません。特に、STP分析でブランドのポジショニングを明確にし、そこから4P分析にまで落とし込む過程は重要です。

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沖野は「ECモールによって施策も変える必要がある」と指摘し、マーケティングを行わず成功体験のみで出店し、のちにECモール撤退を余儀なくされたある企業の事例を紹介しました。「本来、新規開拓先では改めてSTP分析や4P分析を行うことが必要。その上で、本当にそのモールで販売して利益が見込めるかどうかを調査し、計画しなくてはならない。

しかし、その企業はマーケティングを行わず、別のECモールでの成功体験をもとに、同じ戦略で出店してしまったため、新規開拓先で思うように売上を伸ばせなかった。最終的にマーケティングを行ったところ、そもそもそのECモールにはターゲット層がほとんど存在しないことが判明し、やむなく撤退することになった」。


沖野は続けて「この事例からもわかるように、新規販路を開拓するときも、展開中のプラットフォームでも、マーケティングを定期的に実施したほうがよい」とまとめました。
 

中国越境EC参入の課題②:出店〜運営(業務フローの把握)

出店準備から運営の段階では、一連の業務フローを把握し、ビジネスモデルの全体像を俯瞰しておく必要があります。「ここを把握できていないと、構築段階で行き当たりばったりになってしまい、余計なコストがかかったり事業計画の見直しが必要になったりすることもある」と沖野は述べました。

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この段階での事例として沖野は、「ある企業は業務フローを把握せず、要件整理をまとめきらないまま強引に事業を進めた。その結果、物流や決済システムの構築段階で様々な問題が生じ、再構築にさらなる時間と費用を捻出しなくてはならなくなった」というものを挙げています。

この事例ではさらに「パートナー会社の業務範囲だと思い込んでいたことが契約範囲外であったこともわかり、事業計画を白紙に戻して一からやり直せざるを得なくなってしまったようです。かけた手間やコストを無駄にしないためにも、業務フローの把握やパートナー会社との契約は慎重に行いましょう。」と沖野は留意点を述べました。
 

中国越境EC参入の課題③:運営〜改善(チーム編成の構築)

「越境ECでもローンチがゴールではなく、その後も継続的に売上や利益を出すことが重要」と沖野は指摘します。継続的な売上や利益を出し続けるためには、運営面で持続可能なチーム編成(受注、在庫管理、配送管理、商品管理、カスタマーサポート、予実管理など)を構築する必要があります。

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日本企業でありがちなのは、日本国内のeコマース担当者や海外のオフライン担当者が、越境ECの担当を兼務するというパターンです。しかし、これは日本企業が越境ECで伸び悩む一因だと沖野は指摘します。

「国が変われば言語や法律が変わるのはもちろん、商習慣も違う。さらに、eコマースとオフライン店舗では、販売フローが大きく異なる。現地のeコマースに精通した人を起用したチーム編成を行うべきだ」と強く訴えました。

電通デジタルではこれらの3つの課題に対し、マーケティングやコンサルティング、適切なパートナー会社のアサインなど様々なソリューションを提供し、企業の中国越境EC参入を支援しています。

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特にマーケティングプランとしては、今回シェアが大きいとご紹介した「大手越境ECモール用」「ソーシャルEC用」の2種類を用意し、企業ごとのカスタマイズも可能です。インバウンド需要の減少が気になる場合は、ぜひ一度、越境ECへの参入を検討してみてはいかがでしょうか。

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