コロナ禍によって店舗のデジタル化の流れは加速しており、デジタルを活用したカスタマーエクスペリエンス(CX)向上への取り組みが重要となっています。店舗DXを考えるときに、重要なのが「人のちから」。販売スタッフのスキルやモチベーションを最大化することこそが、成功の秘訣だと電通デジタル コマースデザイン事業部 エグゼクティブプランニングディレクターの口脇啓司は指摘します。事業者目線と顧客目線のどちらも経験してきた口脇が、店舗変革を進める上で意識すべきポイントについて解説します。
(この記事は、10月25日〜10月29日に開催した「Commerce Week 2021」のセッションの採録です。)
※所属・役職は記事公開当時のものです。
冒頭、口脇はコロナ禍において生じている変化について「デジタルの浸透により、店舗やデジタルサービスに求める期待値が変化している」と説明しました。
コロナ禍により店舗に行く機会が減る一方、これまでデジタルを活用してこなかった人も半強制的にオンライン体験をしたことで、デジタルの便利さを実感しました。その結果、顧客はデジタルサービスが提案する新たな価値を享受することが当たり前になってきている、と口脇は指摘します。さらにフードデリバリーなど、モバイルオーダーをはじめとしたデジタルによる社会活動の変化は生活の一部となり、パンデミックが収束しても元に戻らないだろうと予測します。
この状況をふまえ、顧客は交通費や労力などのデメリットと、実店舗に行くことでしか得られない経験などのメリットを天秤にかけ、店舗に行くかどうかを決めるようになってきています。実店舗とオンライン、どちらに対してもデジタルを活用した顧客経験に対する期待値が高まっており、ビジネスにおける価値創出はデジタルの領域に移行している、と口脇は現状を分析しました。そのような背景から、企業はオンラインと実店舗を組み合わせたOMO(Online Merges with Offline)型店舗への取り組みにチャレンジし始めています。
OMO型店舗:デジタルと店舗の融合
OMO型店舗にも、店舗にデジタルの仕組みを持ち込む方法と、既存のデジタルの仕組みを活用する方法の2種類があります。
1.店舗自体にデジタルの仕組みを持ち込む
1つ目の方法は、店舗での顧客経験の発想をベースに、店舗用のアプリケーションを開発して体験を強化するものです。例えば、アプリで店内を案内する、気になった商品をアプリのカートに入れてキャッシュレスで支払えるようにする、店舗で商品を受け取る代わりにEC倉庫から自宅へ配送するなどの施策があります。
2.既存のデジタルの仕組みを活用する
2つ目は、既存のデジタルの仕組みを活用し、新たな発想で店舗を展開する方法です。例えば、実店舗にチェックインしてもらうことで顧客データを貯めるのはもちろん、ECサイトでスタッフがお勧めするコーディネートを実店舗のマネキンに着用させる、ECサイトのランキングに掲載されている商品が実店舗の棚に陳列されているなど、オンラインとオフラインのコンテンツを連動させる取り組みも進んでいます。さらに、データを活用したパーソナルスタイリングを実店舗で提供することも可能です。
このように、2つのアプローチによるオンラインとオフラインを融合させ、新たな店舗の価値提供を模索しているのが現状です。
顧客の期待を裏切らないためのOMO
「企業がオンラインとの融合を意識しOMO型店舗を展開する前から、顧客は商品購入プロセスにおいて、既にオンラインとオフラインを行き来しながら意思決定をしている」と、口脇は説明します。
SNSや口コミをきっかけに商品を知り、ECサイトなどで情報収集した上で、実店舗に足を運んで商品を実際に見て、購入にはECサイトを利用するといったように、顧客は無意識にオンラインとオフラインが融合したジャーニーを経て最終的な商品購入に辿り着いています。
しかし、実際にこのようなスムーズなOMO連携を提供できているのかというと、必ずしもそうではありません。
例えば、商品の人気ランキングなどECサイトでの情報と、顧客の最寄りの店舗での在庫情報が連携していなければ、せっかく実店舗に足を運んだのに取り扱いがなく、ネガティブな体験になってしまうこともあります。「そのような体験をさせないためにも、オフラインとオンラインの情報を連携し、顧客の期待を裏切らない使いやすい購買環境を整える必要がある」と口脇は強調します。
これを実現するためには、会員データや在庫データの統合を基盤として進めた上で、スムーズな購買体験を提供するための取り組みが必要となります。つまり、顧客の購買行動をサポートするには、システム、サービス、カスタマージャーニー、UI/UXのすべてを統合する必要があるのです。
「モノを買う場所」から「購入前・購入後もデジタルでつながる体験」へ
OMOの文脈では、顧客は「ECや店舗は、物を買う場所という概念から変化し、購入までのプロセスを楽しみ、購入後も買った商品や体験を通して豊かになることを求めて行動しているのではないか」と口脇。そして、このOMOを促進させることこそがDXの役割であるといいます。オンラインとオフラインの間に店舗DXを位置づけることで、顧客行動をスムーズな線でつなぐハブとしての役割を果たします。店舗DXによって顧客とのタッチポイントを増やすことで、より使っていただけるブランドを目指すことができます。
人とテクノロジーがCXを創り出す
デジタル化が進んでいる一方で、BtoCのEC化率は8.1%と、売り上げはまだ実店舗が多くを占めています。販売スタッフの接客力は大きく、1日に何十万、何百万円と売り上げる優れたスタッフも多く存在しています。まったく買う気がなかった顧客に商品を購入していただくだけでなく、その後も「買って良かった」と満足してもらう。これこそ「人のちから」であり、デジタル化が難しい部分です。では、この「人のちから」とデジタルをどう融合していけばいいのでしょうか。
口脇が提案する解決策は、販売スタッフと顧客のギャップを改善することです。客足が遠のく中で、スタッフは時間を持て余し接客スキルを生かしたいと思っています。一方、期待値の高くなった顧客は場所を選ばずパーソナライズされた接客を受けたいという需要があります。
「このギャップを埋めるのがDXである」と口脇。店舗ごとに組織・評価制度が違う中で仕組みを開発し用意するのは非常に困難ですが、スタッフの接客の評価をデジタルで可視化し、還元する仕組みを用意することでスタッフのモチベーションが上がり、より良いCXが提供できるという好循環を生むことができます。
これまで、実店舗スタッフは最終的な購入決定の場面にしか関わることができませんでした。しかし、デジタルという武器を手にすることにより、購入プロセスの始めから終わりまですべてのタッチポイントで店舗スタッフが関わることができるようになり、オンライン・オフライン両方でスタッフのスキルを有効活用できます。
加えて、ここで重要なのは、オンラインとオフラインの使い分けです。「膨大なデータから最適な提案を導くテクノロジーと、顧客の心を動かすスタッフの接客スキルという、それぞれの強みを融合することで、より良いCXを創出しDXを促進できる」と口脇は強調しました。
データ利活用による顧客の深い理解
データはなぜDXに必要なのでしょうか。デジタルが生活の一部となっているこの時代に、顧客のデータが集まることで、一人ひとりのニーズが可視化され、顧客に合ったサービスを提供することができるからです。より多くのデータが集まることで、より深く顧客を理解できるようになり、その先にマッチしたサービスが生まれます。このように、データはビジネスを成功に導く鍵となるのです。
例えば、3ヶ月に1度商品を買っている顧客をAIが分析すれば、顧客が忘れていてもちょうどいいタイミングで商品をおすすめすることができます。以前購入した商品に合う商品を提案したり、ビッグデータから導き出される行動パターンや好みに応じてレコメンドしたりと、データとAI分析を利用することで利便性が高まり、継続したサービス利用につながります。
データを使ってCXを高めるために意識すべきポイントとして、口脇は以下の3点を挙げました。
- どこでどんなデータが取れるのか?
- そのデータを生かして何ができるのか?
- 取得したデータから、顧客にどんなベネフィットを還元できそうか?
これらのポイントを念頭に置いてデータの利活用を考えることで「どんな機能を持つソリューションが必要なのか」が浮かび上がってくる、と口脇は説明しました。
店舗DXツール「One Tempo」
最後に口脇は、電通デジタルが開発した店舗DXサービス「One Tempo」を紹介。人の力とデジタルの力を組み合わせてCXを向上させ、ビジネスモデルの変革へつなげるという、店舗DXのためのサービスです。
One Tempoの特徴は
- 最適なDXフロー
- データを利用したソリューション群
- DXを成功へ導く「EX(従業員体験)向上によるCX創出」
- DX専門家によるトータル支援
の4つ。口脇はそれぞれ具体的に説明しました。
1.最適なDXフロー
そもそもDXというのは「サービス開発」でもあります。世の中にまだ存在しないサービスの正解をあらかじめ予測することは不可能ですので、事前に要件定義をして開発するウォーターフォールのやり方で開発するのは困難です。そのためOne Tempoでは、まずMVP(Minimum Viable Product 実用最小限の機能を備えたプロダクト)でサービスを構築して市場に投入し、ユーザーの声を聞いて検証を行いながら少しずつアジャイルで機能を追加し、マーケットにフィットさせていくという開発手法を採用しています。
2. データを利用したソリューション群
One Tempo では、自宅と実店舗どちらのサービスにも利用できるソリューションをそろえています。このソリューション群は、認知からロイヤル化のステップまで、すべての購買フェーズを網羅している内容となっています。
3. DXを成功へ導く「EX向上によるCX創出」
より良いCXを提供するには、EX(従業員体験)の向上が必須です。従業員のツールをオンライン化するだけでなく、従業員のモチベーションを上げることにより、質のよいCX向上へ貢献します。さらに企業側には、CXとEXを可視化して分析できるような環境を提供します。CX向上により顧客との継続的な関係性を構築できるため、企業の収益増加へとつながります。
4. DX専門家によるトータル支援
電通デジタルは単なるソリューション提供にとどまらず、顧客体験設計やDXプランニングも併せてサポートできます。またソリューション導入後も市場にフィットするまでアジャイル開発をして伴走支援を続けます。さらに、今後企業の課題となるDX人材の育成や、従業員の評価制度の見直しなども、専門性の高いメンバーがパートナーとして支援していきます。
ソリューション紹介
最後に口脇は、実際のソリューション例を紹介しました。
サイネージコマース(体験連動コマース)
サイネージコマースは、イベントなどでの商品体験後に、その場でサイネージやQRコードを通じて購入できるソリューションです。新規顧客の獲得や、これまでアプローチできなかった潜在顧客の獲得にも効果があります。
ライブコマース
ライブコマースでは、ツールよりも運用が課題になります。どんな台本やテーマだと効果が上がるのかを、PDCAを回しながら磨いていく必要があります。One Tempoでは、それらを総合的にサポートするプランを用意しています。
オンライン接客
オンライン接客では、チャットやビデオによる接客をサポート。デザインは、ブランドの世界観に合わせてカスタマイズ可能です。データ分析部分では、ダッシュボードを用意したりタブレットを活用した接客ツールを用意したりして、より上質な接客サービスを提供しています。
さらにライブ配信とビデオ接客、ダッシュボードを組み合わせた次世代の販売ソリューションも提供。ツールを通じてオンライン、オフラインに相互に送客することで、ECだけでなく実店舗の売り上げも増加させることも可能です。
「店舗DXやデータ活用を通じて、御社のブランドが顧客にどんな体験を届けるのかが重要です」と口脇は話し、セッションを締めくくりました。
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