2022.01.28

顧客を知ることで自社eコマースを成功に導く、デジタルを活用したCRM戦略とは?

働き方改革やダイバーシティの実現など多様性が重視され、カスタマイズやオーダーメイドという言葉が特別なものでなくなった現代では、マーケティング戦略においても「マス」より「個」を重んじる手法へと切り替えを迫られています。

高度経済成長期を皮切りとした大量生産・大量消費の時代は終わり、顧客それぞれと関係を築き需要を汲み上げるオーダーメイドなマーケティング施策が求められるようになりましたが、自社eコマースでもその傾向は顕著です。こうした流れに対し、電通デジタルでは、カスタマージャーニーに代表されるような「顧客を知る」過程こそが重要だと考えています。

特にBtoCやDtoCビジネスでCRM(Customer Relationship Management)が再注目されている反面、CRMをうまく反映させられないという声も多いのが現状です。本記事では電通デジタル コマースデザイン事業部 CRMプランナー 佐々木大介が「正しく顧客を理解し、継続的に選ばれる仕組み」を紐解きます。

(この記事は、10月25日〜10月29日に開催した「Commerce Week 2021」のセッションの採録です。)

※所属・役職は記事公開当時のものです。

コマースデザイン事業部
CRMプランナー

佐々木 大介

コロナ以降、デジタルを活用したCRMが今後の事業成長の鍵を握る

日本の企業や経済におけるDX化・デジタル化は、コロナ禍以降急速に進みました。実際に物販系のBtoCビジネスにおいて、2019年から2020年にかけてのeコマース化率の伸びが目覚ましいことが経済産業省の調査でもわかっています。

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EC化の加速はコロナ禍が理由であるため、コロナが終息すれば元のアナログな世界に戻ってしまうのではないかという懸念もありますが、「コロナが終息したとしても、コロナ禍前ほどのオフラインメインの状態にはもう戻らないだろう」と佐々木は述べています。

その根拠として、佐々木は「消費者自身、実店舗での購買スタイルに戻ることを躊躇している」という調査結果を挙げています。もちろん、急激に伸びたeコマース市場は成長しきれておらず、不安な面があるのは事実ですが、便利さでは実店舗の追従を許しません。同調査結果でも、消費者の79%がこの先半年でも定期的にオンラインで買い物をするつもりと考えていました。今後もeコマース化が進むことは間違いないと言えるでしょう。

しかし、「eコマース化が進むにつれ、顧客からはさまざまな不満が生じるだろう」と佐々木は警告します。「例えば、オンライン購入で配送を頼むと送料がかかる。実際に商品を目で見たり手で触ったりして確認できない。トラブル対応が面倒など、オフラインでは容易に解決できることが、オンラインでは難しいという課題は残るだろう。

そのため、オンラインだけ、またはオフラインだけを利用するという形には落ち着かず、消費者は利用しやすいチャネルを自由に行き来しながら購買行動を行うようになるはずだ。従って、今後はオンラインとオフラインを合わせた複合的なカスタマージャーニーに適切に対応していく必要がある」と、eコマース市場の今後の立ち位置についても述べました。

オフラインとオンラインにそれぞれの強みはあるものの、顧客体験(CX)についてはお互い改善の余地があります。オフラインでは容易に解決できることがオンラインでは難しい場合や、その逆の場合もあるでしょう。「オンラインでも解決可能なことに関しては、デジタルを活用してCRMを行うことが、今後の事業成長の鍵となるだろう」と佐々木は強く訴えます。

「CRMとはCustomer Relationship Managementの略。つまり、顧客との関係をマネジメントするということだ」と佐々木は述べています。そして、文脈によっても変わってきますが、BtoCやDtoCビジネスにおいては「CRMの目的はLTV(Life Time Value=顧客生涯価値)の最大化」であると佐々木は定義します。これは、顧客を見極め、顧客ごとに適切なコミュニケーションをとり、長期的に良好な関係を構築・維持することで、顧客満足度を高めることができ、その結果として収益が最大化するという流れを指します。

具体的には「顧客が①購買体験やアフターフォローに満足する→②単なる満足にとどまらず、ロイヤルティが高まる→③リピート、定期購入、サブスクリプション、口コミや友人紹介などの行動へとつながり、長期的に企業との関係性が積み重なる→④企業側の収益につながる。企業が得た収益を顧客の購買体験向上のために使うと①に戻り、その企業にしかできない、その企業らしいサービス提供という良いサイクルに入れる。この良いサイクルを積極的に回していくことこそが、CRMにおいて重要なのだ」と、佐々木はCRMが目指すべき流れを下図で提示しました。

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CRMはリピートやLTVが積み重なって初めて成果を発揮するため、短期間では収益に結びつきにくく、半年や1年で結果を判断することはできません。CRMのサイクルを活かすためには、中長期的な視点で収益への貢献を考えていく必要があります。

佐々木はCRM効果小とCRM効果大の場合における収益への影響を、シミュレーション(下図)を用いて説明しました。図を見てもわかる通り、1年ではほとんど変化が見られないものの、2年目にはCRM効果大のほうはぐっと収益を伸ばしています。これが3年、4年と積み重なっていくことこそが、CRMにおける「良いサイクル」なのです。

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「自社eコマースへのCRM導入を成功させるためには、4つのポイントがある」と佐々木は提示します。

CRMを成功に導く4つのポイント

①ありたき姿を描く
②分析によって顧客を理解し課題を抽出
③顧客のカスタマージャーニーを作成し解決策を検討
④データを統合してONE ID化し、ツールを活用

4つのポイントを順序立てて行っていくと、CRM導入における課題の解決につながると佐々木は考えます。それぞれのポイントについて詳しく解説していきましょう。

CRMを成功に導くポイント①ありたき姿を描く

CRMにおいて「ありたき姿(こうありたい、という姿)を描く」とは、すなわち「顧客との関係性をどう構築していきたいか」ということです。つまり、ブランド全体として達成したい目的は何か、目的達成のためにどのような顧客体験を設計すべきか、さらに自社eコマースをどう活用すれば目的を達成できるか、というCRM戦略すべてのベースとなるイメージを持つ必要があります。

佐々木は「総合的なCRM成功のためには、顧客とのタッチポイントを自社eコマースだけで考えるのではなく、実店舗や販売網、店員やコールセンターなど、さまざまなチャネルを含めて包括的に考えなくてはならない」と指摘します。

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eコマースだけに注目しすぎていると、他チャネルからの顧客データを取りこぼしてしまい、結果としてマーケティング戦略が顧客像とズレてしまいかねません。あくまでも、ブランド全体で達成したい顧客体験価値を「ありたき姿」として描いた上で、CRMにとりかかることが重要です。

その上で、達成したい目的や顧客体験の設計にあたり、自社eコマースをどのように活用するか考えると良いでしょう。佐々木は「自社eコマースにしかできない達成目標を考え、自社eコマースならではの商品・サービスを訴求すべきだ」と述べています。実店舗と同じ商品・サービスしか扱っていないのなら、eコマースを使う理由にはなりません。自社eコマースが提供できる顧客体験や、ニーズ・課題の解決を考える上でも、やはりベースとなるブランド全体での「ありたき姿」の設定は重要です。

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CRMを成功に導くポイント②分析によって顧客を理解し課題を抽出

CRM成功のためには、顧客を分析して理解し、課題やニーズを抽出することが必要不可欠です。代表的なeコマースの会員構造では、「見込み顧客」「初回購入」「2回目購入」「リピーター」「優良顧客(ロイヤルカスタマー)」というように顧客は成長していきます。途中で購入を一時休止している「休眠顧客」も一定数存在するでしょう。

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「どの層を活性化すればビジネスインパクトが大きいか考え、活性化すべき層に合わせた施策を打ち出さなくてはならない。そのためには、優良顧客だけを見ていても意味がない」と佐々木は指摘します。例えば、顧客の層に応じて、以下のような施策が考えられます。

顧客層に応じた施策

○見込み顧客・初回購入・2回目購入:会員登録や購入の利便性を高める。アフターフォローが行えているかどうかをチェックする。
○リピーター:定期購入やサブスクリプションの解約率を改善する。会員プログラムを見直す。
○優良顧客:特別なサービスを提供する。
○休眠顧客:コスパの良いアプローチを行う。

顧客を理解するためには、分析手法も重要です。CRMの分析手法は複数ありますが、佐々木はRFM分析やリピート分析の活用方法を例示しました。

RFM分析

最終購買日(R)、購買頻度(F)、累計購買金額(M)の3つの指標で顧客を分類する。

リピート分析

初回購入から2回目、3回目、それ以上など、リピート率や購入の間隔から自社の顧客層を理解する。

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CRMを成功に導くポイント③顧客のカスタマージャーニーを作成し解決策を検討

カスタマージャーニーマップを作成するのは、顧客とのタッチポイントを時系列で洗い出し、購買行動について「なぜ買ったのか」「なぜ買わなかったのか」を把握するためです。

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佐々木は、カスタマージャーニーの検討から課題解決を図るケーススタディとして、ある実店舗も持つアパレルeコマースの例を挙げています。実店舗で商品を見たが購入にまで至らなかったケースで、まずビフォアとして下図のようなカスタマージャーニー(購入フロー)が考えられます。

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上記の購入フローに対し、どのタイミングでどのような対応をすれば良かったのか解決策を検討することが、カスタマージャーニーマップ作成の目的です。

「インセンティブを使うのは楽な方法なので、『もうちょっと安かったらな』の部分でクーポンを発行して済ませてしまうeコマースは非常に多い。しかし、それではCRMとは言えない」と佐々木は指摘します。続けて「『もうちょっと安かったらな』の部分で、顧客がどういう心理状態にあるかまで考えることが重要。単に高いではなく、『値段に見合った価値を感じない』と思っているのかもしれない。ならば、値段に見合った価値を感じてもらうための対策が必要だ」と、顧客の心理状態を深読みして解決策を検討する考え方を下図で示しました。

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カスタマージャーニーマップを作成し、課題をひとつずつ解決していく手法が現在のスタンダードですが、一気に突破するための新しい手法として、佐々木はライブコマースも紹介しています。ライブコマースは中国で人気の手法で、企業と顧客が直接つながるソーシャルプラットフォームを活用したCRMです。

直接つながることで、スタッフや店員がリアルタイムに対応して顧客の疑問・不安を解消したり、顧客は他のオーディエンスの様子を見たり一緒に盛り上がったりできます。日本ではまだあまり行われていませんが、今後はCRMで活用される主流の技術となるでしょう。

CRMを成功に導くポイント④データを統合してONE ID化し、ツールを活用

CRMでは、顧客のデータをバラバラに管理するのではなく、統合して一元化する必要があります。例えば、Web計測ツールを使うとき、ECサイトの会員IDと同一人物かどうかわからなければ、顧客データを追うことができません。また、ブランドサイトとサービスサイトの登録IDがバラバラだと、顧客情報をまとめられず正確な顧客像を描けません。

逆に言えば、顧客データを統合しONE ID化することで、顧客像を正しく描くことができ、カスタマージャーニー分析で時系列を適切に把握することができるのです。Web接客ツールやMAツールなどを使う場合は、あらかじめ顧客データをONE ID化しておきましょう。

顧客データを取得するにあたっては、「デモグラフィック(人工統計学的属性)の情報だけでなく、家族構成や趣味、嗜好、性格、好きなもの、ペットなど、個性と言われるデータこそが重要だ」と佐々木は述べています。自社eコマースの「らしさ」を表現するためには、顧客の性格や趣味嗜好などに合わせたアプローチが重要です。顧客に合わせてコミュニケーションを変えることで、顧客にとって自社eコマースが唯一の存在としてアピールできます。

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電通デジタルでは、ここまで説明した「CRMを成功に導くポイント①〜④」を網羅した、包括的なCRMコンサルティングを行っています。企画や運用部分も含め、成果の出るCRMコンサルティングで、企業の自社eコマースのCRM導入を支援しています。

最後に佐々木は「自社eコマースを立ち上げて実際に運用していくにあたっては、使うシステムやツール以上に、顧客視点の施策や設計が重要。CRMの本質に立ち返り、まずは顧客のことをもっと知ることから始めてみては」と締めくくりました。

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