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2022.04.06

製薬業界が取り組むべきUXデザイン戦略

医療従事者と患者を取り巻く社会・生活環境の変化に合わせて、製薬業界でも、これまで以上に顧客視点のマーケティング戦略へと変革していくことが求められています。本稿ではUXデザインを中心に、課題解決に必要となるアプローチや組織の要件を、CX/UXデザイン事業部 亀和田慧太が紹介します。

※この記事は、2021年11月24日~26日に開催した「DX Conference Vol.1 by Dentsu DX Ground」のセッションを採録し、再構成したものです。


なぜ製薬企業はUXを戦略の根幹に据えるべきなのか

社会の変化やテクノロジーの発達に伴い、医療業界は激しく変化しています。例えば、病院では院内へのスマートフォンやスマート治療室などの導入が進んでいます。製薬企業では医師へのアクセス制限の強化によりMR部署が縮小される一方、マーケティング部門や営業部門から独立した組織としてメディカルアフェアーズが設立されるケースもあります。

こうした環境下、製薬企業が取り組むべきことは4つのレイヤーから捉えられます。中心には「戦略」があり、その外側に「業務」「組織」「人財」のレイヤーがあります。各レイヤーには、マーケティング、テクノロジー、ファイナンスなど、さまざまな分野・領域がオーバーラップしながら複数存在しています。


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製薬企業は何から取り組むべきか? 私どもは、「UX(ユーザーエクスペリエンス)視点での戦略づくり」から取り組むべきだと考えます。そして、そのUX戦略を起点として、UXに関わる業務・組織・人財を整備し、さらに他の領域に波及させていくのです。

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UXを戦略の根幹に据えるべき理由は、今日のビジネス環境においては、①良い顧客体験の提供、②顧客の継続的な利用、③データの蓄積、という3つのループを回し続けることが重要であり、その起点が①になるためです。逆に言えば、顧客との接点で最適なUXを提供できなければ、ブランドや製品は顧客から継続的に使用してもらえず、結果として顧客のデータも溜まらず、さらにUXが損なわれていくという負のスパイラルに陥ってしまうためです。だからこそ、戦略の根幹にUXを据えるべきなのです。

以下、「戦略レイヤー」「業務レイヤー」「組織・人財レイヤー」という3つのレイヤーで多くの製薬企業に共通して見られる課題と、UX視点での解決アプローチを紹介します。

「アウトサイドイン」の発想でカスタマージャーニーを捉える

最初は戦略レイヤーからご紹介します。「UX戦略を進めようとしてカスタマージャーニーを取り入れたものの、なかなか成果につながらない」という声をよく聞きます。

そのもっとも大きな要因の1つは「インサイドアウトの発想のまま」だという点です。「インサイドアウトの発想」とは、カスタマージャーニーの捉え方が「自社視点」のみであるということです。カスタマージャーニーは「アウトサイドインの発想」、すなわち「顧客視点」からも捉えなくてはいけません。「インサイドアウトの発想のまま」という課題は、以下の2つの課題に分解できます。

1.従来型のセグメント理解のままである
2.従来型の購買プロセス理解のままである

これらをアウトサイドインも取り入れた発想に転換するにはどうすれば良いのでしょうか。

「従来型のセグメント理解」というのは、例えば顧客を、HP(病院勤務医)/GP(開業医)、診療科などでセグメンテーションし、各セグメントの市場ボリュームをつかみ、それぞれに最適なアプローチをとるという考え方です。これをより顧客視点に変えるには、顧客の治療や処方のスタンス、患者との接し方など、心理や行動、背景も含めた多面的な理解へと切り替え、ペルソナとして具体的に捉えていく必要があります。


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もう1つの「従来型の購買プロセス理解のまま」とは、カスタマージャーニーの捉え方が「薬剤使用」の文脈に留まった理解になっているということです。薬剤使用のジャーニーでは、薬剤認知から、使用、判定、処方というステージごとに、薬剤を選択してもらうためのバリアー(阻害要因)やドライバー(促進要因)を把握しています。このようなジャーニーの捉え方は、自社製品の課題や機会を理解するという点においては有効ですが、アウトサイドインの発想とは言えません。アウトサイドインの発想で捉えるためには、例えば1日のサイクルや、治療のサイクルといったように、顧客であるHCP(医療従事者)の視点からジャーニーとそのステージを捉えていくことがポイントになります。

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こうしたアウトサイドイン発想も含めた戦略づくりに成功した企業の1つが、中国の平安(ピンアン)保険です。これまで一般的な保険会社は「保険契約」と「請求」のステージのみを捉え、そのタイミングでの接点づくりや改善活動に注力してきました。しかし、平安保険では、顧客視点に立って「保険契約」と「請求」の前後も含めた”人生全体のジャーニー”、すなわち日常で「健康に留意」したり、実際に「病気/ケガ」になったり、「通院/治療」するステージも含めたジャーニーとして捉え直しました。そして、「病気/ケガ」「通院/治療」のステージにおける「なかなかいい医者に診てもらえない」「病院が混雑して順番が回ってこない」といったペインポイントを解消するようなサービス設計を行いました。

具体的には、健康支援機能として歩数に応じたポイントを付与し、ポイント高に応じて医師の紹介やオンラインの健康診断といったサービスを提供しています。また、通院/治療の段階では病院予約の代行や薬の配送もしています。これはほんの一例ですが、顧客視点でUXを捉えることが重要だということがお分かりいただけると思います。


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業務設計は「オムニチャネル型」の発想にシフトする必要がある

業務レイヤーでよく見られる課題として、「カスタマージャーニーをベースに施策を考えているものの、成果につながっていない」というものがあります。

その要因を1つ挙げるとするならば、「マルチチャネル型の発想のままである」という点です。オウンドメディアやメール、MRの活動、セミナー、患者向け冊子など、数多くのチャネル(顧客接点)を独立したものとして扱う「マルチチャネル型」発想では、なかなか成果にはつながりません。1つの企業、ブランドとして全てのチャネルを統合して捉え、医療従事者や患者に対して一貫した体験を提供していく「オムニチャネル型」の発想にシフトしていく必要があります。「マルチチャネル型の発想のままである」という課題は、以下の2つの課題に分けて解決策を検討します。

1.チャネル個別の検討のままである
2.個別断片的なトラッキングになっている

「チャネル個別の検討のままである」という課題に対しては、チャネル全体を俯瞰して設計していくことが有効です。サービスブループリントという手法を使えば、顧客の検討行動全体と照らして、どのチャネルで、どのコンテンツを、どのタイミングで提供すれば、理想的な態度変容につなげられるかを整理することができます。

サービスブループリントの設計においては、「対人」チャネルと、「デジタル」チャネルをいかに組み合わせていくかがポイントです。例えば、情報需要が高く、専門医がいるような領域(例:オンコロジー〔腫瘍学〕)は、今なお「人の接点」が重要であり、MRの接触や、Dr2Dr(ドクターtoドクター)の講演会、セミナーなどのチャネルを中心に据えつつ、それらをデジタルで補完していくことが有効かもしれません。一方、生活習慣病のように、やや情報需要が低く、薬剤自体での差別化が難しい領域の場合は、デジタルチャネルを中心に顧客(医療従事者)との関係性を強化するアプローチが有効かもしれません。


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「個別断片的なトラッキングになっている」という課題についても、チャネル全体最適のアプローチをとります。顧客の一連の検討行動を俯瞰し、各ステージの成果指標を何にするのか整理していきます。製薬業界では、なかなかすぐには成果として表れにくい指標が多いので、遅行指標(成果の後に動く指標。例えば、認知率、売り上げ、NPS®など)だけではなく、先行指標(成果に先立って動く指標。例えば、オプトイン率、メール開封率、ウェビナー視聴者数など)をトラッキング指標に設定することも、施策のPDCAを回す上で大事なポイントです。

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クイックにPDCAを回す組織構造や、個人とチーム両面でのスキル把握が重要

3つ目の組織・人財レイヤーには「UXあるいはDXの専門組織はあるものの、なかなか成果につながっていない」という課題があります。

この要因の1つには「UXは専門家に任せておけば良い」という発想になっている点が挙げられます。この「専門家任せ」の意識を「全員で取り組むべきもの」に転換しなくてはなりません。UX専門チームはもちろんあって良いのですが、戦略担当から現場担当者まで、全社員がUXの素養をきちんと備えている必要があります。この「専門家任せ」という要因は、次の2つの課題に分解できます。

1.組織構造が旧来型のまま
2.ケイパビリティが局所的

「組織構造が旧来型のまま」という課題については、マーケティング部門、IT部門、営業部門、メディカルアフェアーズといった縦割り組織を、機能横断(クロスファンクショナル)なアジャイル型の組織に変え、クイックにPDCAを回せる体制を整える、という解決策があります。

例えば、アジャイル型の組織には「トライブ」「スクワッド」という組織単位があります。スクワッドは最小のチームの単位、トライブはスクワッドを組み合わせて顧客に価値を提供する単位です。つまり、最小単位のチームを複数、横串で束ねることで、機能横断型の組織として施策のPDCAを回し、顧客価値を最大化していくことができるようになるのです。


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もう1つの「ケイパビリティが局所的」という課題については、社員全員がUXの素養を備えられるよう、個人とチーム両方で弱み/強みを把握し、組織全体の底上げを図っていくことが大事です。こうした課題解決のためのアプローチとしては、4つのステップで進めていくことが有効です。

1.個人単位でアセスメントを行い、スキルの強弱を見る
2.チーム単位で重ね合わせ、組織としての強弱を把握する
3.組織・ブランド・チームとしての強化方針を立てる
4.強化方針に則り、個人単位のスキルを強化する


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「小さな成功を少しずつ」積み重ねていく

UXは企業活動の根本に据えるべきであると言いましたが、現状、多くの企業でうまく成果が上げられていません。そうした現状の背景にある課題に対し、本稿では「戦略レイヤー」「業務レイヤー」「組織・人財レイヤー」という3つのレイヤーで、課題解決のアプローチを提示しました。

しかし、ここまで読んで「UX起点で取り組むことの重要性は分かったが、時間もリソースもない」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。これに対する打開策は、「スモールにスタートし、クイックに成功事例を積み重ねていく」ことに尽きます。

電通デジタルは、戦略、業務、組織・人財、それぞれのレイヤーでUXを最大化するためのソリューションを提供することができます。これらを一度に全て、企業全体で取り組むというのはなかなか難しいかもしれません。しかし、どこからスタートしていけば成果を出しやすいのか、スモールスタートを切るポイントの選定から伴走させていただくことが可能です。ご興味がありましたら、ぜひ電通デジタルまでお問い合わせください

亀和田 慧太 Keita Kamewada

CXトランスフォーメーション部門 CX/UXデザイン事業部 エクスペリエンスデザイン第2グループ  グループマネジャー
大手SIer、デザインコンサルティング会社を経て電通デジタル参画。製薬・保険・金融等を中心に、定性/定量リサーチや、サービスデザイン、UIデザイン、組織開発などに従事。HCD-Net認定 人間中心設計専門家。人間中心設計推進機構、マーケティング学会、デザイン学会、サービス学会、各会員。

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