「クリエイティビティ&テクノロジーで実現する最良のCX」と題したセッションを担当した、CXコミュニケーション部エグゼクティブテクニカルディレクター 船井 宏樹は、「CXは、顧客体験や顧客経験価値と訳されるが、具体的にはどういうことか? と感じているひともいるかもしれない」とし、自身がトランペットを購入した時のエピソードをもとにCXをより深くイメージする例を挙げました。
「まず、トランペットが欲しい、と思ってから、ネット検索をしたり有名奏者たちのブログに目を通したり、専門雑誌を読んだり、同じ趣味を持つ仲間に相談したり、YouTubeの動画を見たりもした。
その後、『良さそうだ』と思うトランペットを扱う楽器店に行き、試奏をしてみた。そこで、さらに候補が絞られたが、『お得に買いたい』とか『中古の楽器はないか?』『アフターメンテナンスのサービスはあるか?』などを調べ、最終的に納得いくものを購入し、購入後は楽器仲間にお披露目もした。
この間、FacebookやInstagramなどのSNS、ブログや雑誌、音楽教室や楽器店、楽器の公式ウェブサイト、メルカリなど、オンラインやオフラインの垣根を越えて多種多様なチャネルに触れた」と振り返り、購入先を決めるに至った理由を次のように述べました。
「様々な体験を通して、ここで買いたい、買いたくない、と感じる瞬間があった。バッドエクスペリエンスの一例としては『試奏していいか?』と尋ねるといかにも面倒だ、という反応をする店で、『ここでは買わない』と思ったほどだ。
逆に、フラッと入った楽器店で『吹き方のクセをみるとこちらの方が合っているのではないか?』とアドバイスをくれたり、そのことを含んだ手書きの手紙が届いたこともあった。これはとても気持ちの良い体験だった。最終的に私はその手紙を送ってきてくれた店舗で、そのオフラインでのコミュニケーションがきっかけとなり、購入を決めた」。
このエピソードを披露した締めくくりとして、船井は「テクノロジーやデータを用いたマーケティングを担当する人は、顧客体験を考える上で、ウェブ上での顧客の体験だけでなく、オフラインでの体験も重要だと頭に入れておいてほしい」とし、「顧客は“自分にとって”パーソナライズされた体験を求めているし、そのためにうまくデータを活用してほしい、と考える傾向が見られる」と、CXデザインの勘所を示しました。
この内容は、 Acquia が発表した「期待されるCXの提供:CXトレンド・レポート2020」からも読み取れます。
例えば、調査対象の90%が「オンラインでブランドを選ぶとき、便利で気の利いた体験を期待している」としており、80%の消費者が「ブランド側が自分の探しているものをサジェストしたり、自分の趣味を理解してくれているとよりロイヤルティを感じる」とし、82%が「オンラインでのブランド体験をテクノロジーを使って改善すべきだ」と回答しているとのこと。
この結果を見る限り、顧客は顧客データを有効に活用し、パーソナライズされた顧客体験が提供される方が良い、と考えていると推察されます。
一方で、60%が「自分の嗜好をもっと理解していてもいいはずのブランドが自分を理解してくれていないと感じる」とし、同じく60%が「ブランドは消費者ニーズを予測するなどのより良いことに、個人のデータを使いこなせていない」との回答も得られています。
これらのことから、企業の目下の課題は、顧客のデータ等をCXの向上に使うようDXを進め、顧客が想像する以上のすばらしい体験をもたらす努力をする必要がある、ということだと言えます。
前述を受け、これまで蓄積してきた顧客データを用いてパーソナライズされたアプローチを展開するには、当然ながら、デジタル領域への「ヒト・モノ・コスト」の投資を手厚くする必要があるでしょう。
例えば、チャネルが増加したことで爆発的にコンテンツのニーズは拡大すると考えられますが、制作・管理だけでなく、顧客データをスマートに活用し、顧客それぞれに最もふさわしいコンテンツを出し分ける戦略を立て、実践するには、“人海戦術”では限界があるのは明らかです。
船井は、「施策の“打率”は3割程度と言われている。実施した施策の反応が鈍ければ、すぐに別の施策を展開できるようマーケティング体制を確立しておくことが大事だ。 圧倒的なスピード感で施策を展開するためには、データとコンテンツが有機的につながっていなければならない。未来志向で考えると、柔軟にマーケティング施策を打てるような仕組みを基盤として持つことが不可欠だ」と指摘。このように必要性を感じた時、自社のDXが目指す先とそこに至るまでの優先順位が見えてくる、としました。
最高のCXについて、電通アイソバー(現 電通デジタル)は、「優れたCXはいつも2つの矢印でできている」とし、人の心を動かすMotivationと、何かゴールに向かう時に障壁となることをなくすFrictionlessが同時に達成されることが欠かせない、と考えています。
また、その考えのもと、クリエイティビティとアイデアをCXの原動力とし、テクノロジーとデータでCXをドライブさせるべく、CXストラテジーとマーケティング&コミュニケーション、プラットフォーム&コマースがそれぞれの領域のベストプラクティスを提供し、クライアント企業のビジネスやブランドの課題の解決に向けて取り組んでいます。
その際、最初に取り組むのが、「4Dアプローチ」です。 現状を知る「Discover」、ターゲットの再定義や戦略・施策の方向性、ロードマップを策定する「Define」、どういう課題解決が必要かを見定め施策のアイデアやコミュニケーション戦略を検討する「Design」、実際にプロジェクトを動かしてレポートを分析しPDCAを回す「Deliver」という4つのアプローチを行なうことは、必要な解決策を見出し、持続的にゴールへと進むうえで、非常に重要です。
このアプローチを通して、CXデザインのなかで最も重要な3つの要素のうち、企業にとってどこが不足していて、何から着手すべきか、可視化し整理するというわけです。