多くの企業において、「顧客体験の再定義」や「新サービスのアイデア構想」への取り組みが活発化しています。しかしその一歩先、「どのサービスをどのように開発すれば良いか? どうやって社内を説得してトランスフォーメーションを実現するか?」というフェーズに差し掛かると、さまざまな課題にぶつかり、議論が失速してしまうことが少なくないとの声も聞かれます。
では、サービス開発プロジェクトが構想段階で終わらないように、プロジェクト担当者が把握しておきたい進め方とはどのようなものなのでしょうか? 電通デジタル DX領域 DXディレクション事業部 事業DXグループマネージャー清水正洋と、同CX戦略プランニング事業部 シニアコンサルタント李起俊が実例をもとに解説します。
本稿は2021年9月6日から4日間にわたって開催された「電通デジタルCXトランスフォーメーションウェビナーWeek」のセッションの採録記事です。
※所属・役職は記事公開当時のものです。
まずは、サービス開発プロジェクトが構想から次のフェーズに向かう上での課題を明らかにしておきましょう。
これについて清水は、「新規事業を検討する際、ビジネスの成功確率を上げるためにCPF(Customer / Problem Fit)からSPF(Solution / Product Fit)にかけて、不確実性を取り払う活動を行っていると考えられる。しかし、全てのアイデアが突破できるわけではなく、廃案になるケースも多いと聞く。特に、『構想の具体性が薄い』との理由から、その先に進まないことが少なくない」とし、その理由を以下の4つにまとめました。
1. 経営層、プロジェクトチーム、現場の温度差
経営層は多くの場合、現状の事業課題を主眼としており、投資コストや社内マネジメント体制、専門人材などの人材不足を課題に感じている。一方、プロジェクトを担当するDX推進の実務担当者は、DXに対する自社のビジョンや戦略の欠如、既存事業の存在、サイロ化した組織、新しい業務プロセスの実行力不足、企業文化に課題を感じている。
つまり、お互いに視座や視野が異なるため、議論が成り立ちづらい場合が考えられる。
2. サービスへの期待値に対する認識の差
知の探索と深化のバランスが取れている状態が理想だが、(1)既存事業に焦点が行きがち、(2)短期的な効果を考えがち、(3)顧客との関係性をピンポイントで捉えがち、(4)既存領域のサービサーを競合と捉えがち、というように、何らかの事柄にとらわれて正しい認識の上に立っていない場合が考えられる。
3. 実現性を考慮しない”理想的な体験”をデザインしがち
システムやデータ先行で考えてしまい、リソースやオペレーションの計画が詰めきれていない、あるいは、新しいドメインにチャレンジする場合のノックアウトファクター(法規制、知的財産、税制度など)の検討が抜け落ちており、そもそも検討が間違っているケースも多くある。
4. 体験デザイン後の実装ガバナンスの作り方がわからない
大前提として、”開発プロセスにおけるガバナンスは制度として作るべき”だと言える。しかし、事業創出のプロセスではリソースを外部/内部と分けて捉えたり、目先のタスクで体制を考えたり、また、事業成長のプロセスでは偏ったメンバーで検討しがちになったりするため、プロジェクトを進めていくと逐次課題に直面する場合がある。
「推進可能な」DXに関わるステークホルダー巻き込み方
では、前述のような壁をどのように突破していけばいいのでしょうか?
これについて、李は「これまでの経験を踏まえ、『推進可能な』DXに関わるステークホルダー巻き込み方、『実現可能な』CXを作っていくためにはどうすれば良いか、『実行可能な』専門家のワンチーム体制が組めることの大切さ、という大きく3つの論点を挙げる」とし、まず「推進可能な」DXに関わるステークホルダー巻き込み方を以下の6つに分けて解説しました。
1. サービスを議論する前に「サービスへの期待値」を可視化し、その後、「パーパス」→「MVP」を定義する。
多くの日本企業において、ビジネスの中心はあくまでプロダクトの売上であり、サービスの価値はあまり議論されてこなかった。そのため、新たなビジネスに取り組む際も、「サービスへの期待値」が曖昧なまま進む傾向が少なくない。この場合、たとえ現場のコアなサービス開発者と意思疎通をはかって合意のもと一緒に開発を進めていても、より広いステークホルダーにレビューをしたタイミングで当初の要件とは異なる意見が出てきてしまい、現場が混乱することがある。
これを回避するため、各ステークホルダーにおいて必要な項目をもれなくヒアリングし、それを可視化しておくことが重要である。
2. 経営層やプロジェクトチームだけではなく、マーケ・プロダクト・オペレーションチームまですべてを対象にヒアリングする
サービス開発に慣れていない現場には、ポジティブな意見とネガティブ意見が共存していることが多い。ネガティブ意見を押さえておかなければ以降のトランスフォーメーションは進まないので、事前にプロジェクトチームから社内のイシューをヒアリングするように手配しておく必要がある。
方法としては、各チームへのヒアリングシートを制作し、できるだけ多様な立場の人の意見を汲み上げてまとめるように努め、この取り組みを通してヒアリングの相手側に「一緒に作っていく」という認識を持ってもらい、将来的に関連するチームも含めて広くリレーションを作っておくよう振る舞うことが大切である。
3. 定期的な「ステコミ・ワークショップ・共有会」を実施し、異なるレイヤーのステークホルダーとコミュニケーションする
異なるステークホルダーに対してコミュニケーションすることは何度強調してもし尽くせないほど重要。異なるステークホルダーのレイヤーに合わせて、それぞれのコミュニケーションプランが必要だと考える。
その際に意識すべきことは、コミュニケーションの相手が、「トランスフォーメーションに参加している」「自分の意見が反映される」という心境になるよう努めること。トランスフォーメーションが成功するためには、完璧な計画より「現場のマインドの変化を促すこと」が重要だと考える。
4. 顧客起点+カスタマイズされたフィージビリティスタディの実施
顧客起点でのサービスデザインが大事なことは言うまででもない。しかし、「顧客起点のサービスなので実装しよう!」という声がけだけではなかなか前に進まない。業界や社内のイシューに合わせてカスタマイズは必要だが、一般的には「市場性・ユーザー受容性・競合優位性・オペレーション構築のしやすさ・法規制の厳しさ」に対処する必要がある。
5. クイックでリアルなプロトタイピングの実施
ここでの「リアル」とは、「具体的な機能」「使用シーン」「ビジュアル」を定義し、「疑似体験」させることを意味する。そのためにプロトタイピングを示し、各ステークホルダーそれぞれに共感できるかをヒアリングすることにより、精緻なサービスデザインが可能になり、各ステークホルダーへの説得力も高まると考えられる。
プロトタイピングの検討は、UI/UXチームに頼りがちだが、実現性を考えると「マーケティングチーム、UI/UXチーム、ビジネス戦略チーム」が関わる必要があると考える。
6. ROI シミュレーションを議論、必ず実施する
ROIを議論すると、サービス開発の「夢」だけでなく「現実」が見えてくる。例えば、「この事業が黒字化するためには中長期的な観点が必要」「コンテンツ開発は外注した方がリーズナブルである」などがそれに当たる。ROIの結果には「意外性」をもたらす必要はなく、「納得性」が必要である。
「実行可能な」専門家のワンチーム体制が組めることの大切さ
次に李は、3つのポイントに分けて、「実行可能な」専門家のワンチーム体制が組めることの大切さを次のように解説しました。
7. ベーシックな体制は「リサーチ+サービス・UI/UXデザイナーに加えて、ビジネスデザイン+IT・システム+法務」
「実行可能な」体制を組んでいくためには以下の機能は必須となる。
クライアント社内の責任者が必要なところは、ビジネス・IT/システム・法務だが、各分野の専門性と同時に自社をしっかり理解していることも重要。この体制を構築することにより、電通デジタルのような外部パートナーがプロジェクトを離れた後も内部にプロジェクトが「定着」しやすいと考えられる。
8. ワンチームでプロジェクト企画時に編成、出戻り+引継ぎコストを最低限にする
7で示したベーシックな体制は頻繁にコミュニケーションを行なうことが求められ、ワンチームとして編成する必要がある。特に、キックオフの際には全メンバーが集まり、目的意識を共有することが欠かせない。各チームリーダーは、PM定例会に定期的に参加することでイシューを共有し、“出戻り”を最低限にするよう取り組む。
いざプロジェクトを検討する際には、各部署の「業務」ベースで「変わるところ」を共有するのではなく、「顧客」ベースに「体験向上のためにできること」を共有する。これによって「顧客」中心に、業務上できることを考える「Up-Down」の思考を促すことになる。また、そうすることで、プロジェクト参画へのモチベーションが上がり、最初のプランの実現が難しくなった場合、違う切口での施策案が自発的に出てくるような実行可能性が高まると考えられる。
9. 後続フェーズの体制はロードマップにて提示。構想フェーズでは、それが議論できる専門家チームを編成する
後続フェーズには、プラットフォーム構築チーム、AIチーム、データ分析チーム、マーケティング・コミュニケーションチーム、コンテンツ制作チームなど、案件によって多様なチームが求められる。どのような体制が必要であり、どう人材を差配できるかを示す必要もある。ただ、構想フェーズでそれが議論できるチームであれば十分でもある。
サービス開発に慣れていない企業ほど、後続フェーズのためにどのような人材・スキルセットが必要で、どのようなパートナー企業に相談すれば良いかわからない場合が多いと考えられる。選定においては、専門性に加えて、妥当性、客観性、連携のしやすさ、多様性が重要なポイントとなる。簡略に伝えると、プランニングから実装までの機能があり、実績があり、連携可能な体制を組むことができ、違うタイプの人材を招くことができるか? ということを指す。これによりプランの説得力と実行性が高まる。
構想フェーズで終わらせない! ビジネスにコミットするサービス開発を目指すために!
最後に清水と李は、以下の図にてまとめを示し、「電通デジタルでは、構想フェーズで終わらせないサービス開発のサポートを続けてきた。ビジネスにコミットするサービス開発を目指す上での相談や、実際に課題解決のパートナーを選定しているという場合には、力になれるはずだ」と締めくくりました。
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