2020.09.11

eコマースのニューノーマルを考える〜体験価値を提供するコマースとは〜

顧客の価値基準が商品やサービスだけではなく「体験」中心へと変わっている現代、いかに上質な顧客体験(CX)を提供できるかが企業の競争優位性を左右するようになっています。 加えて、新型コロナの感染拡大とその対策に端を発する「新しい生活様式」へのシフトは、コマースのあり方そのものを大きく変えようとしています。顧客は、店舗やデジタル上で、これまでとは違う体験を求め始めています。 このような変化の兆しに対し、企業は、新たな視点で「いま求められている体験価値は何か?」考え、実践していかなければなりません。 では、変わりゆく状況の中で、消費者は何を考え、どのような行動をとっているのでしょうか? また、先進的な取り組みを進める企業はこの状況にどう適応し、どうビジネスの成功に結びつけているのでしょうか? 電通アイソバー(現 電通デジタル)と株式会社セールスフォース・ドットコムは、「eコマースの “ニューノーマル”を考える」と題したウェビナーで上述のテーマについて、最新の事例を交えて考察しました。

新型コロナは社会をどう変えたか?

ニューノーマルを考えるにあたり、まずは新型コロナが私たちの社会やビジネスにどれだけ影響を与えているか、把握しておきましょう。
「eコマースのニューノーマルを考える」と題したパネルディスカッションで、電通アイソバー(現 電通デジタル) エグゼクティブプランニングディレクター口脇 啓司は、いま起きている現象について、株式会社ローランド・ベルガーが発表した「新型コロナウイルス 生活者の価値観・ 消費行動・働き方は どう変わるか」を示して以下のように整理しました。

今日、世界規模での経済停滞や外出制限による自粛等が続いていることは実体験としてほとんどすべての人が理解できるでしょう。この状況により、「価値観にも変化が起こっている」と、口脇は指摘します。

例えば、安全・安定志向、節約志向、本質追求志向、イエナカ充実志向、家族志向、社会協調志向、といた意識の変化はその代表的なことです。また、こうした変化は行動変化にも波及しています。特に、自身の消費行動や働き方の変化、移動への意識や他者との距離の取り方にについて振り返ってみると、より実感をもって理解できるはずです。

口脇は、
「例えば仕事をするにしても、リモートワークが普及したので『1時間のために移動しなくても自宅でできる』など、出張や出勤の機会すらも減ってきている。また、オンラインショッピングやデリバリーの活用、オンラインで飲み会を開くなど、リモートが生活行動に大きく変化を及ぼしている。ライフスタイルが変わり、それによって価値観が変わり、行動にも変化が起きている、ということだ」と、現状の変化を読み解きました。

一方、ビジネスの側もこの変化に徐々に対応し始めているようです。

MarkeZine RESEARCHが5月15日に示した調査レポートによると、「新型コロナで売上変動があったものの新たなビジネスチャンスが生まれた」と考えているマーケターは、600人中30人に及ぶとのこと。そのほかの項目からも、マーケターは昨今の状況に対して危機感を覚えながら適応し始めている、と言えそうです。

実際に、アパレルメーカーがTシャツとマスクの柄を合わせたアイテムを販売したり、雑貨店がモバイル端末等を活用してオンライン接客しながらリモートショッピングできるような取り組みを始めたり、ドライブスルー形式で商品を購入できる八百屋が誕生するなど、ニューノーマルになりそうなアイデアが誕生しつつあります。


消費者の日常行動の変化と企業によるコミュニケーション

前述のように社会全体の意識や行動が変化し、それに企業が合わせつつある今日。消費者の日常の行動を改めて把握し直すことは、新たなCX(顧客体験)を考える上でも非常に重要でしょう。

特に、外出自粛下において、企業と消費者がつながる場として積極的に活用されたソーシャルメディアの利用動向に目を向けることは有益です。

アライドアーキテクツ株式会社が調査したところによると、新型コロナウイルスの感染拡大を防止するために行なわれた外出自粛要請の間、ソーシャルメディアの利用時間は34.5%増えた、とのこと。
在宅時間が長いため、単に友人とつながるためだけでなく、著名人やスポーツ選手などのエクササイズTipsやエンタメコンテンツの配信が興味をひいたと想像されます。

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こうした環境下で企業側が気を付けたいのは、「多くの人がソーシャルメディア経由で情報を得ているので、企業から発信する情報は慎重に。間違いはあってはならないことだ」という意識です。その理由は、以下のように挙げられます。

【ソーシャルメディア経由のコミュニケーションで、顧客と企業のエンゲージメントが上がった例・下がった例】

●支持が得られた例

  • シャープ株式会社やトヨタグループがマスクや医療機器など、いま足りていないものの製造に乗り出した
  • 顧客への情報開示をきちんと行った
  • エンタメ関連企業が外出自粛中に消費者に楽しみを提供するコンテンツを無償配信した
  • さまざまな企業が暮らしに役立つ情報(料理、エクササイズ、衛生管理の方法など)を提供している

●支持を失い、場合によってはネガティブな反応を誘発させた例

  • 外出自粛にもかかわらず、旅行や店内での飲食を促すダイレクトメールやクーポンが何度も届く
  • サイト上で営業時間の変更等の情報が表示されていない
  • 月額サービスの休会希望など、顧客に耳を傾けようとする姿勢をまったく見せない
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上記を踏まえ、電通アイソバー(現 電通デジタル)のプラットフォームコンサルティング部 部長坂 祥明は、「ソーシャルメディアは有益なツールだが、適切なコミュニケーションをしなければ顧客に対してマイナスの印象を与えてしまう。状況が変わっているなかで、企業はソーシャルメディアの利用についても再考しなければならない」と、指摘しました。


eコマースへの投資〜本当に商機があるのか?〜

ソーシャルメディアを介して顧客との接点を保つことは、企業にとって極めて重要です。しかし、それと同時に、企業内でのeコマースの立ち位置を考え直すことは、経営戦略としても欠かせないでしょう。そうしたことから、現下、「eコマースへのシフトが急務だ」と考える向きが少なくないはずです。

しかし、目の前の問題の打開策として急いでこれに取り掛かることは、必ずしも良い成果をもたらすとは限らない場合もあります。このことについて、EC化の現状などを踏まえて見ていきましょう。

経済産業省が発表した平成30年度「電子商取引に関する市場調査」報告書」 によると、BtoC-EC化率は2010年以降、ずっと右肩上がりだったと分かります。また、新型コロナの影響でこの伸び率は引き続き上がると想像できるでしょう。

ただ、2018年の段階では、一般的な業種で見るとEC化率は6.22%。これでは、外出自粛の影響で来店数が減った店舗の売り上げを押し上げる存在としてeコマースが果たせた役割は限定的だったと考えられます。
例えば、比較的EC化率が高いとされるアパレル業界でも、EC化率は12.96%に止まっており、仮にEC利用率が200%伸びたとしても、実店舗の売上減少を補填するまでには至らないだろう、というわけです。

このような状況に対し、口脇は、「緊急事態宣言の解除以降、徐々に店舗の営業が再開し始めたが、生活者が以前のように店舗を訪れるようになるまでにはもう少し時間を要するだろう。そうなれば、eコマースの需要は引き続き高まるだろうし、EC化に着手する企業も増え、EC化率も向上すると考えられる。また、企業にとって、顧客層の拡大とピークタイムのシフトという2つの要素がEC化を後押しすると考えられる」としました。

eコマースを利用する層の拡大は、三井住友カードの決済状況から読み解くことができます。三井住友カード株式会社が5月7日に発表した「コロナ影響下の消費行動レポート」によると、これまでeコマースを利用してこなかった高年齢層が実店舗よりeコマース利用にシフトしているのが以下の図でもうかがえます。

上図を見ると、1〜3月の決済利用を比較すると、男女ともに20〜30代に比べ、5〜60代の伸びが大きく、スーパーマーケットでの利用も伸びてはいるもののeコマースの伸びが大きいことが分かります。

一方、eコマースの利用時間のシフトについては、株式会社Virtusizeが4月9日に発表した調査レポート「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)における国内ファッションECへの影響」で示されている内容を見ると明らかです。

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(出典:株式会社Virtusizeが4月9日に発表した調査レポート「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)における国内ファッションECへの影響」 )

同レポートでは、eコマースの利用について、「2019年は21時以降にピークが訪れていたが、2020年は19時ごろがピークになっている」と示しています。この変化は、在宅勤務のため夜に自由に時間を過ごす機会が増えているためだと考えられるでしょう。

これに対し、企業は、これまでのように実店舗にスタッフを配置して接客するだけでなく、eコマース利用者に向けて実店舗と変わらないオンライン接客サービスを提供できるようにすることで、顧客の満足度を高めることができるかもしれない、との見方もできるでしょう。


オムニチャネル化は企業の生き残りに向けた必須施策になる

ここまで示した通り、社会変化の中身を見てもeコマースへのコスト・リソースの配分は経営戦略上、検討の余地があると考えられます。しかし口脇は、「実店舗の休業で売り上げが落ちたことから、多くの企業はeコマースシフトを進めようとしていると思う。だが、それで『売り上げが上がるのか?』との疑問を投げかけられることは少なくない」と言います。

確かに、限られた予算に対し、収益性がどれほど見込めるのか想定して予算配分を組み替えることは、企業にとって今後を左右することだと言えます。経営陣は、確実さを重視したくなるはずです。

これに対し、口脇は、新型コロナ問題が起こる前の2018年に発表された東海大学総合社会科学研究によるレポートを示しながら、次のように語りました。

「eコマースも含めて顧客とのタッチポイントを増やす『オムニチャネル化』の進んでいる企業では、eコマース事業の売上高の伸び率は大きく、当然EC化率も高い。一方、オムニチャネル化していないビジネスは苦戦する、という傾向もある。オムニチャネル化は変化する顧客ニーズを取り込むにおいてマスト(must)だと言えるだろう。
オムニチャネル化への注力と施策の展開は、実店舗をひいきにしていた顧客にeコマースも利用するよう促すこともできるだろう。また、複数チャネル利用顧客のLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)は高いと言えるので、結果的に総顧客単価が上がることが期待できる」。

つまり、eコマースへの集中シフトではなくオムニチャネル化こそ重要であり、それを実現した先では顧客情報や購買履歴などのデータ活用が欠かせない、というわけです。

この見立ては、セールスフォース社が四半期ごとに発表しているショッピングインデックスからも推察することができます。

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株式会社セールスフォース・ドットコム 伊東 祐治氏は、上記のQ1・Q2のレポートを示しながら、「特徴としては、コロナ禍において買われているのが、ホームヘルスビューティ、ラーニング、子供用知育玩具などのおもちゃ、ヨガウェアなどアクティブ系のアパレルだったようだ。一方、ラグジュアリーアパレルが減少傾向だったと分かる。
しかし、Q2のレポートからは、下落傾向だったラグジュアリー系も伸びていることが分かった」としました。

さらに、カートへの投入率を比較しながら、「Q1はStay Homeで時間に余裕があったので欲しい商品をeコマースで見付けたらカートに入れる、という行為を繰り返していたのかもしれない。ほか、様々な考察ができそうだ」とし、今後の変化に適応するためにもこのような情報をまずは手に入れることが重要であることを示唆しました。


ニューノーマルではeコマースも実店舗も重要度が増す

では、ニューノーマルの社会において、eコマースをはじめ全体像をどのようにデザインすればいいのでしょうか?

この問いに対し、口脇は次のように述べました。

「オムニチャネルの観点から言うと、ニューノーマルでも、『eコマースにのみ注力するのではなく、店舗の価値を上げていくという機能をeコマース側にも実装する必要がある』と考えている。
コマース全体を最適化するために何をしたらいいか? と考えている企業には、今後の方向性を考えるにあたり、ぜひ海外の先進事例に注目することをおすすめしたい。その中には、技術的に遠い将来に実現するだろうと考えていたものも含まれるかもしれないが、今こそ思い切ってそれを取り入れる機会になるのではないだろうか? 電通アイソバー(現 電通デジタル)では、まずは海外をはじめとする先進事例を知りたいというニーズに対応するため、Isobar全体でのベストプラクティスの共有を強化している」。

一方、伊東氏は、
「今日、BOPIS(Buy Online Pick-up In Store:eコマース経由で購入し、実店舗で受け取る)はコマースのニューノーマルとして注目されている取り組みのひとつだ。わざわざ実店舗に取りに行く理由は、『早く受け取りたいけど、他者とはなるべく接触したくない』という心理が働いているのだろう。米国では、この仕組みを提供しているか否かで、5月のレベニューの差が4倍ほど出る事例もあった。
このようなニーズをいち早く汲み取り、それを実践するといった柔軟性は大切だ。また、これを実現する仕組みを構築する上で、これまでは実店舗の“片隅”のような存在だったeコマースが、これからは同じくらいインパクトのある存在になると見通される」としました。

(出典:Salesforce Q1 Shopping Index)
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今後、しばらくの間は「with コロナ」の社会が続くと考えられます。
そうした時、「接触を減少させたい。ソーシャルディスタンスを保ちたい」といったこの時代ならではの顧客の心理に応えるために、店舗レイアウトを変えたり、BOPISを受け入れたり、といった多角的な投資をする必要が出てくると考えられます。そのため、企業によっては、コマース全体のデザインを根本から見直すよう迫られる場合もありうる、と言えます。


理想とのギャップを明確化してニューノーマルに適応するために

では、ニューノーマルにおいて、顧客に対して最良のCXを提供するコマース環境をどのようにデザインすればいいのでしょうか?

口脇は、
「実店舗とwebをどのように連携させるかを考えることが第一だ。オムニチャネルプラットフォームと呼ばれる『在庫データの一元化、顧客データの一元化、従業員評価の整備』を基盤に、その上で、コロナに合わせた価値観に対応するコマースのあり方を実現する必要がある。
逆に、『実店舗とwebの在庫管理が分かれたままでいる、実店舗とweb上で顧客データが連携できていない、web上のマイページに実店舗での購入履歴が反映されていない』となると、顧客はサービスが良くないと感じてしまうかもしれない。データの一元化は最良のCXを提供するにあたって要になる」とし、次のように締めくくりました。

「オムニチャネルプラットフォームが成立すれば、web上で店舗在庫を確認したり、BOPISも展開できるだろうし、実店舗でもeコマースでも欠品をできる限り回避して機会損失を避けることもできるだろう。さらに、eコマース側で実店舗のスタッフによるweb接客をしたり、実店舗が販売チャネルとしてだけでなく、リッチな接客をする場所であったり、配送拠点になったりする可能性もある。実店舗でショールーミングし、eコマースで購入して、といった相互送客の可能性も拡がってくるだろう」。

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これを受け、坂はセミナーの総括として次の3点を挙げました。

【「eコマースのニューノーマルを考える」まとめ】

  1. 消費者と「適切な」コミュニケーションをとることは今後さらに重要になってくる
  2. オムニチャネルへの対応は新規市場開拓ではなく、もはや企業の生き残りに向けた必須施策に
  3. eコマースと実店舗の境界を溶かすためにデータ・人材・プラットフォームの見直しが急務

上記3つは、単なる店舗体験のデジタルシフトを目指して個別に行なうものではありません。
ブランドと消費者のエンゲージメントを実現するための最適なCXのプランニング、そのために必要なソリューションの導入といった、コマース全体の再デザインを行なうことを意味します。

電通アイソバー(現 電通デジタル)では、そのような基本戦略の策定から、最良のCXを提供するための基盤となるプラットフォームの構築、実際の施策展開と改善など、トータルでのサポートを行ない、クライアントとともに業界標準を大きく上回る成長率での売上向上と顧客満足の獲得を可能にするプロジェクトを展開しています。

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