2021.12.14

企業視点から顧客視点への変革。ヘッドレスアーキテクトが実現するeコマースの新しい顧客体験とは

デジタル技術の発達やインターネット回線の高速化、情報端末の進歩など、IT関連技術の発展により、企業と顧客との接点は多様化・複雑化しています。例えば、キャッシュレス決済やセルフレジ、デジタルサイネージの活用など、実店舗では購買体験の進化が見られます。

店舗DXに代表されるように、現代ではデジタルとリアルの垣根を超えたシームレスな顧客体験が求められる一方、eコマースにおける購買体験は登場初期からほとんど進化していないのではないでしょうか。電通デジタルでは、デジタル時代に融合していくために、顧客体験全体を通じた「生活者視点のコマース改革」が必要だと考えています。

では、顧客体験を起点とした“一歩先”のeコマース体験とはどのようなもので、実現のためには何が必要なのでしょうか。昨今話題となっている「ヘッドレスアーキテクト」にも触れながら、電通デジタル ビジネスディベロップメント本部 エグゼクティブソリューションディレクター 船井宏樹が語った内容をご紹介します。

(この記事は、10月25日〜10月29日に開催した「Commerce Week 2021」のセッションの採録です。)

eコマースの常識は、企業視点ではもはや非常識

数年前から、大企業を中心にデジタルトランスフォーメーション(DX)推進の大きな波が来ています。経営層からトップダウンで組織ぐるみで進めていくのと同時に、現場でもIoTやマーケティングに向けたデータ統合、パーソナライゼーション、サブスクリプションなどのデジタル化、デジタル専門部署の創設など、個々のテーマに分かれて業務ごとにDXを進めています。

DXでよく聞かれるのが「顧客体験」(CX)という言葉ですが、オウンドコマースにおいても顧客体験は重要です。2020年から続くコロナ禍で急速に進むデジタル化に追いつこうと、とにかく急いでオウンドコマースを立ち上げたい、人気があって使いやすいeコマース製品を使いたいといった相談が多いのですが、「eコマースを考える前に顧客体験の観点から、まずは実店舗に目を向けて見てはどうか」と船井は問題提起しました。

「実店舗では買い物の後、レシートに商品の引換券や自分の買い物に応じたクーポン券が印字されていたり、セルフレジや無人型キャッシュレス店舗で決済の時間短縮ができるようになったりしている。他にも、デジタルサイネージがタッチパネル化して店頭の商品在庫確認に利用できたり、店舗では3Dスキャンによる採寸のみを行ってモバイルから注文を行うことで余計な在庫や人手をカットしたりするなど、実店舗での購買体験は顧客が便利で快適と感じられる新しいステージへと進んでいる。

一方、eコマースでもデジタルテクノロジーの進歩とともにレコメンド技術が高度化し、おすすめ商品の関連性が改善されたり、静止画だけでなく動画による商品説明が増えてきたり、AR・VRなどを利用して新しい商品プレゼンテーションを行ったりしている。しかし、これらは売り方ばかりが進化したもので、新しい購買体験としての顧客体験は生み出せていないのではないか。eコマース分野では企業視点・売り手視点が先行するあまり、実店舗と比べて顧客視点・買い手視点が抜け落ちているのではないか」。

さらに船井は、eコマースにおける売り手先行の現状について、昨今新たなインフラのひとつとして定着しつつあるSNS上でのエピソードを例に、こう述べました。

「SNSでしかつながっていない友人は、もはや決して珍しいものではない。しかし、SNS上の友人にプレゼントを贈りたいと思っても、現在のeコマースでは①商品をカートに入れて注文画面に行く→②届け先住所を入力→③決済方法入力というプロセスが常識として根強いため、住所や本名がわからない相手にはプレゼントを贈れない。つまり、買い手の常識と売り手の常識にズレが生じている」。

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また、eコマースが顧客の利便性・快適性を度外視しているエピソードとして、以下のようなケースも挙げました。

「テレビの情報番組を見て、美味しそうなお取り寄せグルメを食べたいと思う。しかし、検索してみるとアクセス過多でつながらない。せっかく顧客との接点が生まれたにも関わらず、売り手側が自らビジネスチャンスを潰している」。

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つまり、eコマースにおけるデジタルテクノロジーの進歩は「知る」「検討する」の範囲にとどまっており、ユーザーの「買う」というフェーズはほとんど変わっていないと考えられます。

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eコマースに新しい顧客体験を生むには顧客視点で設計すべき

「eコマース分野では企業視点・売り手視点が先行するあまり、実店舗と比べて顧客視点・買い手視点が抜け落ちているのではないか」という前述での問いかけに対し、eコマースでイノベーション(新しい顧客体験)を生み出すためには、売り手側に「顧客体験・顧客視点」という新しい視点のアプローチが必要だと、船井。さらに、eコマースを立ち上げる際に既存のeコマース製品のツールにパッケージごと頼ることは、eコマースの「購買プロセスの常識」にも頼ることであり、得策ではないとも語りました。

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これを踏まえ、「オウンドコマースを立ち上げる際には、あくまでもユーザーの買いやすさや利便性など、顧客体験を考えて設計するべきだ」と船井は述べています。例えば、前述の「SNS上への友人にプレゼントを贈りたい」というエピソードからは、以下のような購入プロセスが考えられます。

「①カートに商品を入れる→②決済→③SNSを通じて届け先に住所を入力してもらうという購買プロセスであれば、自分自身は相手の本名も住所も知らなくても、商品を相手に届けられる。個人情報開示に心理的障壁が高いSNS時代ならではの購買体験を提供できるだろう」と、顧客視点に立って購買プロセスを入れ替えることで、全く新しい顧客体験を生み出すとともに、SNS時代の常識に対応できることを示しました。

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前述のお取り寄せグルメのエピソードに対しては「店舗にたくさんの人が並んでいると考えればいい」と船井。「店舗に行列ができているのを見たら、並ぶかどうかは顧客が選べる。これと同じように、待ち時間の目安を情報として可視化したり、待ち時間を楽しみに変える動画などのコンテンツを用意したりすれば、ユーザーのストレスが軽減される」と提案しました。

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優れた顧客体験を持つeコマースは2つの矢印でできている

上記のように、これからのeコマースに必要なのは顧客体験ということがわかりました。さらに一歩進んで「優れた顧客体験」を考えるためには、「心を動かす横向きのMotivation、心理的障壁をなくす下向きのFrictionlessという2つの矢印が重要だ」と、船井は下図を用いて考えを述べています。

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前述のSNS上のエピソードを例に挙げると、「お世話になっている友人にプレゼントを贈りたい」という心の動きがMotivationの横向きの矢印にあたります。しかし一方で、「本名や住所がわからず、これまでのeコマースの方法ではプレゼントを送れない」という障壁があります。そこで、障壁をなくすために「住所や本名がわからなくても、プレゼントを送れるシステムを作る」ということがFrictionlessの下向きの矢印です。

「最適な顧客体験を生み出すためには、まず適切なカスタマージャーニーを検討し、その上でツールを検討すべき」とも船井は指摘します。最新のテクノロジーが自動的にユーザーにとって最適な顧客体験を作ってくれるわけではなく、その設計を行うのが売り手側やマーケター側の役割であり、設計に合わせてツールを選ぶべきなのです。


eコマースの柔軟な顧客体験を実現するヘッドレスアーキテクト

イノベーティブなオウンドコマースの構築には、実現すべき顧客体験をもとにした設計が必要です。そして、従来のeコマースのシステム制約に引きずられないような設計を行うとともに、設計に沿ったツールを使わなくてはなりません。

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これまでのeコマースとは異なる柔軟性を持ち、最適な顧客体験を実現できるソリューションとして、「ヘッドレスアーキテクト」という考え方があります。「ヘッド」とはeコマースにおけるフロントエンドのことで、顧客の目に見え、顧客と直接的に関わるタッチポイントのことです。

従来のeコマース(下図左)では、「CMS」「マーケティング」「eコマース」などのタッチポイントごとにフロントエンドシステムが存在し、顧客の見えないところで様々な処理を行うバックエンドシステムと個別につながっています。各タッチポイントはフロントエンドシステムが提供できるサービスしかできず、顧客は各タッチポイントとそれぞれコミュニケーションする必要があります。

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しかし、「ヘッドレスアーキテクト」(上図右)の考え方を用いると、「顧客とシステムの間にヘッドレスソリューションが割って入ることで、タッチポイントにおける顧客体験と、フロントエンドシステムからバックエンドシステムまでのインフラ技術を分離できる」と船井は提言します。つまり、顧客はヘッドレスソリューションとのみコミュニケーションすればよく、快適性・利便性が大きく向上するのです。

フロントエンドシステムはそれぞれヘッドレスソリューションと連携しますが、フロントエンドシステムとバックエンドシステムの連携は従来と変わりません。ワンクッションとしてヘッドレスソリューションが顧客との間に入ることで、各システムができることだけにとどまらない、柔軟な顧客体験の設計ができるようになります。

ヘッドレスソリューションの一例として、電通デジタルが提供する「Kirimori(キリモリ)」を挙げた船井は、「マーケティングコミュニケーションとテクノロジーが融合したところに、顧客体験が存在する」と述べ、電通デジタルではこのような考え方から全く新しい顧客体験を提供するオウンドコマースの構築を支援していると説明しました。

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続いて船井は、顧客体験を的確に設計し、具現化するためのアプローチとして「4D」を紹介しました。4Dは以下の4つのSTEPに分かれています。

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  1. Discover(発見)
    顧客の変化やブランドのビジョン、外部環境を把握したり、現状の顧客体験をアセスメントしたりするフェーズ。マーケティングフレームワークで言えば3C分析やPEST分析に該当し、現状を把握した上で次の「Define」につなげていく必要があるため、土台として重要。
  2. Define(定義)
    今回紹介した「顧客体験の設計」の前段階としてのフェーズ。CXアイデンティティや目指すべきC顧客体験の全体像を定義し、顧客体験へのロードマップを規定する。マーケティングフレームワークで言えば4C分析やSTP分析に該当し、「Discover」を踏まえた上で目指すべきゴールや戦略を決める、オウンドコマース構築において最も重要なフェーズ。
  3. Design、Develop(設計、開発)
    実際に顧客体験を設計・開発していくためのフェーズ。「Define」に沿ってタッチポイントやプラットフォーム、データ、KPIなどを設計・開発していく。この時点で、ローンチ後にはどのように実行し、PDCAサイクルを回していくかも設計する。
  4. Deliver(実行)
    顧客体験をローンチ、さらにグロースしていく段階。実行段階では、思い通りの顧客体験が提供できたか、よりよい顧客体験のためには何ができるかを考え、PDCAサイクルを回していくことが重要。

 

そして最後に、「電通デジタルでは4つのDを通じて、企業と顧客の関係をどう描き、どう具体的な実装や開発に落とし込み、どう実行・運用していくかというように、包括的に顧客体験を作ることが重要だと考えている。企業と生活者の間によりよい関係を作ることを目的として、デジタルを総合的かつクリエイティブに活用し、企業成長のパートナーとして挑戦していく」と締めくくりました。

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