地方銀行がこれからも顧客に選ばれ続けるには、顧客に関するオンオフの情報を統合したCDP(顧客データ統合基盤)の活用が必要です。地方銀行特化型のCDPソリューション「f-DOMA」を使い、顧客データの統合と活用を短期間・低コストで実現する方法を、デジタルインテグレーション事業部 シニアアーキテクト 大西祐也が紹介します。
※この記事は、2021年11月24日~26日に開催した「DX Conference Vol.1 by Dentsu DX Ground」のセッションを採録し、再構成したものです。
※所属・役職は記事公開当時のものです。
近年の銀行業界を取り巻く環境の変化には、大きく3つのポイントがあります。
①従来型ビジネスの収益減少
低金利の影響で"利ざやビジネス”の収益が減少し、この10年間、地方銀行64行で約4000億円の業務純益が減少しています[1]。資金を調達して融資を行う従来の"利ざやビジネス”だけでは、もはや収益改善は難しいと考えられます。
②来店顧客の減少
インターネットバンキングの普及に加え、コロナ禍の影響により、来店する顧客数が減少しています。支店の統廃合が加速度的に進んだこともあり、対面で顧客へアプローチし、商品を薦めることが急激に難しくなっています。
③ポイント経済圏による顧客の囲い込み
金融業以外の会社が中心となり、ポイントプログラムや統一会員IDをベースに、経済圏を構築しつつあります。これらの経済圏は、インターネットとの親和性の高さやブランド力を背景に、銀行や保険などの金融事業にも参入しており、既存の銀行と顧客の奪い合いが生じています。
銀行リテール業務の3つの課題
こうした銀行業界を取り巻く大きな変化に伴い、銀行リテール業務もまた新たな課題を抱えるようになりました。
①顧客ニーズの把握
従来の“利ざやビジネス”以外に、新たな金融サービスの開発・提供が求められています。新たなサービスを開発するには、顧客の情報を捉えて、ニーズを深く理解し、新たなサービスの種とすることが必要です。
②新しいチャネルの創出
店舗が減少し、対面での商品アプローチができない状況下で、店舗以外のチャネルを創出・整備する必要があります。ただし、重要な商談は従来どおり店舗でのコンサルティングを望む顧客が多いため、デジタルシフトを進めつつ、効果的な顧客接点を効率的に実現することが不可欠です。
③顧客への継続的なアプローチ
インターネットを主戦場とした新規参入銀行との顧客の奪い合いが激化する中で、従来の銀行側の課題は顧客へのアプローチが単発的であることです。個々の商品が魅力的でも、プロダクトアウト(売りたい商品を売る)的な訴求が中心で、顧客起点でのアプローチができているとは言えません。顧客を理解し、顧客目線で継続したアプローチを行うことが、銀行へのロイヤリティを高め、顧客の囲い込みにつながります。
課題解決のポイント
これらの課題を解決するためには、大きく2つの方策が有効です。1つ目は「顧客理解の深化」。顧客を深く理解し、顧客ニーズを的確に捉えたサービスの創出と提供を行うことです。
2つ目は「デジタルシフト化」。顧客のニーズや状況に合わせて、デジタルと店舗の両チャネルを活用し、効率的なマーケティングを実現することです。
この2つの方策により、一人ひとりの顧客に最適な体験価値を提供することで、顧客満足度の向上を図るのです。
解決ポイント① 顧客理解の深化による新たなサービス提供
1つ目の解決ポイントである「顧客理解の深化」を実現するには、「顧客の見える化」が重要です。オンライン/オフラインを問わず、
- Web上の行動データ
- 来店履歴等の営業データ
- 口座情報や入出金の勘定データ
など、銀行が保有する豊富なデータは、顧客を理解する重要な情報源となります。ただし、これらのデータは散在していることが多いため、まずはCDP(顧客データ統合基盤)に統合し、データを活用するための環境整備が必要となります[注1]。
CDPを活用した「30代男性向けの商品開発」の事例を紹介しましょう。まずWeb行動データや営業データ、勘定データなどから、「投資商品に興味がある30代男性」について「興味はあるけど未購入」「貯金残高がそれほど多くない」などの傾向を把握しました。そうしたターゲットのニーズに合わせ、「積み立て型投資商品」の開発につながりました。まさに「データの見える化」によって顧客を深く知ったことで実現した商品と言えます。
解決ポイント② デジタルシフトによるマーケティングの効率化
2つ目の解決ポイント「デジタルシフト化」のカギとなるのが、マーケティング業務の効率化です。日々の業務でMA(マーケティングオートメーション)ツールなどを活用していても、CDPと連携できていないケースが多々あります。連携できていないと、データ集計やセグメント抽出などの施策前工程に時間を要し、マーケティング自体に注力できません。そこでまず、CDP連携によって施策前工程の時間を削減しようというわけです。
例えば、当社が携わったある銀行の事例では、CDPとMAの連携によって、顧客の囲い込みに大切な第一歩である「口座開設からのオンボーディングアプローチ」の前工程作業の時間を削減しました[注2]。それによって、具体的な施策設計、属性に合わせたコンテンツの出し分け・改善など、本来のマーケティング業務に注力でき、アプリ利用開始率を2.5倍に向上させることができました。
銀行へのCDP導入を短期&低コストで実現する「f-DOMA」
CDPは、顧客ニーズの把握やマーケティング業務の効率化などに大きく貢献できますが、導入には3つの課題があります。1つ目は導入までの期間が長期化しがちなこと、2つ目は導入・構築コストが高いこと、そして3つ目は導入効果に対する懸念です。
決裁にかかわる人たちが、その重要性・必要性は感じていても、本当に導入コストに見合う効果につながるか、不透明に感じているというわけです。その結果、導入に必要な合意形成に時間がかかったり、合意形成が得られなかったりという事態も発生しています。
「f-DOMA」には銀行へのCDP導入・活用を容易に実現するため、次のような3つの特徴的な機能があります。
①データプロセッシング:手間がかかるバラバラなデータの設計・加工が容易に
バラバラで複雑な構造のデータであっても、「f-DOMA」のデータプロセッシング(データを加工して有意な情報を抽出する処理)を利用することで、容易にデータ統合が可能です。例えば、
- 銀行業界特有のデータ
- Web/App内の行動データ
- Salesforce Marketing Cloudで実施したプッシュ施策の結果データ
など、さまざまなデータを統一のデータ構造に取り込める「データ整理機能」を備えています。さらには、
- 個人情報に該当するデータ項目やレコード自体の削除、住所の丸め(番地以下の削除)などを行う「データの加工機能」
- 顧客ベースでのデータ統合を実現するための「ID統合機能」
を搭載しています。これらにより、CDP導入時のデータ設計や複雑なデータ加工が最小限で済むため、短期間・低コストでCDPが導入できます。
また、銀行業界に特化した機能の1つである「データコンバート機能」は、Web/Appの行動データ、施策結果データなどの一般的なデータに加えて、銀行業界特有の顧客データ、勘定データ、取引データ、金融商品データなどにも対応しています。
さらにもう1つ、「ID統合機能」は銀行業界で使用されている顧客管理IDや契約者IDをデータ統合キーとして利用できます。そのため最小限のデータ加工のみで契約者IDベースでのデータ統合ができ、オンプレミスやクラウドなどのデータ環境へのデータ共有も容易に可能となります。
②外部連携コネクタ:さまざまなマーケティングツールとのデータ連携が容易に
「f-DOMA」は、さまざまなデータソースからCDPへ、CDPから主要なMAツールなどの外部連携ツールへ、スムーズなデータの連携・移行を行います。
まずCDPへのデータイン(入力)については、クラウド環境からの他、Googleアナリティクス(GA)やFirebase、Adjust、AppsFlyerなどの主な計測分析ツールのデータを取り込むためのコネクタ、そしてSalesforce Marketing Cloudで実施したメール、アプリ内プッシュ施策の施策結果を取り込むためのコネクタ、個人情報利活用におけるCMP(同意情報管理プラットフォーム)ツールなどからの同意情報を取り込むコネクタなどがあります。
また、CDPからのデータアウト(出力)については、AI、BI、CRM、MAなどのマーケティングツール、そして広告媒体へ、デジタルチャネルへのデータ連携を容易に行うコネクタがあります。これらの活用により、短期間・低コストでのCDP導入・活用が可能となります。
③テンプレート:データ可視化、分析、セグメントの利活用が容易に
「f-DOMA」には、次の3つのテンプレートが用意されており、マーケティングや分析の効率化・高度化に貢献します。
「データ可視化テンプレート」(マーケティング担当者向け)
一般的なWebアプリの使用に加えて、契約者別の金融商品の購入数、購入金額の状況、Webアプリ経由の口座開設数、契約者別での取引情報など、マーケティング担当者が日々モニタリングしている指標を可視化できます。導入後すぐにCDPを活用したマーケティング業務が可能です。
「分析アルゴリズムテンプレート」(データアナリスト担当者向け)
Webアプリ内での特定行動(口座開設申し込みや金融商品購入など)のコンバージョンまでの行動パターンや内容、経路のカスタマージャーニー分析が行えます。また、特定行動への貢献度、および貢献度が改善した際の期待値の分析も容易にできます。現在GAやFirebaseで行っている行動分析において、時間短縮と分析の高度化が可能になります。
「施策セグメントテンプレート」(マーケティング担当者向け)
一般的なWebアプリの行動状況に応じた施策セグメント、金融商品の購入状況、取引情報、口座残高などの契約者データをもとにして、高い施策効果が期待されるユーザーをセグメント化します。そうしたユーザーにすぐにアプローチが可能となるので、マーケティング業務の効率化と高度化の両面で期待ができます。
繰り返しになりますが、厳しい市場環境の中、銀行業界では、新たな商品・事業の創出のために顧客を深く理解し、マーケティングを効率化するCDPの導入・活用が急がれています。データ利活用の必要性を感じつつも具体的な施策には未着手の方、CDP導入の費用対効果に懸念をお持ちの方、すでにCDPは導入していても活用しきれていない、もしくは効果が十分出せていない方など、「f-DOMA」は幅広い方々に向けたソリューションとなっています。CDP導入にご興味をお持ちの方は、銀行業界への豊富なサポート実績を持つ電通デジタルへ、お気軽にお問い合わせください。
脚注
出典
1. ^ "金融審議会「銀行制度等ワーキング・グループ」(第4回)全国地方銀行協会説明資料". 金融庁.(2020年10月28日)2022年2月16日閲覧。
2. ^ "業界特化型CDPソリューション 「DOMA」を開発" . 電通デジタル.(2021年11月24日)2022年2月16日閲覧。
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