2020.03.30

日本の公共表示に学ぶグローバルシステム

現代の日本の図記号の基礎となる視覚言語は日本文化において古くから重要な役割を担ってきました。

日本を旅行していると江戸時代に確立された最も象徴的な木版印刷に見られる有名なフラットデザインの影響を至る所で目にします。木版の性質上、図記号は主に太い線で描かれ細かな要素は消えてしまします。従って自ずと伝えなければならない必要な情報だけが残るのです。こういった図記号は動作や感情を表すのによく使われます。

現代の日本では、人に分かりやすく物事の意味を伝える記号が身近に溢れかえっています。地下鉄、レストラン、自動販売機、トイレなど、図記号はありとあらゆる場所に存在します。これは街の公共の場の至る所に図記号のシステムを採用した結果ですが、図記号は線や色、形、動きなど、イラストの基礎的な要素や性質に依存する部分が大きいように思います。

こうした基本要素を用いた世界共通の視覚システムが考案されたら、日本に移住してまだ間もない人にとってどれほど有益なことか、火を見るよりも明らかです。今のところ、私の日本語習熟度はお世辞にも十分とは言えません。その意味ではハンデを負っているということになります。日本では、視覚から入る情報でしか物事を知る術がありません。図記号は道案内の役目をしたり、食べ物へ到達するための標識だったり、図記号その物がエンターテインメントの要素を含んでいたり、私にとって欠かすことのできないライフラインなのです。

色や線がシンボルとしての役割を担う

Googleでは『ビジュアル』を「絵、映画または何かを説明する、あるいは添付するために使われる表示」と定義しています。この定義によるとビジュアルは視覚的コミュニケーションの最も複雑な部分を含む非常に狭い意味として解釈されています。東京メトロやJRは色や線といった基本要素を視覚言語の主要要素としています。図像なしでメッセージを伝えるというのがとてもユニークですよね。図像を用いる代わりに色や文字、数字を組み合わせて表現しています。色や文字のようなさまざまな要素を組み合わせることで、ちゃんと駅が分かるようになっています。この視覚システムで使われるのは色と数字だけなので、他と比べてとても分かりやすいです。動作や色彩理論(記号体系)などを覚える必要がなく、自分が乗りたい路線が何色かを覚えるだけでいいのです。数字(上、下)は行き先を示します。ブランドにとって大切なことは、エンドユーザーのことを思いやるということです。つまり、伝えるべき情報は何なのか、どんな絵や写真が必要なのかというところです。

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動きを交えて意図を伝える

動く物は利用者の目を引きます。実際、人間の脳の仕組みは狩猟採集時代からずっと変わらずそうなっているのです。視覚システムを築く際、動きを取り入れるという発想は盲点となりがちです。多くの日本人は交差点で信号が変わるのをじっと我慢強く待っていますが、その間、ほとんどの人はいつ信号が青に変わるのか、その瞬間を認識しています。調査の結果、日本のたいていの歩行者信号にはあとどのくらいで信号が変わるのか歩行者に通知してくれる、ある種のプログレスバーのような仕掛けが備わっていることが分かりました。他国のような、数字でカウントダウン表示をするといったものではなく、残り時間を示す目盛りが表示され、残り時間が減るにつれて線の数が減っていく仕組みです。街の棒状の表示が動くのは唯一信号だけです。これを採用することで人々の注意を引き、必要な大事な情報を伝えることができるのです。ここでも何か目的を伝えるために色と線の組み合わせが使われていますが、少し動きを加えることで、さらにインパクトが増します。同じ原理がデジタル相互作用のデザインにも使われており、徐々に動く矢印を表示して利用者に画面をスクロールするよう促します。

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利用者を重視した形状

視覚システムを上手く機能させるには、図記号を見る側の知識レベルがどのくらいなのか、きちんと把握することが重要です。特に外国人への表示を視野に入れたシステムを作る場合、デザインチームは主たる利用者のことだけを考えるのではなく、それ以外の人(セカンダリーユーザー)のことも念頭に置かなければなりません。利用者を意図する方向へ上手く誘導するには、利用者が必要とする情報が何なのか考えるのが肝要です。日本では、廃棄物の管理は企業や個人が法律に従って行うことが義務付けられている非常に重要なテーマです。廃棄物管理計画を構築するための成功のカギとなるのが、各ゴミ箱に何を捨てればよいのか明示することです。よそから来た利用者に地元住民や施設をよく利用する人と同じようにゴミの捨て方をあらかじめ周知させるのは無理なので、手早くゴミの仕分け方法を伝えるには、これが最も効果的な方法です。表示の図柄はスキューモーフィズムとして知られる設計原理に依存したシステムなので、絵合わせゲームをするような感覚でほとんどの人がちゃんと廃棄物処理法を守ることができるのです。スキューモーフィズムは実在の物とそっくりな図柄を使用し、利用者の既存の知識を頼りに新しいことを周知させるといった状況で使用すると非常に高い効果を発揮します。日本のゴミ分別システムでは、スキューモーフィズムを活用したデザインを採用することで、イラストに従いゴミを捨てるよう利用者を誘導し、ゴミの分別ルールを伝えることができるのです。注目すべきは、アイコン説明の文字情報やゴミの捨て方を説明する文言に重きを置くのではなく、伝えたい情報を誰が見ても分かるよう具体的にラベルで表示することに重きが置かれていることです。

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新たなシステムを構築したり決定したりする際、ほとんどのブランドやさまざまな体験を提供する業者は主たる利用者、つまり自国民に目が行きがちです。しかし世界はますます狭くなっています。世界観光機関によると近年、観光産業は最大で年6%の成長率を示し、人数ベースで年間のべ約19億人が海外旅行をしたという結果が出ています。この旅行者はブランドのセカンダリーユーザーであり、観光産業が成長しているということは、すなわち、こういった利用者が今後も増えるということを意味します。仮に国内向けに絞ってビジネスを展開していたとしてもブランドはやはりグローバル化するのです。こういった他国の人々にも通用する設計原理を使った顧客体験に自社ブランドがどんな形で応用できるのか、セカンダリーユーザーにぜひ意見を聞いてみてはいかがでしょうか。そうすることで、グローバル化に備えることができます。

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