2020.09.30

オフラインで認知〜顧客のロイヤル化までを完結するには? 有名ブランドの施策から見るCXのニューノーマル

前回の記事、「リアルを基点としたコミュニケーションが難しくなった今日に考えるCXのニューノーマル」では、生活者の行動変化の実態を再確認しました。その上で、今後も続くであろう外出控えやソーシャルメディアとの接触時間拡大を前提とし、オンラインでカスタマージャーニーを完結させること、その際にはオフラインでの“常識”を離れオンラインならではの発想と施策の展開が必要だ、との問題提起もしました。

では、オンラインならではの施策とは、どのようなものがあるのでしょうか?
ここでは、ファッション・コスメブランドがいち早く取り組み始めたオンラインでの施策を挙げながら、施策の意図やポイント、そこから拡がる可能性を探っていきます。

認知・エントリー獲得フェーズ
〜ポイントは、ユーザーとどこまで深く長く接点を作れるか?〜

ビフォーコロナでは街歩きを楽しむ途中に気になる店舗に立ち寄ったり、イベントでファッションに魅せられるなどして接点を持つというように、実店舗を基盤に考えられてきた認知・エントリー獲得フェーズ。
しかし、今日では、ソーシャルフレンドリーなコンテンツの展開でこれに代わるような体験を提供しようとする動きが見られます。

電通アイソバー(現 電通デジタル) エクスペリエンスデザイン本部 コミュニティデザイン部 シニア コミュニケーションデザイナー 飯村 玲香は、「MONCLERは人のあたたかさを伝えるためにCEOやデザイナーがプレイリストを共有しているし、CHANELはApple Musicで最新コレクションのプレイリストを共有してブランドの持つ空気感を伝え、気分を盛り上げようとしている。GUCCIやChloeはPodcastでブランドの世界観を言葉で紹介するような配信を始めた。
また、Marc Jacobsは任天堂の『あつまれどうぶつの森』のマイデザイン機能で服のデザインを配布し始め、ヴァレンティノやジバンシーも同様の取り組みを始めている。このようなブランドとの一体感を楽しめるような工夫が認知・エントリー獲得フェーズの施策として試されている」と、紹介しました。

さらに、プロダクトではなく、ブランドの世界観やレガシーを伝えるコンテンツを配信する例として、次のブランドも紹介しています。

「LOEWEはインスタグラムでオンラインイベントを展開。定期的にメタルやウッドクラフトなどの様々なアーティストの作品を紹介したり、自宅での時間をより有意義にするための参加型コンテンツや本の朗読などのコンテンツ配信をしている。
一方、PRADAはファッションだけでなく、哲学や映画、建築など、文化人がディスカッションする様子を配信。時代の変遷を追うイベントとなっている」。

――ファッションウィークもオンラインへ

前述のほか、ファッションやコスメ業界において、オフラインで展開される顧客体験の中でも最も印象強い「ファッションウィーク」もオンライン化を模索し、例年にない取り組みが展開されました。

「開催にあたり、実際のファッションウィークで繰り広げられる様子をどこまでオンラインに落とし込めるかがポイントだったと思う。ロンドンの例では、オフラインでのイベントはほぼ中止されていたが、協会が多角的なコンテンツやインタビュー、Podcast配信やデザイナーダイアリー、ウェビナーを展開し、ユーザーがファッションに触れられる機会を作った。また、デジタルショールームでプロダクトを見せ、そのまま購入できるような導線も設置された」と、飯村。

「認知・エントリー獲得フェーズでは、ユーザーとどこまで深く長く接点を作れるかがポイントになる。ソーシャルメディアのこれまでのあり方にとらわれないアプローチをするにあたり、『生活者の心にいかに刺さるか?』を考え、どのアプリを用いるかを問わず多角的に世界観を伝えるように各社工夫しているようだ」とまとめました。


検討フェーズ
〜テクノロジーを活用し、顧客が製品に擬似的に触れられるような取り組みが活発に〜

ビフォーコロナでは、コスメならメイクレッスンやカウンセリング、ファッションであれば試着など店頭での接客やコミュニケーションを通して展開されてきたこの検討フェーズ。

アフターコロナになると、「ソーシャルメディアの機能を活用しつつ、AIなどのテクノロジーを活用して、顧客が製品に触れるリッチな疑似体験を展開しようと各社が取り組み始めている。これを『おもしろい』と感じてもらい、エンゲージメントを高めたり、着こなしやテクニックを知りつつ、より自分にあったものをeコマースで購買できるようエスコートするブランドが見られた」と、飯村は解説します。

例えば、4月にツイッターのアカウントを開設したことを皮切りに、イヴ・サンローランはTiktokをプラットフォームに、インフルエンサーを起用して認知促進をさせながら検討フェーズに向かうまでに製品体験もできるようバーチャルトライオンができるような施策を始めています。
フィルターでプロダクトを身につけたときのイメージをよりリアルに確認できるため、顧客も検討がしやすい、というわけです。

他方、DIORやエスティローダーは、「商品について気軽に相談できない、自分に合うものを選べない」という今日ならではの課題を解決するために、店舗スタッフが商品の使用感などを紹介する解説動画を投稿するなどして、少しでも店舗でのカウンセリングの代わりになるように工夫しています。同じページにはeコマースへの導線もあるため、「欲しくなった!」というニーズをすぐに満たすこともできるようになっています。

また、IPSAでは、「自分の肌悩みを相談しながら自分に合ったものを選べない」という課題を解決できるよう、カウンセリングシートを介して自分の肌の状態やおすすめのアイテムにたどり着けるようなコンテンツを展開しています。

これについて飯村は、「カウンセリングシートは接客の代わりにもなるし、オンラインストアで自分に合ったものをすぐに購入できるようにもなっている。さらに、店舗の営業が再開したときにも顧客情報が得られているので、スタッフが素早く対応できるという効果も見込める」としました。

冒頭でも紹介した通り、ビフォーコロナでは、ファッション・コスメブランド業界は特にリアル店舗での購買が主流となっていました。顧客の中には、「どれを選んだらいいか分からないが、とりあえず店舗に立ち寄ってみよう」というモチベーションで来店し、接客と製品から得る印象から購入に至ることも少なくなかったと想像されます。

アフターコロナでもこれと遜色ないCXをもたらすには、やはりテクノロジーの力が欠かせないでしょう。飯村は先行事例を次のように紹介しています。

「H&Mでは、自分の今の気分や着ていく場所を軸に、友人とショッピングするようにコミュニケーションしながら楽しく自分に合ったコーディネートを購入できるような仕掛けを展開している。擬似的ではあるが、チャット上で友人とトークしながら服を選ぶ、というイメージのチャットコマースだ。
一方、店頭の品物を見てから購入したい、という人に『リモートショッピング』のサービスを提供しているブランドもある。ショーメでは、事前予約した時間にLINEなどテレビ電話を使って店舗スタッフが店内を回りながら顧客をエスコートし、購入できるようにしている。
また、1店舗だけでなくモール内を巡りながらショッピングを楽しみたい、という人をターゲットにしたショッピング専用アプリも登場している。これなら、より実際の買い物体験に近い感覚が得られるだろう。これまで実際に店舗でコミュニケーションしながら買い物をすることに慣れている私たちの感覚の延長線にある新しい購買体験と言えそうだ」。


購買フェーズ
〜リアルでの顧客体験をいかにオンラインで再現するか?〜

さらに、チャットコマースやリモートショッピングに加えて、ARやVRを活用した施策を展開するブランドも出ています。

GUCCIではスナップチャットを利用し、ブランドとプロダクトを選ぶとそれが画面上に表示され、「着用しているような画像」を表示できるような仕掛けを導入。そこから購入・決済まで完結できるようにしています。
このように決済まで完結できることは、ソーシャルメディアを利用したコマースでの世界初の試みでもあります。

他方、近年注目されているECプラットフォームのShopifyでは、VRを利用して「もし、この家具を自分の部屋に置いたなら?」というイメージを確認し、購入までできる仕組みを展開しています。

このような先進的な取り組みについて飯村は、「コマース体験において、一番テンションが上がるのは『買う』という体験だろう。これまで店舗で行なってきたそれをバーチャルでどう再現できるか? が課題だと言える。ブランドの個性とテクノロジーを掛け合わせて展開する擬似ショッピング体験は、アフターコロナに向けて急速に進んでいるし、これからもっと進化すると考えられる。今後はその体験の質と深さをどう実現するかが重要になってくる」と、指摘しました。


ロイヤル化フェーズ
〜顧客情報の連携は極めて重要に〜

ビフォーコロナでは、限られた顧客を招待したイベントや顧客と店舗スタッフとの繋がりといったリアルな場面を基盤にした関係性が重要とされていた顧客のロイヤル化フェーズ。
しかし、アフターコロナでは、「どこまでデータ・ドリブンにしていくかがポイントになる」と飯村は言います。

例えば、GUCCIではカスタマーサポートをLINE上で展開するにあたり、タップすれば有人チャットや電話、ビデオアポイントメントなどを受け付けられるようにしています。これを行なうにあたり、顧客が常に利用しているLINEを基盤にしているというところは見逃せないポイントだと言えるでしょう。
ルイ・ヴィトンもFacebookチャットで有人対応を展開するなど、生活者にとって身近なソーシャルメディアを活用したカスタマーサポートは増加傾向にあります。

そうしたカスタマーサポートとは別に、VIP対応のためにオンラインを活用する例も見られます。例えば、MULBERRYはファッションウィーク終了後、恒例のアフターパーティーをインスタグラムのライブ配信機能を利用して「オンライン・アフター・パーティー」として再現したのは好例と言えるでしょう。このほか、オンラインで特別招待制の限定コンテンツ配信を行なう例も見られます。

このようにカスタマーのランクに合わせた施策を展開する際には、MAツールと顧客情報との連携が欠かせません。タッチポイントのデータを活用し、パーソナライズしてそれぞれの顧客に合わせたコンテンツを伝えることは、ロイヤリティ強化にもなることでしょう。

最後に飯村は、新たな顧客体験のあり方について、
「購買というゴールに向けて、ストリーミング配信やインフルエンサーによる発信などで認知を獲得したあと、実際に紹介していたプロダクトを購買するまでの過程をスムーズに進むことができるよう『Frictionless』な状態をいかに作れるかがとても重要だ。インスタグラムやピンタレストのような商品を発見するのに最適なソーシャルプラットフォームでは、顧客が発見したらすぐにバーチャル体験ができ、購入へとシームレスに進めるような姿が理想だ」としました。

Zoom
Zoom

フェーズは必ずしも“左から右”にはいかなくなる

ここまで述べてきた通り、各社は各フェーズにおいて顧客との繋がりを深め、購買の利便性を向上させるようなテクノロジーの活用を進めています。

しかし、これらの施策が顧客を中心とした生活者全体に広がり浸透すると、コマースのニューノーマルが早い段階で起き得る、と電通アイソバー(現 電通デジタル) エクスペリエンスデザイン本部 本部長 潮田 健一郎は次のように指摘します。

「飯村が、TiktokやInstagram上でインフルエンサーがおすすめしたアイテムに対してフォロワーが『使ってみたい!』と購入する流れが起き始めていると示した。これはソーシャルコマースの特徴のひとつだと言える。一方で、そうして購入した顧客は必ずしもブランドの顧客とは言えないため、『インフルエンサーのファンをいかに自分たちの顧客にするか?』を考えて施策を展開する必要性が出てくる。つまり、認知フェーズをショートカットしていきなり購入フェーズに進んでくれた顧客に対し、認知フェーズにもどってブランドの世界観や良さを知ってもらうように育成するコンテンツを見せる施策も考える必要が出てきた、ということだ。
このように、従来の4つのフェーズを大切にしながら、“別の入り口”から訪れた顧客目線でのカスタマージャーニーも考えることが重要だ」。

では、従来型の“左から右に流れる”4フェーズで組み立てるカスタマージャーニーの枠から飛び越えた、オンラインで完結するカスタマージャーニーを描くにはどのようなステップを踏めばいいのでしょうか?
「オンラインならではのカスタマージャーニーを描くには?〜ニューノーマルのCXではフェーズの固定概念を超えることもあり得る〜」では、ここまでの議論をまとめつつ、オンラインならではのカスタマージャーニーの描き方について電通アイソバー(現 電通デジタル)の考えを示します。

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