2021.04.26

VUCAの時代に顧客基点のCXを実践するには? 〜よりフラットになったコマース領域でブランドが価値を高めるために〜

新型コロナウィルスの感染拡大以降、私たちの購買に対するニーズは大きく変化しました。他者との接触を極力避けるため、大型商業施設や繁華街などへの往訪や長時間滞在は控えられるとともに、今までデジタル化のニーズがあまりなかった商材や業界に対しても、デジタルを通じた新たな購買体験が求められ始めています。
またあわせて、ECで購入し店舗で商品を受け取れるBOPIS(Buy Online Pick-up In Store)や、b8taをはじめとした体験型店舗の登場など、ECと店舗の役割や顧客のニーズも大きく変わってきています。
このような様々な変化に対して、企業は常に新たな視点で自社製品・サービスの購買体験を見つめ直すこと、そしてその施策をスピーディーに実践していくことが求められています。しかし実際は、従来のシステムやプラットフォームの制約でなかなか柔軟な対応ができない、というお悩みをお持ちではないでしょうか。
顧客にとってより良い購買体験を提供するために、チャネルやタッチポイントを問わず、一貫したブランド体験を提供すること、そして組織やプラットフォームなど企業視点の制約がなく、便利で使いやすい購入フローを提供すること。これを実現するために最近にわかに注目を集めているのがヘッドレスコマース (Headless-Commerce)という考え方です。
従来コマースとの違いや導入のメリットなどを、電通アイソバー(現 電通デジタル)実際にヘッドレスコマースの導入をご支援させていただいたイオンシグナスポーツユナイテッド株式会社のユニフォームECサイトOutfitters.jpをもとに具体的に説明していきます。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

コロナ禍で変化が加速している3つのこと

まず、現状をあらためて整理しておきましょう。ご承知の通り、コロナ禍をきっかけに生活者の行動や考えは大きく変化しました。

そして今日では、外出自粛など個々人による感染防止対策が続くことで変化は定着し、深化していると考えられます。そうした中で、デジタル領域において起きている特徴的な事柄として挙げられるのが以下の3つの項目です。

  1. eコマース活用の広がりやソーシャルメディアとの接触時間の増加、利用者層の拡大などによって、消費者のデジタル接触度が急増。ブランドがデジタル領域をどう活用しているか問うようになった
  2. コロナ禍という社会課題が消費者の意識を覚醒させている
  3. 平時には“隠れていた”システム課題が顕在化することによって、消費者の意識にも何らかの影響が起きている

上記を総合すると、デジタル上ではあらゆるブランドが“同じ土俵に乗った”状態になっており、顧客はブランドがいかに信頼できるかだけでなく、危機対応の振る舞いにも注目して評価されるようになっている、と考えられます。
顧客に選ばれるブランドであり続けるために、企業は、これまで以上に顧客との繋がりや安定したサービスを提供する体制の重要さを理解する必要があるというわけです。


コロナ禍で増えるD2C〜顧客と直接繋がり、よく知る機会を作る意義〜

前述を踏まえた上、今日のコマース領域の変化について、電通アイソバー(現 電通デジタル)では次のような大きな流れを感じています。

  • これまでeコマースを推進してきた企業はその施策をブラッシュアップするよう取り組みを強化する傾向がある
  • これから取り組もうとする企業はいわゆるD2Cに挑戦する企業が少なくない

先ほども述べたように、コロナ禍において顧客との繋がりが重要になっているからこそ、ブランドは「顧客とダイレクトに繋がるにはどうしたらいいのか?」と、考えるようになっています。そうした時、「D2Cに挑戦したい」と考えるのは自然な流れだと言えます。

特に、コロナ禍以前からeコマースを行なっていたとしてもD2Cに挑戦しようとする企業は、「これまで多くのユーザーが集まるeコマースプラットフォームに出店する方がいいと考えていたが、それでは自社の顧客の好みなどを把握できず、繋がりも作れないとわかった」という理由を挙げる例が少なくありません。

このような理由からD2Cに取り組む流れは日本に限ったことではありません。米国をはじめとする海外ではコロナ禍以前からeコマースプラットフォーム利用に関する“見直し”が進んでいましたが、この機に合わせて加速している状態です。その中でも、バーチャル上の製品と体験に関する経済活動(バーチャルエクスペリエンス・エコノミー)は5Gのようなテクノロジーの後押しもあり、進化の過程にあります。もちろん、今後も間違いなく発展するでしょう。この分野については海外事例を交えて詳しく分析したレポートを公開しています。ぜひ以下よりご覧ください。
○参考ホワイトペーパー:Brave New Normal ニューノーマルに挑む

ここで確かめておきたいのは、D2Cに取り組むことはただ単に販売チャネルを立ち上げたり増やしたりする、ということではないという点です。その本質は、顧客とのリレーションシップをどうするか、だと言えるでしょう。ブランドが提供するサービスやソリューションについて、期待値を満たせていないと感じた時に顧客の落胆は大きくなり、ブランドとの繋がりが薄れたり消えてしまうことも考えられる、との考えを織り込んでおく必要があります。


デジタルとひとの力を融合して良質な顧客体験(CX)をもたらすという視点が欠かせない

新たな潮流になりつつあるD2Cですが、その中で忘れられがちなのが「デジタルとリアルの垣根を越えてあらゆるタッチポイントで良質な顧客体験(CX)をもたらす」という発想です。

ひとつの例からこの重要性を紐解いてみましょう。

このところ、リアル店舗でも感染対策を徹底しながら以前と同じように顧客を迎える企業が増えています。また、コロナ禍で減少した客足を戻そうと、「来店して店舗で購入するとお得に購入できる」「ポイントバックする」といったキャンペーンを展開するケースが多く見られるようになっています。

そうした施策をきっかけに来店した顧客が商品を選び、レジで会計と一緒にキャンペーン特典を利用しようとした際、店舗のスタッフがキャンペーンのことをよくわかっていないなど連動が不十分な状態だった場合を想像してみましょう。

顧客としては、それまでは好みのブランドだったとしても、「特典が利用できるようになるまで待たされた」とか「特典が使えなかった」といった事実があれば、ネガティブな気持ちを抱いてしまっても仕方がないことです。

このような例に限らず、近年「DX」や「デジタルシフト」の推進によって、様々なインフラや環境が刷新されてきましたが、もう一歩踏み込んだ「リアル店舗のオペレーションとの連携」にまで施策が落とし込まれておらず、結果的にブランドと顧客との間に距離ができてしまう、というケースがひとつのリスクの芽になりつつあります。

こうした問題を解消する、あるいは起こらないようにするにはどうすればいいか? その答えは、「実際に対応するのは一人ひとり感情を持つ人であり、『全員、このように行動せよ』と言ってもその通りにならないこともある」と考えることではないでしょうか?

そのような “当たり前”を忘れることなくDXやデジタルシフトをどう進めていくかと考えた時、私たちは、CXの重要性と同時に、エンプロイーエクスペリエンス(従業員の体験)の重要性も十分に認識すべきだ、との発想にたどり着きました。


エンプロイーエクスペリエンスを高めて強い組織になるために

より良いエンプロイーエクスペリエンスを実践するためには、企業やブランドは、顧客やステークホルダーに向けたコミュニケーションと同じくらい自社のコアバリューを内部に向けてコミュニケーションする必要があるでしょう。そして、それに共感した従業員によってこそより良いCXをもたらすことができると考えます。

そうした高いエンプロイーエクスペリエンスをもたらしている企業とその従業員ほど、より良いCXをもたらすだけでなく、「自社がどのような目的を果たすために誕生し、成長してきたか」を根本的な部分から理解しているため、DXのような外部から大きな変化の影響を受けた場合でも軸がブレることなく受け入れたり、対応できる可能性が高い、とも考えられます。

ただし、DXやデジタルシフトといったデジタル領域の話ではインタンジブルな(実体がない)部分が多くなりがちです。そのため、抽象的な概念だけで話をしていると、何となくわかったように感じるが、実は何もよくわかっておらず推進がうまくいかない、という“ワナ”に陥ることもしばしばあります。

そうならないためには体系立てた整理や目に見える形に落とし込みが欠かせないものです。そこで、電通アイソバー(現 電通デジタル)では、体系立てた整理から実際に取り組みを行なうまでのプロセスを「4つのD」として明確化し、クライアント企業のCX開発・設計をサポートしています。

4つのD

Discoverヒアリングや行動分析、リスニング、あらゆるデータ分析のほか、顧客の観察など多角的なアプローチで徹底的にエンドユーザーのインサイトを明らかにしていきます。同時に、マーケティングや営業、広報や製品企画など、部署の垣根を越えて、クライアント企業の幅広い従業員からヒアリングを行ない、現状を把握します。また、当然、競合企業やブランドの現状について深く調査を行ないます。
DefineDiscoverで得られた情報を受け、目指すべきCXの全体像を定義していきます。例えば、エンドユーザーに対してどのタッチポイントを手厚くしていくか、必要なプラットフォーム何か、新たに加えるべきか、取り組みの優先順位を明確にします。これにより、より早く充実したCXを提供することができます。
DesignDefineの結果を受けて、あらゆるデザインを行ないます。ここは、電通アイソバー(現 電通デジタル)の強みである、クリエイティビティとデータ、プラットフォーム、テクノロジーが持つ力をしなやかに繋げ、一つひとつの体験へと具現化する重要なフェーズでもあります。 タッチポイント別エクスペリエンス設計やクリエィティブ開発、チャネルミックスプランほか、多角的な検討を重ね、プロトタイプ検証やユーザー検証に至るまでを行ない、取り組みの輪郭を明確にして計画をプロジェクトとして前進できるようにします。
DeliverDiscoverから始まった一連のCX Designを実行に移し、KPIに基づいて「自分たちの顧客にとって最良のCXが提供できているか?」を評価します。結果を検証し、自ら課題を抽出してプロジェクトをさらにブラッシュアップしていきます。

VUCA時代にブランドバリューを高めるためには何をすればいいか?

「4つのD」に取り組むことは、「自社はVUCA時代にどのようなCXをもたらすか?」という問いへの答えに近づくと期待できますが、その答えはひとつとは限りません。

例えば、「社会的な課題に対して自社はこう考える」との姿勢を明確化することがVUCA時代に自分たちができる優れたCXだと考えるケースは少なくないでしょう。海外ではBlack Lives Matter(BLM)やジェンダー問題などに対して企業が立場を表明することが珍しくありませんが、日本でもコロナ禍でマスクや消毒用アルコールが品薄になっていた時、異業種の企業が次々に自社ができるマスクやアルコールの生産を始めるなど、社会課題に対するする企業の姿勢を、それぞれの考えに基づいて言葉や行動で表明する場面が増えてきています。

また、ダイレクトに顧客とリレーションをはかるようチャンネルを持ち、顧客の声を聞いた上で、「我々はこういうふうに改善する」と答えを出すようなやりとりを、自分たちができる優れたCXだと考えることもあるかもしれません。

特に海外ではそうした取り組みが盛んで、ユーザーから様々なフィードバックをもらったり、ユーザーたちがソーシャルメディア上で自社の商品やサービスについてどのように語っているのかを定点的に観測し、その結果を反映させる、といった改善の仕方が定着しています。これを自社でも試す、ということは「答え」のひとつになるかもしれません。

いずれにしても、DXやデジタルシフトのような“華々しく未来的なテクノロジー”そのものではなく、まずは、「こういう時期だからこそのマーケティングとは、自社にとってのCXとはどういうものか」と、基本に立ち返って考えることがVUCA時代にブランドバリューを高める第一歩になると考えます。

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