2021.11.24

優れたCXを提供するサービスの作り方 〜サービス開発にクリエイティビティはなぜ必要か〜

技術的な進化とソーシャルメディアをはじめとする接点の増加によって、デジタルマーケティングは非常に複雑な発展を続けています。これに対し、企業側はどのように対応していくべきなのか? 難しい舵取りを迫られていると言えるでしょう。

ユーザーの心を動かし、共感を積み重ねてサービスを作り上げていくには、機能面の充実もさることながら「普段使いしてもらうにはどうすれば良いか?」という問いに答えるクリエイティビティの力も欠かせません。これに対し、日本たばこ産業株式会社(以下、JT)はどのような取り組みを行なったのか? 事業者とコンサルタント、クリエーターそれぞれの視点で紐解いていきます。

※本稿は2021年9月6日から4日間にわたって開催された「電通デジタルCXトランスフォーメーションウェビナーWeek」のセッションを元にした記事です。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

CXクリエーティブ事業部 事業部長/クリエーティブディレクター

泰良 ⽂彦

日本たばこ産業株式会社 デジタルマーケティング推進部 次長

久保田 賢

株式会社NODE 代表取締役

金 均

日本企業がユーザー視点のサービスを創造する上での課題

本題に入る前に、本セッションのファシリテーターである株式会社NODE代表取締役 金均(こん ひとし)氏は、日本企業がユーザー視点のサービスを創造する上での課題について、次のように述べました。

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「多くの日本企業において何か事を起こす際に課題になるのが、『階層主義×合意形成型』で意思決定されることだ。結果、思い切ったことは行いにくく、創造的なアイデアも“丸め”られ、どこにでもありそうな普通のサービスが残ることになってしまう。
一方、デジタル上の戦いが激化・同質化する中、企業はユーザーに選ばれる“想いの伝わるサービス”を創っていかなければならない。
では、どうやって全社をまとめ上げ、ユーザーを動かすサービスを創っていけば良いのか? 今日はこの問いのヒントを、『CLUB JT』の事例を元に見出していけたらと思う」。


どうしたらユーザーを動かせるのか?〜「CLUB JT」の取り組み〜

CLUB JT」とは、2020年3月にローンチした喫煙者のための統合プラットフォーム。本会の登壇者のひとりであるJTデジタルマーケティング推進部 次長 久保田賢氏が推進したプロジェクトで、各種キャンペーン情報、商品紹介やeコマースのほか、喫煙所MAPやオウンドメディア内で閲覧できるコンテンツなどが集約した愛煙家向けのサービスです。ローンチ当初から利用者が増加しており、「普段使いできるコンテンツがある」と評価されています。

一方、電通デジタル CXクリエーティブ事業部  事業部長/クリエーティブディレクター泰良文彦は、プロジェクト参画当初、JTのデジタルマーケティングをユーザー目線で体験している中で、「JTには多くの銘柄があり、それらが独自にサービスを展開している。それぞれがまるで孤島のように立ち上がっていて、それぞれの“島”に入る際にはその度に別のサイトに遷移することが求められる。気軽に使いづらいと感じていた」と指摘。

初期開発に際し、「どういったUXをつくっていくか? どうユーザーにオンボードして使い続けてもらうか? 喫煙ライフを便利に、そしてどうグロースするか? といった事柄を討論する必要があると考えていた」と振り返りました。


プロダクトの特性を改めて考える〜「CLUB JT」で組織が変わるまで〜

久保田氏と泰良が取り組んだ「CLUB JT」のプロジェクトは、JT社内で「JTがデジタル活用に本気となった象徴」と言われ、「今まで個別にあった施策を、JT本流にまとめ上げていく試み」と「ここまで続けられていた個々の施策の目的や想いをも1つにまとめ上げること」をゴールとしていました。

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ここからは、その変遷を紹介していきましょう。

まず、JTが扱うたばこは、愛煙家が日常の中で約5分程度の時間を楽しむ、“普段使い”のプロダクトだと言えます。この提供価値を UI/UXの基礎として、「CLUB JT」は次のようなステップを踏んで形作られていきました。

 

1:現場を把握するための関係者ヒアリング
→どの部内も皆がお客様を思って仕事をしているということを共有

泰良がユーザーとしてサービスを利用していた時に感じていた通り、いくつものサービスが分断された状態であることは以前から社内でも認識されていたとのこと。そこで、久保田氏を中心に、プロジェクトの開始とともに丁寧な現状把握がなされていきました。
その際のヒアリングを通し、「各銘柄の担当者はみんな『お客様目線』に立っていて、全てのコンテンツがお客様に向き合っていることがわかった」と、久保田氏。
そのため、「CLUB JT」への統合自体はスムーズに進み、かつ、自分たちが「お客様目線であること」を再確認することもできた、と述べました。
同じ想いではあるもののお客様から見ると個々に存在するように見える状態なら、打ち手を考えることはそう難しくありません。
「想いをもってつくられたコンテンツやサービスの中には気付かれていなかったものもあったはず。お客様に届かない不幸を解消するため、サービス統合時には『お客様にとって良いものか? 必要なものか?』という判断軸に基づいて優先順位を決めたり、コンテンツの取捨選択を行なうようにした」と、久保田氏。
サービス統合時には“足し算”の発想で物事に取り組むことが多いが、それでは企業目線で整理するだけに終わってしまうので、サービスがどういう体験になるべきかを考えた、としました。

2:ユーザー力学×社内力学の融合
→推進役は思いを共有する社内外の人材を集めた協働チーム

同じ想いを元に「CLUB JT」へと統合が始まったものの、何かのきっかけで「総論賛成、各論反対」といった意見が出てくるケースはあるものです。そうした社内力学を越え、ユーザーのためになるサービスを両立するにはどうすれば良いのでしょうか? 
その鍵になるのが「色んな人が関わってアイデアを生み出す」という多様性の確保だと、金氏。

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実際に「CLUB JT」では、デジタルマーケティングの専門家だけでなく、部門部署や性別、思考パターンの違いを超えた意見を取り入れられるよう、チーム編成に工夫がなされたといいます。
しかし、ここでもうひとつ重要なのが「ただ集まるだけではない」ということです。
泰良は、「良いアイデアを生み出すにはプロセスがとても重要。最も良いアイデアが出るのは、個人がじっくり考えを煮詰めた上でそれを元にコラボレーションをすることだと考えている。それなしに会話をするだけでは“やった感”は得られるかもしれないが、実りある時間になりづらい」と、解説しました。

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これに加え、久保田氏は、「『CLUB JT』でも当初、20人の大会議があり、複数の分科会が立ち上がっている状態だった。強い気持ちを持っているのなら、それを分科会で煮詰め、コラボレーションしていく、というあり方はスムーズな進捗を果たす上でしっくりくる」と経験を述べました。
同時に、アイデアが評論されるのではなく気軽に発言したことが真摯に受け止められるような環境も良いアイデアが出てきやすくなるために不可欠な要素だ、とのこと。
アカウンタビリティを持ったメンバー同士が集い、心理的安全が担保される中でプロジェクトが進行していく環境が整っていたことが『CLUB JT』の成功に繋がった、と言えるでしょう。

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3:いかにユーザーを動かすサービスをつくるか?
→ユーザーの根源的欲求を捉え、自由にアイデアをぶつけ合う環境を作り、魅力的なサービスを創る。そしてHooked Modelを踏まえたFrictionlessなUXがユーザーを動かす

アイデアが出てくる環境が整えば、いよいよ「ユーザーを動かすサービスの作り方」へと議論が移ります。
泰良は、「『CLUB JT』では当初から『普段使いで使っていただけるサービス』をありたい体験と設定していた。ありたい姿、あるべきCX(顧客体験)を起点に、バックキャストして考えていくことが重要だ」と強調します。

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例えば、『CLUB JT』の利用者における根源欲求は、マナーを守りながら一服に寛ぐことであり、喫煙場所に困らないことだと考えられます。そうした顧客が体験したい姿をゴールに、バックキャストして「『CLUB JT』の登録ユーザー以外にも使えるコンテンツと、登録者が見られるコンテンツとを切り分けるなどしていった」と、泰良。
ここには、根源欲求(Motivation)に応えるという考えと、それを叶えるために障壁となる事柄をなくす(Frictionless)を同時に達成してゴールに近づく、という発想があります。

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さらに泰良は、新たなサービスの顧客体験デザインにおいて、「使ってもらうためのきっかけを提供(=トリガー)」し、「実際に活用してみる(=アクション)」体験を経て、「使ってみると自分の根源欲求が満たせるとの達成感(=リワード)」を覚え、「また使う際により便利であるように登録する(=インベストメント)」という4つのプロセスを繰り返し、利用習慣を形成して行ってもらうことも重要である、と述べ、そのために「ニール・イヤールが提唱した顧客体験のプロセスを表すHooked Modelの考え方が役立った」と、振り返りました。

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最後に久保田氏は、「こうして発表しているが、『CLUB JT』にはまだ足りていない部分もあると考えている。新規サービスの提供を含め、社会に配慮しながら喫煙者として一服を味わう時間を支えていきたい。それにあたり、多くの方々の意見を聞かせてもらいたいと考え、いつでも議論ができるように準備している」としました。

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