2021.11.25

アフターワクチンのコマースに求められる顧客体験設計とは? OMOを実現する顧客データ基盤構築の進め方

ワクチン接種が進み、コロナ禍後の世界――「アフターワクチン」の状況下でも、この流れは変わることなく、おそらくは店舗とECのハイブリッド、OMO(オンラインとオフラインの融合)がさらに加速していくものと思われます。

「アフターワクチン」「アフターコロナ」を見据えて、企業は何に着目し、どう行動していけば良いのでしょうか。アドビ株式会社 長川将之氏、原周一郎氏と電通デジタル 船井宏樹が、その指針を簡潔に解説します。

※本稿は2021年9月17日に開催された「eコマースコミュニケーションDay 2021夏~ECビジネスの業績を伸ばすポイントが学べる1日~」のセッションの再録記事です。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

アドビ株式会社
デジタルエクスペリエンス営業統括本部 リードプロダクトスペシャリスト

長川 将之

アドビ株式会社
GTM・ソリューションコンサルティング本部 シニアマネージャー

原 周一郎

複数のチャネルを横断した顧客体験の提供が重要

本稿のテーマである「アフターワクチン」とは何か? アドビの長川氏は、「国内のコロナワクチン接種対象者の接種率がほぼ100%になる状況」だと定義しています。

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ワクチンには感染症の発症や重症化を抑制する効果があるものの、感染を100%防ぐわけではありません。2021年8月30日時点で、日本国内のワクチン2回接種完了者の割合は45.1%。感染拡大を防ぐためには、ワクチン接種と並行して行動抑制を続けなくてはならず、現在の目標であるワクチン接種率100%、アフターワクチン後でも、将来感染者や重傷者数がどのように変化していくかは、誰にも予測不可能です。

今後も日常での行動が、強制/非強制問わず制限される中で、消費者のライフスタイル/消費者行動も、さまざまに細分化していきますが、それこそがアフターワクチンの世界だと、長川氏は言います。

アフターワクチンのコマースにおいて、企業は消費者の細分化した要望に適切に応えるための仕組みを構築しなくてはなりません。電通デジタルの船井は、「複数のチャネルを横断した顧客体験の提供こそが、重要なものになる。それは、企業の今後のビジネスを大きく左右する」という見方を示しました。

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コロナ禍の2年間で、消費者がデジタルを活用したサービスに触れる機会が急増し、消費者の買い物に対する期待値は大きく変化しました。

船井が例として挙げたのが、ファストフード店の「モバイルオーダー」です。店舗に行ってレジに並び、商品を注文して待つのではなく、事前にスマホで注文して、店舗では受け取るだけという形式は、すでに多くの飲食店でスタンダードとなりました。

消費者は一度手にした便利なサービスは決して手放しません。アフターワクチンの世界でも、便利なデジタルサービスはどんどんと進化し、普及していきます。「コロナ前の状況に戻るのではないかといった思考のコマースでは、淘汰されていくだろう」と、船井は警告します。


アフターワクチンに求められるコマースとは

デジタル/テクノロジーの適切な活用は、店舗とオンラインを統合し、両者が混ざり合った新しいチャネルを生みつつあります。

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チャネルという概念がなくなっていく中では、ブランド独自の顧客体験こそが競争優位性となり、今後のビジネスを左右する重要な要素になってきます。そこで鍵となるのは、パーソナルで一貫したブランド体験を提供するための、テクノロジーの導入です。

アドビの原氏は、アドビが理解する、     オンライン/オフラインが統合されたカスタマージャーニーのイメージを紹介しました(下図)。ECサイトの閲覧から実店舗での購買に至るまで、ジャーニーが進むごとにプロファイル情報(図版右側)がよりリッチになっていくことが分かります。

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属性ジャーニープロファイルに追加される属性情報
オンラインECサイト訪問ECサイトで閲覧した商品、サイズ
オンラインフォーム入力アカウント(氏名、メールアドレス、住所、電話番号性別、年齢)
オンラインECサイトからのアプリインストールリンク入りメール受信アプリをインストールした顧客である、ポイント付与履歴
オンライン来店予約来店予約店舗、位置情報
オフライン店舗スタッフからのプッシュ通知来店履歴
オフライン店舗スタッフからおすすめ商品の案内これまでの履歴をもとにAIがおすすめした商品、店舗スタッフがおすすめした商品
オフライン商品購入パーチェスした顧客である
オフラインメールでレシート送付購入履歴

※情報の取扱いには全て事前に許諾を得た情報であることが前提となります。

原氏によると、この変化をUIへリアルタイムに反映することで、オンライン/オフラインを超えた、パーソナルな体験の提供が可能になります。

これを実現するにはどのような仕組みが必要になるのでしょうか。

オンライン/オフラインを統合された顧客体験をリアルタイムで提供するには、複数のチャネルでの行動を統合管理できる顧客データ基盤を整備しなくてはなりません。また、オンライン/オフラインを統合すると、必然的にタッチポイントが増えるので、各デバイスに最適化されたコンテンツ基盤も、同時に整えていく必要が出てきます。

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顧客データ基盤とコンテンツ基盤。アフターワクチンの世界で消費者が求めるコマース体験を提供するためには、この2つを兼ね備えたプラットフォームを検討することが何よりも大事だと、原氏は語りました。


実際にプロジェクトを行うにはどうすれば良いのか

オンライン/オフラインを横断するような顧客体験基盤の構築は、必然的に全社組織を横断するプロジェクトとなります。船井は、全社横断プロジェクトを推進する際に、一般的によく見られる課題を「経営層の支援」「組織」「人材」「システム」という4つの切り口で紹介しました。

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  • 経営層から支援がない
    各部門のサイロ化が著しく、プロジェクト担当者の裁量が大きくない場合、各部門からの協力体制が得られにくい、という問題があります。それを打破するためには、経営層からの手厚いサポートが必要となります。
  • EC部門と店舗部門が対立している
    店舗とECが別部門の場合、横断プロジェクトを推進すると、店舗サイドからは店舗の売り上げをECに取られてしまうように見え、反発を招くというケースはよく見られます。こうした事態を防ぐためには、直接的な売り上げを評価指標にするのではなく、貢献度を測る指標を導入する必要があります。また、顧客1人あたりの評価軸も、1回の購入金額ではなくLTVで評価する、といった検討もしなくてはなりません。
  • デジタル人材が不足している
    社内のデジタル人材の不足、あるいは外部から採用したいけれども、なかなか適切な人材が集まらない。もっとも多く聞かれる課題です。時間をかけて社内人材を育成したり、外部パートナーと連携したりするなどの対策が必要です。
  • 既存システムとの連携がうまくいかない
    社内に多数存在するシステムをどう活用すれば、複数チャネルを横断した顧客体験が提供できるのか。それぞれのシステムやデータを保有する個々の部門の協力なしに、データを結合させていくことは、非常に困難な課題のひとつです。マーケティング部門とIT部門が連携し、老朽化システムの見直しや入れ替えも検討しなくてはなりません。

 

これらの4つの課題を解決しつつ、プロジェクトを成功へ導くためには、「適切な推進プロセス」「統合されたデータ基盤」という2つの要素が必要であり、「適切な推進プロセス」において大事なのは、提供すべき顧客体験の設計だと船井は強調しました。

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一般的には、機能要件、システム要件から検討がスタートし、要件定義を設計してから開発という流れが普通ですが、オンライン/オフラインを横断した顧客体験を提供するにあたっては、どういった顧客に、どのような体験を提供したいのかを、プロジェクトに関わる全員が共通見解として持ち得る青写真を描かなくてはなりません。

また、システムを構築して終わりではなく、継続的に社内の人材を育成しながら運用する体制作り、そのための継続的なトレーニング、改善活動なども必要です。

こういった一連のプロジェクトを自社のみでプロセス化して回していくには、大きな負担が生じるのも事実です。だからこそ、適切な支援を行いつつ併走する、推進パートナーの存在が不可欠だと、船井はその重要性を指摘しました。

横断プロジェクトの推進においては「統合されたデータ基盤」も必須です。社内に点在するデータを集めて、大きなデータウエアハウスを構築したものの、それがマーケティングに適切に利用される形になるまでは至っていない、というケースは非常に多く見られます。

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こうしたデータをきちんと活用できる形にするためには、改めて保有するデータから顧客との接点となるタッチポイントを分析して洗い出し、店舗やコマース、オンライン接客、ライブコマースなどに、しっかり利活用できる形でデータを統合していく必要があると、船井は指摘します。

例えば、アドビの場合、ECプラットフォーム(Adobe Commerce)だけでなく、MA(Adobe Campaign/Market)、デジタル分析(Adobe Analytics)など、デジタル上での行動を追跡できる製品群があります。また、昨今注目されている顧客のデータを統合管理するCDP(Adobe Experience Platform)も提供しています。

さまざまな製品を組み合わせながら、それらを活用し、当初設計した顧客体験に基づいて、さまざまなチャネルに適切なタイミングで配信する。そのためには、個々の製品を理解し、その特性を踏まえたアーキテクチャー設計が必要です。


コンサルティングから運用までをワンストップで提供する「One Tempo」

こうしたコマース領域におけるプロセス構築や、テクノロジー導入に関する支援は、近年、電通デジタルが特に力を入れている分野です。最後に船井は、電通デジタルが提供する「One Tempo」という、コマース領域専門のワンストップサービスを紹介しました。

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「One Tempo」では、コンサルティングからシステム導入、運用までをワンストップで実行、DXの専門スキルを持つメンバーがワンチームで併走し、クライアント企業の顧客にオンライン/オフラインを超えた上質な顧客体験、One to Oneのコミュニケーションを提供します。

船井は、「オンライン/オフラインチャネルを横断するコミュニケーションを実現したいというご要望をお持ちの方は、どうぞお気軽にご相談ください」と呼びかけて、本講演を締めくくりました。

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