2021.12.17

消費者・企業・テクノロジーが変えるコマースの姿 〜海外コマース最新トレンドで紐解く必要な戦略とアプローチ方法〜

コロナ禍においてEC利用が急速に拡大し、顧客のコマースへの期待も大きく変化しました。しかし、そうした劇的な変化だけではなく、より大きな変化の潮流に目を向け、その内容を把握しておくことも、中長期的な戦略を立てる上で重要なのは言うまでもないことです。

本稿では、前述の考え方を下敷きに、顧客行動の変化のトレンドとそれを受けた海外のコマース事例、コマースを検討する上で必要な戦略やアプローチ方法についてご紹介します。

※本稿は、10月25日〜10月29日に開催した「Commerce Week 2021」にて株式会社電通デジタル CXストラテジー本部 バイスプレジデント カーダー ジェネッサが発表した内容の採録です。

CXストラテジー本部付 シニアエグゼクティブストラテジープランニングディレクター

カーダー ジェネッサ

※所属・役職は記事公開当時のものです。

コマースに「持続可能性」が持ち込まれて生まれた変化

コロナ禍による変化より以前から、「持続可能性」という言葉は様々な場面で語られるようになりました。特に、SDGs(持続可能な開発目標)という単語は、最近耳にしない日がないほどです。

では、なぜコマースを語る上で、「持続可能性」に想いを巡らせることが重要なのでしょうか? まずはこのことについて、紐解いていきましょう。

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従来は長期的に所有したいという考えのもと、モノを購入していました。しかし今日、消費者は、将来的に返品したり、転売したり、誰かに引き継ぐことを想定して購入するようになっています。

この発想はどこか日本の着物業界と似た部分が感じられます。それというのも、成人式の年齢になると、もちろん自分で所有するケースもありますが、着物をレンタルしたり、母や姉妹など誰かから着物を借りたりすることがあるからです。また、アメリカではウェディングドレスは購入して所有するのではなく、レンタルするのが一般的です。

こうした流れは限られた場面のものでしたが、今では様々な業界に広がり、「循環型経済(サーキュラーエコノミー)」と呼ばれる新しい商業形態を生むことになりました。同時に、お客様がブランドに求めるものも変化し始めています。購入時に、製造における透明性についての情報など、より多くの情報を求めるようになっているのもその新しい“波”のひとつだと言えるでしょう。

新しい“波”の例としては、サブスリクリプションモデルのような新しい購入方法や、中古品の売買を可能にするマーケットプレイスも挙げられます。また、ブランドがお客様に購入後のサービスや製品の寿命を継続させる手法、あるいは製品を返却するための方法を提供しているのも、新しい取り組みだと言えます。


コマースの新潮流〜近年変化が起こった事柄とは?〜

コマースにおける新たな“波”について、もう少し具体的に見ていきましょう。

――サステナビリティとコマース

透明性という点では注目すべきは、商品説明ページに表示されている商品情報です。これまでは価格や仕様、注意書きなどが主なものでしたが、最近ではサプライチェーンの各ポイントを分解してそのプロセスが最終的な顧客価格に与える影響を複数の価格情報でお客様に見せるようになっているケースが散見されます。

この内容は、お客様にとって購入を判断する十分な情報だと言えるかもしれません。ただ一方で、全てのお客様がこういった記載内容を見て判断しているわけではない、ということにも注意が必要です。

例えば、米EC専門ブランド「エバーレーン」は、中国市場に参入しましたが、お客様が他の市場と比較してサスティナビリティの情報に重きを置いていないということが分かり、撤退を決めたと報じられました。

一方、HP(Houses of Parliament)イギリスは、二酸化炭素の排出量と製品のもたらす影響や食品の栄養について情報を開示しています。近年、欧州では、ブランドが積極的に製品製造過程も含めた二酸化炭素排出量や環境への影響を明らかにするようになっています。HPイギリスの取り組みは、まさにそれを体現している、と言えるでしょう。

循環型経済の実践に積極的なブランドの中には、購入後のサービスを増やすケースが目立ちます。例えば、「パタゴニア」は、マーケットプレイスを作り、同社のジャケットを返品するための場として、お客様が自社のプラットフォームで製品を再販できるようにしています。この手法は、お客様が新たな購入に向けて資金を還元する方法にもなっています。

――サブスクリプションモデルそのものに起こる変化

お客様が新たな所有の仕方を求めるようになると、これまで慣れ親しんできたサブスクリプションモデルにも変化が訪れるようになります。

その一例として挙げられるのが、無印良品の取り組みです。
無印良品は、「ベッドルームに必要なアイテムをセットにして月額定額サービスとして販売する」という提案をしていますが、それは最終的には返品することを見越しているとも捉えられます。単一の商品ではなく商品群で見せたり、LookBook(毎シーズン用意している商品カタログで主にアパレル業界で使用される用語)という視点で販売する、という考え方は注目に値するでしょう。

様々なコマースのあり方が生まれてくるなら、ロイヤリティについても再考の必要が出てきます。例えば、前掲の無印良品のような商品群での販売をした場合、それを返却する際にはどのように対応すべきか? そして、お客様と一緒に成長していくにはどうしたらいいのか? など、これまでに企業やブランドがあまり考えてこなかったことまで思考を巡らせる必要があります。


再販市場の変化〜なぜ復活の兆しを見せているか?〜

消費者の考え方の変化など、様々な要因に後押しされて再販市場も復活してきています。
欧米ではeBayが、日本ではメルカリなどが昔からありましたが、最近は他のマーケットプレイスも増えてきています。

これらの市場の根底にあるのは商品には統一性がなく、作り手の異なる様々な商品が集合体として売り買いされている、という点です。

こうした場で重要なのは、検索とフィルタリング機能だと考えられるでしょう。様々な製品を持つほど、検索による見つけやすさ、検索エンジン最適化が欠かせません。

このことに気付き、取り組みを始めているのが「スニーカーダンク」です。
この面白い点としては、検索というものを新たな水準に引き上げていることです。同社は実際に検索を使用して新しいトレンドや顧客の嗜好などを調査し、そこから得たインサイトをコンテンツ化することで、検索エンジンで上位に表示されるという仕組みを作っています。

もちろんこれはスニーカーだからこそ成立するとも言えます。しかし、数種類の商品しか販売していないブランドであれば「スニーカーダンク」から学ぶ点があると考えます。


購買の際の意識も変わっている

ここまで、主にブランド側の変化を見てきました。ここからは、消費者である私達の「購入」という行為に対する変化について、確かめてみましょう。

以前は物理的なモノを売買するのが大前提でしたが、今はデジタル商品ーーデジタルファイルやオンライン上での自身の考えなどーー今までなら「購入できる」とは思わなかったモノを実際に売買するようになっています。

例えば、グッチがコレクション全体をゲーム内に制作し、アプリ内のスポンサーコンテンツとして販売することで、自分のキャラクターに着せることができるという仕組みを提供して話題になりました。

「デジタルファイルは多くの場合、無料で解放されてきた」との声もあるかもしれませんが、最近ではグッチの例の他にも変化も見られます。その際たるものは、Twitterの創業者であるジャック・ドーシー氏が自身の最初のツイートを高額で販売したことであり、また、コカ・コーラのようにデジタルファイルだけを使って取引や販売ができる環境を作っている例もあります。

こうした取り組みは今後も増えるはずです。そうした時、ブランドとしては、取引や個人の見解に関するデジタル上での権利、所有権、さらには領収書について考え始める必要があるかもしれません。


コマースの「買い方」にも変化が

産業革命後には既製品や棚に並んだ製品が。そして現代では、インターネット上で実際に見ることができるものが購買の対象となってきました。しかし、今やUberEatsのように、欲しいものがあればアプリを開いてほしいときに作って届けてくれるようになっています。

こうしたオンデマンドの考え方は、他の多くの業界にも広がり一般的になりつつあります。しかし、今こそ留意しなくてはいけない点は、新型コロナウイルス感染症の拡大によってフルフィルメントやサプライチェーンが混乱状態にある、という点です。

例えば、工場が閉鎖され、仕事を失う人も出てきているのは周知の通り。中には、国境を閉鎖している国もあるなど、グローバルな貿易は混迷状態にあり、コロナ後の時代に世界が落ち着くまではしばらくの間こういった状況が続くと見通されます。

グローバルな貿易が混乱状態である、ということは、サプライチェーンや商品の不足が起き、最終的にお客様の不安・不便を招くことになりかねません。では、このことがオンデマンドとどのように関連するのか? 見ていきましょう。

例えば、こうした状況下で、お客様にサプライチェーンの情報を提供することは、お客様の不満を解消することに繋がるかもしれません。この好例がニトリです。彼らは、自社のコマースサイトで実店舗の在庫をお客様に紹介し、お客様に「今すぐに欲しい商品の在庫を確認し、ECか実店舗かで購入する」という選択肢をもたらすことに成功しています。

他方、オンデマンド購入に関しては、「共同購入」という考え方もあります。これまでお客様と店舗は1対1の関係性でしたが、共同購入は買いたい人を募って購入するという流れの中で、一種のアクティビティを演出しているとも考えられます。

この考え方を進化させた例として挙げられるのが、「拼多多(ピンデュオデュオ)」です。「製造した商品を売る」という当たり前を覆し、お客様の需要があることが明らかになってから製品を製造する、というスタイルは画期的であり、ブランドの需要・在庫管理にも役立ちます。

ただ、ピンデュオデュオのような一種のオーダーメイドな取り組みは、お客様が購入する前に製品がどのようなものかを確かめられない、という懸念も挙げられます。

 

前述に対し、ビジュアル化されたツールを構築してお客様がこれから手にする商品を正確に把握できるようにする取り組みとしてスタートしたのが、ロンシャンのカスタムオーダーバッグです。
自分だけのバッグを作るための様々なオプションのツールを提供することは、専門的なフルフィルメントや設備・テクノロジーの刷新も必要であると想像できます。


「買う場所」にも変化が起こっている

ここまではリテールチャネルに関連した事柄を見てきました。しかし現在では、より没入型の体験やコンテンツを重視する傾向が見られるようになっています。その理由のひとつは、5Gの実用化です。

大容量のデータ処理を前提にコンテンツが用意できるので、「美術館に行くような感覚でEC店舗内を見て回る」といったチャレンジも可能になると考えられます。この時に重要なのは、ブランドが最高の語り手を採用したり、良いストーリーテリングができるようにすることです。そうしてより没入感のある体験の提供が可能になれば、デジタルエクスペリエンスプラットフォームの重要性も増していくことでしょう。

5Gの普及は、実店舗にも変化を生じさせるものです。実際に、原宿にあるサムスンGalaxyの店舗では、店内に入るとスマホを渡され、機能を展示する様々なステーションでの体験を超えたのち、購買意欲が高まった段階でオンライン購入できる、という実店舗とオンラインストアで相乗効果を生むような施策への昇華が起きています。

また、ソーシャルメディアの劇的な変化に伴い、ライブストリーミングやインフルエンサーのショッピングチャンネル化、会話型ショッピングといった新たな没入感を伴う買い方も生まれ始めています。
さらに、様々な仕掛けによって、「お客様がどういった瞬間に商品に興味を持ち、購買意欲をかきたてられ、購入に至ったか」を正確に把握することもできるようになっており、それは以降のマーケティングにも役立てることができるはずです。


さいごに

本稿では、今日のコマースにおける変化のトピックを取り上げました。しかし、個社ごとに今後抱える課題や現状の問題は異なるはずです。
電通デジタルでは、お客様のコマースの未来にぜひお力添えできればと考えております。ご質問などございましたら、お気軽にお問い合わせください。

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