2021.09.17

DXで生まれた新規ビジネスを“人が使いたくなるソリューション”に変えるには?

コロナ禍以降、既存ビジネスにもDX(デジタルトランスフォーメーション)の波が押し寄せています。企業としては少しでも早く既存ビジネスを刷新して収益化につなげたいと考えるものですが、実際は「自社内にそれができる人材がおらず、思うように進められない」というケースも少なくないようです。

さらに、今注目されているのが、新しい発想のサービスを収益化させる上で欠かせないUI/UXの視点をもった人材の確保です。

本稿では、電通デジタルUX本部 UXアーキテクツ部シニアUXアーキテクトの高橋雄太が、新規ビジネスや既存ビジネスの刷新にあたってUI/UXの視点が必要な理由のほか、実際にプロジェクトに参加した際にどのような活動を行なったのか、自身の経験を踏まえて解説します。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

CXトランスフォーメーション部門 CX戦略プランニング第2事業部 シニアUXアーキテクト

髙橋 雄太

「アイデアのタネ」を事業計画に落とし込む

ーー電通デジタルは多くのプロジェクトにおいて、パートナー企業として関わります。しかし、今回のプロジェクトにはクライアントのチームスタッフメンバーの一員として参加したと聞いています。この違いはプロジェクトの進め方にも影響するのでしょうか?

高橋:まず、今日の先進企業は、DXに注目が集まるこの機会をチャンスと捉え、DXでビジネスをどう変えられるか? という議論をし、いくつかの新しいビジネスの“タネ”の可能性を模索しているように見受けられます。私が担当しているプロジェクトはそうした中でも「可能性がありそうだ」と判断されたものです。

そうした案件の場合、「何をどう作りたいのか?」という具体的な要件が定まっていないことも珍しくありません。そのため、並走しながら要件を一緒に詰めて、思い描く“何か”を作り上げていくアプローチが必要です。

どのような案件でも「チームになって同じゴールに向かっていく」という気持ちは同じなのですが、業務委託の場合、立場上でもクライアント企業の一員としてより深い関わり合いをすることになります。また、臨機応変にしっかりとした成果物を出して期待に応えられるようプロジェクトに参加することが求められます。

実際にプロジェクトに参加してみると、アイデアのタネはあるけれど、具体的な部分はほとんど決まっていないという、「事業計画が承認される前」の状態でした。もちろん、委託元から何か情報が得られたり、ドキュメントから状況を把握したりもできません。
そこで、プロジェクトに参加する部署や担当者とのカジュアルなヒアリングの機会をこまめに作り、その会話をもとに課題を設定して自主提案をする、という動きをしてみました。

まっさらな状態から新規事業を立ち上げる現場では、いかに「かゆいところに手が届く!」と思われるような立ち回りができるかが勝負だと思います。そのためにはコミュニケーションの頻度を上げ、関与度を高めるべく自発的に動いてトライアンドエラーをし、自分たち以外のチームのメンバーに溶け込みながら発言力を高めることも重要だというわけです。

少し“泥臭い話”に聞こえるかもしれませんが、前述の取り組みを通してアイデアのタネを事業計画に落とし込んでいくプロセスを支えたことで、委託元をはじめとするプロジェクトメンバー全員に“頼れる存在”と感じてもらえるようになったのだと思います。


UI/UXの視点がなくてもサービスは動くけれど「使われるか」は別問題

ーーUI/UXのプロフェッショナルとして参加し、その能力を発揮するための土台も作った、というイメージですね。

高橋:そうですね。当然ながら事業計画書の最終形はクライアント側が作り上げたものです。それに対して私たちは、サービスの核となるサービスの提供価値を整理し、サービスコンセプトをデザインすることで、事業計画の核となる重要なパートを支援できたと考えています。

一方、UI/UXを検討するにあたっては、超えるべき意識の壁もありました。そもそも、今回の企業に限らず、多くの企業において、UI/UXの必要性や価値を重要視していないケースが多いように感じます。

確かに、システム要件を決めて正常に動くシステムを作れば、最低限のレベルでサービスを世の中に出すことはできるかもしれません。
しかし、そのサービスを多くの人に使ってもらえるように洗練したものにし、ビジネスとして成立させるには、優れたCX(顧客体験)の視点が必要で、その要素をより多く組み込んでUI/UXを検討して実装する必要があるはずです。そうしてこそ、サービスの品質が上がり、満足できるサービスをエンドユーザーに提供できると考えます。

実際に、私が携わった案件でも、開発体制は事業者視点が強く、QCD(クオリティー、コスト、納期)のうちCDありきで、顧客体験は優先されていない状況がありました。そうした状態に曖昧ながらも懸念を抱くクライアント側のプロジェクトメンバーもおり、私たちUXデザインチームは、顧客体験上、機能の必要可否の判断を徐々に求められるようになりました。
そのような機会を捉え、私たちとしてもビジネス戦略・システム開発・開発ベンダーと随時コミュニケーションを図ってプロジェクトを推進するようにしていった、というわけです。

このような考え方や動き方を一部ではなく全てのプロジェクトメンバーに受け入れてもらわなければ、ともすればフリクションが起こってしまうことも考えられるでしょう。しかし、プロジェクトが開始してから何度も行なわれた会議で意味のある発言をしたり、提案をし続けたことによって発言力や信頼度が高まっていたこともあり、本件では比較的スムーズにやるべきことを進められたと感じています。


CX視点で仮説を立てる

ーー今回のプロジェクトはかなり特殊な領域だったと聞いています。その分野に詳しく、かつUI/UXもよくわかっている人をアサインするのは難しいと想像しますが、専門性が求められる案件についてのCXやUI/UXの検討はどのように対応しているのでしょうか?

高橋:まず、私たちの強みは、ビジネススキームを整理してリサーチをかけて検証した先にすべきこと、つまり、実際にそのサービスを具現化する時に「エンドユーザーにとってどういった体験をもたらせばいいのか?」というCX視点で仮説を立てて、形にするところまでのすべてを担当できることです。

例えば今回のプロジェクトでも、このサービスを使うであろう人を想定し、初期の段階で仮のペルソナを作ってみました。この時に重要なのは、最初から適切な設定をしようとするのではなく、仮のペルソナやカスタマージャニーマップを作って答え合わせをし、ズレを軌道修正して精度や理解を高めていくことです。

そうしてサービスの仕組みなどをイメージしていき、さらに、プロトタイプを作って、実際にプロジェクトのメンバーたちに使ってもらってフィードバックを受け、改善後に再びユーザーテストをしながらサービスの完成度を上げていく、という一連の流れを私たちのチームで対応していきました。

どのような新しい取り組みでも、ユーザー目線を取り入れつつ、プロジェクトメンバー内に“なんとなく存在する” アイデアを使いやすい機能としてすぐに反映し、完成形に近づけていく際にはスピード感が求められるものです。

私たちのチームには、前職ではシステム開発を担当していたエンジニア・ディレクターだった人や、サイトの情報設計するIAやUIを開発するデザイナー、インタラクションを設計して実装する開発者など多様なバックグラウンドを持ちつつ、その上でUI/UXの知見を有したメンバーがいるので、柔軟な発想と対応が可能になっています。


成功するDXにはCXの視点が必要

ーー最後に、CXとはどういうもので、今回の事例のエッセンスはどのように他のクライアントにも生かされるか、聞かせてください。

高橋:多くの企業は今、「DXを推進したい!」ということで頭がいっぱいになっている状態だと推察します。しかし、DXのサービスをスケールさせるために必要なキーとなるのはCXの視点だと考えます。それがあることで売れるサービスになり、使えるサービスになり、結果的に成功するDXになると言えるでしょう。

私たちは、優れたCXとは、顧客の心を動かす「Motivation」とスムーズにゴールに向かうためにハードルを下げて障壁をなくすよう整える「Frictionless」を同時に実現することだと考えています。

Zoom

これを実現するためには、企業はまず顧客と向き合い、「顧客にとって何が『Motivation』となるのか? そして、ゴールに向かう上で障壁となるものをなくす『Frictionless』な状態はどうすれば整うのか?」という問いと、「自社の製品/サービスと、市場ニーズを結びつけるために、どのような体験の提供が必要なのか?」を同時に探り、整理することが求められるはずです。

そして、上述のようにして考えられたCX戦略の中に存在する一つひとつの体験をUXと捉え、これをより良くすることによってCX全体がさらに洗練されるーー、CXとUI/UXはそんな補完関係だと考えています。

今、多くの企業がDXの達成だけでなく、それによるビジネスでの成功も思い描きながら様々な検討をされていると思います。そのようなサービスをゼロから立ち上げる場面や、既存のサービスの改良に取り組む際に、私たちのチームが参加することで価値を最大限化するお手伝いしたいと考えています。

「CX UPDATES」では、UI/UXに課題を感じている企業のマーケターの皆さんのお役に立つように、事例のエッセンスをもとにどのようなアプローチで課題解決を行なったかをお伝えしています。

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