Rescue Timeの調査によれば、ほとんどの人が毎日平均3時間、携帯電話を使用しているそうです。通勤時間が長い人は、さらに多くの時間、携帯を見て過ごすことは言うまでもありません。電車の中で周りを見てみると、おそらく大多数の人が携帯の画面を見ているでしょう。実際、Statistaの報告によると、2021年3月、世界のWebトラフィックの54%がモバイル端末からアクセスされたものでした。Tech Crunchのレポートでは、コロナ禍初期にアプリの使用が進み、40%近く急増したとしていますが、驚くことではありません。これまでも携帯電話は人々また消費者にとって、私たちの生活の重要な一部でしたが、コロナ禍でその役割はさらに高まったのです。
コロナウィルスにより、ブランドと消費者、あるいはブランドとその従業員とを繋ぐ、従来のビジネスチャネルに急速な変化が生じました。その結果、モバイル端末とアプリが、非接触のコミュニケーションや取引に欠かせないものとなりました。顧客のためにモバイル端末上でのブランド・エクスペリエンスを開発した企業も見られました。
モバイルサービス・ファーストのリテール
携帯電話は指先の延長であるといわれています。これは人体が遂げた最新の進化のひとつともいえるでしょう。携帯電話のセンサーとデータ処理機能により、消費者の五感が拡張し、より多くの情報にアクセスできるようになるのです。マーケッターは考え方を「モバイル・ファースト」にすることで、携帯電話がどのように人間の情報処理能力を強化・充実させることができるかを知ることができます。これをサービスデザインの考え方と組み合わせることで、携帯電話の処理機能を活用してリテール・エクスペリエンスを差別化し、新しいサービスを作り出しているブランドもあります。
オンライン・ファーストのファッション通販サイトZOZOは、数年前にオンラインでサイズのあった衣類を購入できるようサポートするシステム、「ZOZOSUIT」を開発したことで知られています。顧客は送付されたボディスーツを受け取り、モバイルアプリをダウンロードするように指示されます。モバイルアプリは、ドットで覆われたボディスーツをスキャンし、ドット間の距離を測ることで顧客の3Dのサイズを測定します。このデータは、この後のバーチャル試着においてフィット感を確実なものにするために使用されます。コロナ蔓延中、ZOZOはサービスの精度をより高める最新版のZOZOSUITをリリースしました。
同ブランドはZOZOSUITに加え、コスメ商品購入客向けのソリューションも開発しました。人間の肌の色は様々なうえ、照明により視覚が影響を受けることもあります。そのため、本当に肌の色に合った化粧品を人の視覚のみに頼って見つけるのは容易ではありません。これにより、顧客は使えない化粧品に無駄な出費が延々と続いてしまうことがあります。またその化粧品は、衛生上の理由から他の人は使えません。この問題を解決するため、ZOZOはカラフルなプラスチック製のメガネを開発し、顧客に送付するサービスを開始しました。このメガネはアプリと一緒に使用します。ユーザーはメガネをかけ、アプリの指示に従って顔を傾けていき、様々なライティングで顔をキャプチャします。アプリは、メガネのカラーブロッキングを使用して色のバランスを分析し、ユーザーの実際の肌の色を計測します。
モバイルサービス・ファーストのリテールを展開するには、マーケッターは買い物客の限界、すなわち共通の課題や悩みは何か、そしてモバイルセンサーの強みを消費者のためにどう活かすかを認識する必要があります。そうすることで、これまでにない、差別化されたサービスを提供するチャンスが生まれるのです。
モバイル端末による体験
コロナ禍の初期、それまで多くのブランドが実店舗などリアルの体験に投資をしてきており、オンラインのトラフィックが欠けるという事態に陥りました。とりわけ、世界有数のブランドがフラッグシップショップを展開し、リテール体験を提供している東京において存在感のあるブランドが、そういった問題に直面しました。フラッグシップショップの空間は、顧客を夢中にさせる体験を作り出し、ブランド・エクスペリエンスの限界を押し広げます。
しかしコロナにより、ブランドはフラッグシップショップでのエクスペリエンスの核となる要素が何なのかを考え、それをオンラインで再現する方法を探すことを余儀なくされました。多くがデジタルミュージアムのアプローチを選択した中、東京のレストランTREEは、実店舗と同様の体験を自宅でも楽しんでもらえるようにし、成功しました。
このブランドのフラッグシップショップは、デジタルライトプロジェクションを使用した、インタラクティブなダイニング体験で知られています。このプロジェクションマッピング体験を再現するために、同ブランドはモバイルアプリ、Google Cardboard VRビューア、そしてQRコードステッカーがついた在宅ミールキットを開発しました。ミールキットのQRコードステッカーと携帯電話の画像認識機能により、キャラクターと画像を使用したARプロジェクションマッピングが作動し、ユーザーはミールキットの料理を実店舗と同様に楽しむことができました。ブランドはARを使用したりVRヘッドセットを使用したりしながら、それぞれのコースで異なる没入体験を創出しています。
そのブランド独自の商品の大きさ、対面体験、またブランド化された個性も、ARやVRを活用することで、場所を問わずユーザーにエクスペリエンスを届けることができます。TREEは、エクスペリエンスに焦点を当てた事例ですが、コロナ以前のプロジェクトとして、Isobarは、ChevroletのためにARを利用してユーザーが自宅で車の3Dモデルを体感できるサービスを開発しました。この例は、特に大型機器やB2Bの機械などのオンライン購入の際に、ARやVRが活用できることを示しています。
モバイルユーティリティ
リテールブランドのオペレーションが突然シフトし、消費者の安全確保のニーズが高まったことにより、実用性の高いブランドアプリが登場しました。コロナ禍のはるか以前から、米国のレビューアプリYelpは、対象となるレストランから特定の範囲内にいるユーザーが「順番待ちリスト」に入れる機能の提供を開始していました。これにより、顧客はテーブルの準備が整う直前まで家で待つことができ、レストランの入り口に集まる必要がなくなりました。
ソーシャル・ディスタンスが当たり前になるにつれて、食料品店からデイケアまで、さまざまな業界がYelpに続き、「順番待ち機能」を開発しました。また、ネットで注文した商品を店舗で受け取る「カーブサイド・ピックアップ」や商品配達機能の開発も多く見受けられました。
これらの機能は、ジオロケーション技術を基軸としています。実店舗を持つブランドは、顧客の位置情報を利用することで最善の店舗サービスを提供することができます。通常、ブランドはタッチポイントまたはチャネルに基づいてユーザージャーニーを考えます。しかし、ジオロケーションを使うにあたっては、都市プランナーや建築家のような思考が必要になります。彼らは空間の感覚と、空間を移動する上で人間がどのような手段が必要かを考えます。モバイルユーティリティを構築するには、空間に応じたカスタマージャーニーを考えます。まずは、顧客が自宅にいるとき、店舗の近くまたは来る途中、そして店舗内にいるときに、顧客が何を必要としているかを特定することから始めます。
モバイルユーティリティをブランドにどう融合できるか明確にすることは、コロナの影響を乗り切るための最も強力な武器の1つとなるでしょう。すでにご紹介したいくつかの例では、携帯電話を利用してより豊かなブランド体験を提供し、ユーザーとの有意義なつながりを生み出しています。しかし、モバイルユーティリティを構築するには、しばしば忘れられがちなオムニチャネルアプリにこだわる必要が出てきます。Andrew Chen氏が下記で説明しているように、モバイルアプリを継続的に繰り返し使用してもらうよう動機付けするのはなかなか難しいことです。1回限りの体験や、最初のオンボーディング体験のみに気を取られていると、顧客の長期的な関わり合いを阻害するような状況をうっかり作ってしまうことになりかねません。
「平均的なアプリは、インストール後、最初の3日以内に77%のDAU (Daily Average Users=1日あたりのアクティブユーザー数)を失います。そして30日以内にDAUの90%を、90日以内では95%以上を失います。これは驚きです。つまり、大抵のアプリは数ヶ月以内にユーザーベースを丸ごと失ってしまうのです。Google Playストアにある150万以上のアプリのうち、意義あるトラフィックを維持しているのがわずか数千にとどまるのはそのためです。」 = https://andrewchen.com/new-data-shows-why-losing-80-of-your-mobile-users-is-normal-and-that-the-best-apps-do-much-better/
2022年以降、長期的な顧客エンゲージメントを生むようなブランド所有体験の構築が、ますます重要になってくるでしょう。GoogleやApple、そして多くの国がデータの扱い方を変え、顧客データと消費者のプライバシー保護を強化するポリシーを運用する方向に動き出しています。これらのポリシーにより、サードパーティデータの追跡と利用がより困難になります。この変化の結果として、ブランド体験の中で収集されるファーストパーティデータ、または顧客がフォームの入力やサインアップを通じてブランドに提供するゼロパーティデータが、ブランドが顧客を知るための主要な方法になるという状況が生まれるでしょう。2022年に新しいプライバシー規制が施行され始めれば、すでに独自のエクスペリエンスや、モバイルアプリ、ウェブアプリ、強力なeコマースの構築を始めているブランドは有利になります。
アフターコロナの生き残り方を計画する時、モバイル・ファースト戦略だけでなく、サービスラインを差別化し、長期的な価値を生み出す要因について考えることが不可欠です。競合ブランドのモバイルジャーニーや、類似の業界のブランドの活動からインスピレーションを得ましょう。電通アイソバー(現 電通デジタル)が様々な業界からインサイトを得られるようサポートします。弊社のオムニチャネルサービスデザインの専門家は、食品・飲料業界や従来の小売業のeコマースから、新しいフォーマットであるmコマースやcコマースまで、多分野にまたがる国内外のクライアント向けのサービスとエクスペリエンスを企画しています。ニューノーマルは、予想以上のスピードで私たちの生活に入り込んできています。準備万端で臨めるように、電通アイソバー(現 電通デジタル)がお手伝いします。
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