2021.10.07

「どこでも買えるEC」を実現する手段としてのヘッドレスコマース

新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、ECでの購買が急増しています。それに合わせ、企業側はより良い顧客体験を提供すべく、さまざまな取り組みを展開しています。

ただ、現在のECの「買われ方」を改善するという視点は少なく、お客様が前から欲しい、必要だと思っていた商品を買おうと思い立ち、たまたま出会ったバナーをクリックしたり、検索サイトもしくは、よく使っているECサイト(プラットフォームECやオウンドECサイト)で商品を検索したりして、売場まで移動する必要がある、という流れは以前と変わらないのが実情です。

では、このあり方はもう改善ができないものなのでしょうか?

電通デジタルでは、オンラインだけではなくオフライン含めて、複雑化するお客様の購買までの流れを利便性高く設計する、いわゆる顧客体験を向上させることーー「買いたいときにどこでも買える」ように設計していくことーーが重要だと考えています。本稿では、「どこでも買える」顧客体験を実現する技術である「ヘッドレスコマース」について解説します。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

コマース部門 コマースディレクション事業部 グループマネージャー

川久保 剛

アカウントイノベーション部門 アカウントディベロップメント部 ソリューションディレクター

髙田 拓之

ヘッドレスコマースとは何か

一般的なECサイトは、大きく分けると「フロントエンド」と「バックエンド」という2つの要素が一体となって構成されています。フロントエンドのことを「ヘッド」、バックエンドのことを「ボディ」と呼ぶこともあります。

Zoom

フロントエンドというのは、ECサイトのトップページ、カテゴリページ、検索ページ、商品ページやショッピングカートなど、サイトを訪問したユーザーのブラウザに表示され、目に見える部分とその機能のことです。フロントエンドの出来不出来は、商品の探しやすさ、見つけやすさ、見やすさ、操作しやすさといった、ユーザーの顧客体験を左右します。一方、バックエンドでは、ECサイトの裏側で動く仕組みを管理しています。Webサーバやメールサーバ、データベースなどを連携して、顧客情報の管理、商品の在庫管理、ショッピングカートの注文処理、顧客へのメール連絡などを担っています。
 
ヘッドレスコマースの「ヘッドレス」とは「ヘッドがない」という意味。つまりこれまで一体として運営されていたECサイトの「ヘッド(フロントエンド)」と「ボディ(バックエンド)」を切り離し、「ボディ」をメインにして運営できるようにしたコマースシステムのことがヘッドレスコマースと呼ばれています。
 
切り離されたヘッドはどうなるのでしょうか。ECにとって売り場であるフロントエンドがいらなくなるわけではありません。ヘッドレスコマースのシステムにおいては、これまでのようなECサイトだけではなく、あらゆる場所が売り場(ヘッド)となります。
 
たとえば、さまざまなSNSアプリやスマートスピーカー、スマート家電、AR/VRプラットフォーム、実店舗の店頭など、ユーザーが何かを「買いたい」と思ったその場所に、API<sup>注1</sup>を使って商品詳細情報や決済機能を埋め込むことで売り場化することができるようになります。ヘッドレスコマースはマルチヘッド、いわばどこにでも売場を作れるコマースシステムであるといえます。


ビジネスインパクトとコストをバランスさせる

コマースの分野でヘッドレスコマースが注目されている背景には、コマースにおける本質的な課題があります。それは、かけるコストと売り上げへの貢献が相関しないことです。
 
フロントエンドとバックエンドが一体化したシステムの場合、ほんの少しの改修であっても、大きなコストがかかりがちです。ユーザビリティの改善のためにショッピングカートや入力フォームの一部分を改修するとしても、バックエンドにまでその影響が及ぶ場合は、多くの工数と大きなコストがかかる可能性があります。
 
ユーザーの行動や、Webサイトデザインのトレンドはめまぐるしく変化しています。最適なユーザー体験を提供するUIを維持するためには、継続的な改善を行う必要があります。しかし、そうした施策のコストをすぐに回収できるとは限りません。短期的にみればコストが超過する状態の場合もあります。
 
ヘッドレスコマースの場合、フロントエンドがバックエンドから分離されているため、バックエンドへの影響を考慮することなくフロントエンドを改修することができ、結果として工数やコストを小さく抑えることが可能になります。ヘッドレスコマースは、長きにわたってECサイトの課題であった、ビジネスへのインパクトに対してコストがかかりすぎるという問題に対してのひとつの挑戦でもあります。


ヘッドレスコマースは、顧客体験の向上とビジネスロジックの改善を両立する仕組み

ヘッドレスコマースのもっとも重要な特長は、フロントエンドとバックエンドを分離することで、それぞれ独立したものとして考えられるようになることです。どちらか一方に変更を加える際に、他方に対する影響を考慮する必要がなくなります。
 
フロントエンドは、顧客体験、ひいては売り上げを左右する重要な役割を担っています。ヘッドレスコマースにおいて、顧客接点であるフロントエンドのインターフェースは1つではありません。ブラウザ、スマホアプリ、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピングなどのプラットフォームEC、SNS、実店舗など、それぞれの場所の顧客体験に最適化されるようカスタマイズする必要があります。そうしたカスタマイズを行う際に、バックエンドとの連携を考慮することなく、徹底的に顧客中心に設計することができます。
 
バックエンドのシステムを改修する際も同様の利点があります。決済、商品データベース、在庫管理、顧客管理、物流といったビジネスロジックがフロントエンドから切り離されているため、フロントエンドへの影響を気にすることなく、部分的な改善・改修を繰り返し、PDCAを回せます。一体化したECシステムを使っているかぎりは、システム開発がマーケティング施策やアジリティ(環境変化に迅速に対応するための機敏さ・敏捷性)の制約条件となり、顧客体験の改善に集中することは現実的に難しいものです。

API、モジュール化

ヘッドレスコマースを実現するための鍵となるのは、フロントエンドとバックエンドをつなぐAPIです。APIは、アジリティを高めるキーとなる技術です。
 
ヘッドレスコマースに必要な要素は、あらかじめAPIとして用意されています。つまり、さまざまなプラットフォームを利用している顧客からの求めに応じて出力すべきものが、すでに標準化されているということです。なかでも、世界シェアNo.1のマルチチャネルコマースプラットフォームであるShopifyは、APIが充実しています。
 
ShopifyのAPIには、大きく分けて2つの種類があります。1つ目は販売者向けの管理機能を提供するAdmin API群です。2つめはStorefront API群で、こちらはフロントエンドのUIをカスタマイズするためのAPIです。くわしくはこちらのページをご覧ください。

ヘッドレスコマースが優れている点としてもうひとつ、ヘッドレスコマースを提供しているECプラットフォームには大抵、アプリケーションのマーケットプレイスの存在があります。マーケットプレイスでは、売り手と買い手が自由に参加し、特定の機能を持ったアプリケーションを売買できます。ヘッドレスコマースを提供しているマルチチャネルコマースプラットフォームであるShopifyは携わる開発者のコミュニティとマーケットプレイスが大規模で独自のエコシステムを形成しています。
ソフトウェアの世界ではよく「車輪の再発明」という言葉を耳にします。自分たちが作ろうとしているものは、すでに広く世の中に存在しているかもしれないので、あらかじめ注意深く確かめよ、という警告的な慣用句です。自社ECでこれから作ろうとしているアプリケーションやライブラリは、マーケットプレイスで売り出しているかもしれません。もしマーケットプレイスで調達できれば、イチから開発する必要は無くなります。

ヘッドレスコマースは手段。しかし経営に直結する

長期的に売上を拡大し続けるのに一番大切なこと、それはもちろん顧客からの信頼を得ることです。顧客からの信頼は「欲しいと思ったときにすぐに買える」「いつでも買える」「どこでも買える」「スムーズに買える」といった快適な購買体験の蓄積によって醸成されていきます。これから5年先、10年先を見据えて継続的に最適な顧客体験を提供し続けるためには、できるだけ早くヘッドレスコマース化を進めるべきであると考えています。

当初はセキュリティや安定性が不安視されていたクラウドやSaaSも、ここ数年であっという間に金融機関や地方自治体のシステムでも採用されるようになりました。コマース領域においても、ヘッドレスコマースがそれらと同等のインパクトをもった技術的変革になると確信しています。

ヘッドレスコマースの導入によって、コマースの仕組みはシンプルになります。結果として、これまで優先順位が低かったために放置されていたビジネスロジック部分の経営課題、たとえばサプライチェーンの問題などが浮き彫りになるかもしれません。そういう意味ではヘッドレスコマースの導入は、ECシステムの問題を超えた経営マターであると捉えるべきです。

デジタルトランスフォーメーションの本質は「デジタル化」ではなく、デジタルを活用することで、顧客体験を向上させることを中心に事業の構造や会社の組織を抜本的に変革することに他なりません。ECにおいては、ヘッドレスコマースこそが顧客を中心としたDXの第一歩となります。電通デジタルではShopifyを活用したヘッドレスコマースの実現のため技術開発に取り組んでいます。ヘッドレスコマースに関心のある企業のご担当者さまは、お気軽にお問い合わせください。

○注釈1. ^ Application Programming Interfaceの略。フロントエンドとバックエンドを接続して情報をやりとりする仕組みのこと。

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