2021.10.04

ヘッドレスコマースがこれからのECシステムの最適解となる 〜導入に向けて企業はどんな議論を深める必要があるか?〜

コロナ禍によって生活者の消費行動は大きく変化し、それが“当たり前の日常”になりました。そうした変化を受け、企業側もeコマースの導入はもちろん、より広範囲にわたる変革を実践するDX推進に舵を切るようになりました。

それに伴い、コマース領域には新しい技術や概念が台頭してきています。その中でも「ヘッドレスコマース」は、生活導線に存在する多種多様なタッチポイントでコマース体験を提供し、さらに、その顧客が生み出すデータを蓄積・活用してより良い顧客体験を提供するための企業側の活動をよりスムーズに支えるプラットフォームとして期待されています。

ただ、「ヘッドレスコマース」を事業活動に取り入れていくにはいくつかの課題が見えています。では、その課題とはどのようなもので、どうすれば議論を先に進めていけるのか? 電通デジタル コマース部門コマースディレクション事業部 ビジネスアナリスト 川久保剛と、同ビジネスデベロップメント本部 ビジネスデベロップメント部 ソリューションディレクター髙田拓之が解説します。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

コマース部門 コマースディレクション事業部 グループマネージャー

川久保 剛

アカウントイノベーション部門 アカウントディベロップメント部 ソリューションディレクター

髙田 拓之

今までの取り組みを根底から覆してでもやるべきか?

冒頭でも示したように、多くの流通小売企業は「コロナ禍の中で顧客が求めるコマース体験を提供できるように、何か取り組みを始める必要がある」と考え、その方向性を模索しています。その中での選択肢として「ヘッドレスコマースの導入」に注目が集まっているのは周知の通りです。

これについて川久保は、「実際のところ、企業において『ヘッドレスコマースの導入』を前提とした議論をすることはまだ少数派だと言える。企業内で『あれもやりたい、これをこうしたい、これはこういうふうにして、これを効率化したい』という議論を重ねた末、『それらを設計図に落とし込むと結果的にヘッドレスコマースのような構成になる』という結論になる方が多数派だ。そして、その結果についてはクライアント内部でも『発想はよくわかった』と理解されることが多い」と、企業側の反応を挙げました。

その一方で、「ヘッドレスコマースへの移行は、システムのリプレイスはもちろん、これまで行なってきたさまざまな試行錯誤をゼロに戻して再度イチから構成し直さなければならないということでもある。その過程で必要となる多種多様なコストや、これまでの経験上知り得た『越えられない課題』も思い浮かび、クライアント自身が本当に実現可能なのか? と、疑問を呈することもある」と言います。

さらに、今まさに稼働しているeコマースや実店舗のオペレーションが収益を生んでいる状況も踏まえれば、「現状維持でも問題ないだろう」との判断に至ることは自然なことだと言えるのかもしれません。

髙田も、「ヘッドレスコマースの導入議論はビジネスの根幹に影響するため、明確なニーズがなければ踏み切れないのが実情だろう。ニーズには『潜在ニーズ』と『顕在ニーズ』があるが、ヘッドレスコマースが本当は必要だったとしても『潜在ニーズ』のままでは当事者が問題の本質を把握できていないため、要不要の判断ができるようになるまでには長く時間を要すると考えられる」と、ヘッドレスコマースの議論を取り巻く現状を整理しました。


システム環境やレギュレーションが課題になることもある

ただ、多くの流通小売業はその業界の性質上、非常に先見性が高くもあります。特にビジネスサイドの担当者は常に先を見据えた視点から判断を下す傾向がある、と2人は口を揃えます。

一方、eコマースには利用者の個人情報の取扱が必須であり、ひとたび情報漏洩が起きようものなら企業の存続すら脅かすことになり兼ねません。また、障害が起きれば利益の減少に直結するのは言うまでもないことです。
そのため、システム環境やデータ取扱のレギュレーションは強固に定められており、新しいことに取り組む際に企業の情報システム部門の担当者がコンサバティブな判断をしがちになるのは当然だと言えます。

「ヘッドレスコマースへの移行に不可欠なクラウドの導入自体が難しいケースは少なくないが、それが容易に覆せないことだということも理解できる」とは、川久保の言葉です。


スクラッチで構成した“ヘッドレスコマースっぽい環境”とヘッドレスコマースの違いは将来のビジネスに影響する

コマース全体の円滑なビジネスを支えるだけでなく、総売上げに占めるeコマースの売上げが高まる今日は特に、セキュリティの担保や安定的なシステム運用など、情報システム部門に求められる責任範囲と役割が広がっています。

そうした中で、「一定規模以上の企業になると、情シス部門が主体となって販売管理の仕組みやERP、在庫管理システムを繋ぎ込んで一連のシステム群として成立させているケースもある。彼らの中でも効率化や最適化を考えて開発を進めた結果、“ヘッドレスコマースっぽい環境”を作り出した、というわけだ」と川久保。そうして苦労と工夫、熟考を重ねて構築したものだから、多少レガシーなテクノロジーを元にしていたとしても、安定稼働している自分のシステムには愛着も湧くのだろう、と続けます。

しかし、そうして苦心して積み上げていったシステムだからこそ生じるおそれがある問題は無視できないものです。

髙田は、「ヘッドレスアーキテクチャへの移行を決める企業の多くは、スクラッチで繋ぎ込んできた各種システムについて、『何か変えようとすると別のところに問題が生じ、それに対応するとまた別のところに影響が及ぶ』という状態とその対応コストを理解し、システム刷新にかかるコストと比較して判断している。

通常運用で問題がなかったとしても、これだけ変化が激しいビジネス環境においてはシステム改修の頻度も上がると考えられる。そうした時、ひとつに変更を加えると連鎖的に影響が広がっていくようでは高コストなだけでなく、改修スケジュールも長くなり、ビジネスへの影響も生じてしまうおそれがある。

これに対し、ヘッドレスは導入さえしてしまえばその後の対応は部分改修で済むのでコスト削減も改修スケジュールも叶うと言える」と強調しました。

このヘッドレスならではの利点は、繋ぎ込んでいるシステムを常に最新状態にアップデートしたとしても影響範囲が少なくセキュリティを担保し続けやすい、という保守管理のメリットにもなります。また、情報システム部門の負荷を最小限に抑えることにもなり、企業全体の信頼性や安全性の向上、危機対応への備えにも貢献するでしょう。

加えて髙田は、「暗号通信や量子コンピューティングなど今まさに注目されている最新のテクノロジーが2〜3年後には実用化されるようになると言われている。そうした話はデジタル領域のあらゆる事柄に無関係ではなく、現場のシステムも考えられないほど刷新される可能性があり、その時になればヘッドレスの導入の必要性がさらに上がるのではないか、と考える」としました。


立場によって異なるリスク判断を越えられるか?

ここまで述べてきた通り、ヘッドレスコマースというモダンなアーキテクチャの導入は、マーケティング・コマース部門の「いかにデータをシームレスに活用して顧客体験を向上させるか?」という視点と、情報システム部門の「いかに安心安全な基盤を運用しながら問題なくビジネスを続けられる環境を作り支えるか?」という視点、そして、経営陣の「売り上げを保ちながらより良い成長を遂げていく」というそれぞれの立場が担う責任を果たす上での問題意識を挙げ、それらをすり合わせた上で最も合理的な判断として選ばれるものです。

つまり、ビジネスサイドとシステムサイドのCo-Creationが不可欠であり、ある意味では組織変革や組織融合に近い、と言えるでしょう。

ただ、残念なことに社内で議論を進めると、それぞれの立場の見方を“ぶつけ合う”という流れになってしまい、結果として議論が進まない、ということも往々にしてあるようです。

そうした状況を数多く見る中で、川久保は、「その議論を始める際に、各部署を繋ぐファンクションとして電通デジタルに参画を依頼してくださる企業が増えている。ヘッドレスコマースやクラウドの導入にしても、それはあくまで手法の話。その前に『一体何をなすべきか?』という議論から紐解いていく必要があるし、その取り組みを進めるパートナーでありたい」としました。

髙田も、「世界的に見てもコロナ禍におけるコマース環境の最適解はヘッドレスだと考える。しかし、先ほども触れた通り技術革新はスピードを増しており、10年後には全然違う、まだ見たこともないものが出てくるかもしれない。
そうした時に向けて、中長期に支えられる存在でありたいと考えている」と述べました。

では、さまざまな議論の末、ヘッドレスコマースを実践するとなったらどのような“実務”が必要になり、どのようなメリットを享受できるのか?
「『どこでも買えるEC』を実現する手段としてのヘッドレスコマース」でご紹介します。

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