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2021.09.22

UX改革としてのDX

DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進によるビジネス変革の実現は、企業経営の最重要事項になりつつあります。そしてさらに、DXを顧客体験やその体験を支える従業員や販売代理店など様々なステークホルダーにとっての体験もまとめて変革していく「UX変革」と捉える考え方も少しずつ浸透し始めているようです。

では、UX変革という形でDXを捉えた時、それを成功させるための要因とはどういうものなのでしょうか?  この疑問について、電通デジタル副社長 執行役員 小林大介が「日経クロストレンドフォーラム2021」で語った内容をもとに紐解いていきます。


DXは2つのタイプに分けられる

冒頭、小林はDXを「2つのタイプに分けられる」とし、以下のように整理しました。

  • タイプA = 既存事業モデルの改善:業務を効率化したり、アプリ等で新しいサービスを通して体験価値を提供し、向上させていく
  • タイプB =新規事業モデルの創造:新しい稼ぎ方、儲け方を作っていく

その上で、「DXについて、まずタイプAから取り組んでその延長線上にタイプBがある、あるいは、タイプBの方が“真のDX”である、という議論がある。しかし、本当にその捉え方でいいのだろうか?」と問題提起をしました。

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続けて、キャズム理論を提唱したジェフリー・ムーア氏のフレームワークを活用して、
「横軸を持続的なイノベーションか破壊的なイノベーションか、縦軸を収益を上げるための活動かそれを支援する活動か、と設定すると、右上は『パフォーマンスゾーン』と定められ、既存事業で収益を上げていく、いわゆるライン部門が該当すると考えられる。右下は『プロダクティビティゾーン』であり、パフォーマンス増によって生産性を上げることを支える、スタッフ部門がここに当たる。
一方、左下は『インキュベーションゾーン』となり、新しいビジネスの波を捉えるために新規事業を複数育んでいく、R&Dや事業開発部がここに当てはまり、左上の『トランスフォーメーションゾーン』はインキュベーションゾーンで育てられた事業を事業の新たな柱として拡大していく、CEO直下の事業部門と整理できる」と整理し、「ムーア氏の主張では、各ゾーンによってマネジメントの手法もKPIも異なり、それぞれが適切な独立性を保った形で活動すべきであり、経営者はその時々で各ゾーンに優先順位を付けたりリソースの調整をする必要があると述べている。
これに先ほど紹介したAとBのタイプのDXを重ね合わせると、右側がAタイプの、左側がBタイプのDXなのだと分かる」と述べ、「Aの延長線上にBがある、あるいはBが“真のDX”である、といったことではなく、それぞれ別の取り組みとして捉える必要があると言える」としました。

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それぞれのUX変革としてのDXに必要なこと

上述の前提に則って、小林は、「A:既存事業モデルの改善」「B:新規事業モデルの創造」それぞれについて、UX変革としてのDX成功の要因を以下のように掘り下げていきました。

ーー「A:既存事業モデルの改善」のUX改革のポイント
「既存事業モデルの改善」のUX改革のポイントは、「既存事業におけるカスタマージャーニーを俯瞰的に捉えて、そのジャーニーの各局面におけるUXの改善を一つひとつ図っていく必要がある」と、小林。
新規顧客の獲得を効率化させたり、ライフタイムバリューの最大化により事業効率を向上・成長させたり、といった取り組みが求められるとして、次の4つのポイントを挙げました。

1:組織を横断して変革エンジンを作る

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例えば、ネット保険の加入をイメージすると、表面的にはWebサイトがUXを作っていると見えるかもしれません。
しかし実際には、情報システム部門や連携するコールセンターや代理店、重要事項説明と同意のフローに関する法的な確認に関わるリーガル部門等のコーポレート部門といった社内の複数の部署や機能が関わり合ってひとつのUXを形成しているものです。
そうした中でUX変革を行なうとなると、そのための仕掛け「組織横断の変革推進エンジン」が必要になるでしょう。その際、「エンジンを適切にワークさせるには、プロジェクト型で進行すべきか、マトリックス的に横軸の組織を作った方がいいのか」という議論がたびたびなされるものです。
しかし、ここでなにより重要なのは、「プロジェクトなり組織が実質的なパワーをしっかり持っているか」ということです。
小林は、「パワーは総合的な要素が合わさり生み出されるものだが、それさえあればどちらの組織形態でも成功することが多い。実効性が担保されるかが問題だ」としました。

2:ITシステムのマイクロサービス化

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カスタマージャーニーを支える情報システムは一般的に大きな“塊”のようになっていて、ピンポイントで変えることが難しい場合がほとんどです。そのため、何かを変えようとしても現状にがんじがらめになっていることが往々にしてありえます。
理想としては、情報システムがいわゆるマイクロサービスとしてある程度の粒度で独立した形で構築され、それぞれがAPIで連携をするという状態であり、そうであれば自律的に改善を行なうことができると考えられます。
小林は、「多くの企業ではマイクロサービスへの移行を検討している最中だと推察するが、これをシステムのマターするのは適切ではない。マイクロサービスかどうかはUX改善のスピードを左右するもので、それは経営にも直結する。経営陣がコミットすべきだ」と指摘しました。

3:ユーザーの状況を理解すること

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自社にとってのユーザーについて熟知することは、ビジネスであれば必須のことです。例えば、新規顧客の獲得時には、何がユーザーにとってのハードルになっているのかを明らかにするために定量的な分析をするものでしょう。また、既存顧客の分析であれば、定量的な数字を指標にするものです。
しかし、定量的な数字だけではUXの改善の糸口を掴むことは至難の技。そこで、定量的な調査に加えて定性的な要素を組み合わせることでUX改善の仮説を作って行くプロセスが必要となります。
ここでのポイントは、「デジタル上の行動を、N1行動分析ツールを活用したり、ヒートマップのような手法を使ったり、ユーザーインタビューを実施するなど多様なアプローチを行ない、分析者に膨大なインプットをすることで、まるでユーザーが憑依(ひょうい)したような状態で仮説を作っていくことが望ましい」と、小林は述べました。

4:改善の複利効果をしっかり作っていく

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ほとんどの場合、大きなUX改善を行なえば「2倍3倍の効果が得られる」ということはありません。小さな改善を掛け算し続けることで大きなインパクトを作っていく、という考え方が不可欠だと言えます。
これについて小林は、「改善の複利効果についての好例には、LINE等のチャネルも活用して新しいサービスを立ち上げたプロジェクトが挙げられる。クライアント企業側にも改善チームを組んでもらい、アナリストやUXデザイナー、エンジニアや広告運用担当者などによって編成した弊社のグロースアップチームと密接に連携を取りながら改善施策をスピーディーに回していった。結果的には大きな成果になったが、実施したのはフローの再設計や各画面のUI変更、サイトの表示速度の改善と、細かいことだ。だが、ユーザーにとって体験を構成する大きな要素でもあり、この積み重ねが非常に効いた」と、経験を語りました。

ーー「B:新規事業モデルの創造」のUX改革における成功ポイント
続いて、小林は、「『新規事業モデルの創造』のUX改革時には以下の3つがポイントになる」と述べ、解説を続けました。

1:パーパスに立脚した事業デザイン

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まず、「新規事業を成功と言えるフェーズに持っていくためには、非常に様々な困難を乗り越えていく必要がある。それは決して簡単な道のりではない」と、小林。
ミニマムのプロダクトを作って試してみてもなかなか手応えが得られなかったり、軌道修正が必要な場合は追加投資が必要になったりと、困難に直面すると、既存事業部門などからは厳しい意見が出ることも考えられるものです。このようなハードルを乗り越えるには、「この事業を我が社がやらなくて誰がやる! と言い切れるまで、しっかりパーパスを突き詰めた事業プランになっていなければならない」と、小林は強調しました。

パーパスについて電通デジタルでは、まずは自社あるいは自ブランドのルーツあるいは原点をしっかり見つめ直した上で、自社が向き合うべき世の中あるいは生活者の中に既に存在する“痛み”、すなわちソーシャルペインをしっかり捉えて、それとパーパスが重なることが非常に重要であると考えています。
その上で、起こしたい社会変革像を検討して、ターゲット像の具体化をしてパーパスへの結晶化をしていくといったプロセスが必要になります。ソーシャルペインの探索にあたっては、既存事業に近いところに目線が集中する、あるいは、視野を広げすぎて注目すべき点が曖昧になる、ということも多々あります。小林は、「それを解決するため、ソーシャルペイン探索の効率化・網羅化を可能にするツールのリリースを予定している」と、以下の資料を用いて説明しました。
(※2021年7月28日発表 https://www.dentsudigital.co.jp/release/2021/0728-000955/

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2:戦略よりも体験のディテールにこだわる

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多くのデジタル領域における新規事業は、コンセプトや事業計画を作ってPoC(Proof of Concept)を経るものですが、続けていく中でかんばしい成果を見出せず「学びはあったけれど…」と、打ち切りになってしまうケースが多いのが実態です。
撤退の判断もまた必要なことではありますが、「本当にユーザーの支持を得られるまでの体験の磨き込みができているか?」という点もまた、精査すべきでしょう。
この点について、小林は「経営陣は戦略検討や事業計画に注力しているが、体験部分の検討にまで目を向けているだろうか? それが成功確度を高めることに繋がるのだから、戦略についてはしっかり考えつつも時間とエネルギーをかけすぎず、体験をブラッシュアップしていくことに熱量高く取り組み、戦略のピボットが必要な時にはそこに立ち返る、というふうに振る舞うことが成功の確率を高めるアプローチだと考える」と述べました。

3:圧倒的投資による事業育成

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先述のジェフリー・ムーア氏は、複数の新規事業を並行で育成して様子を見ながら継続か撤退かを判断していく中で、「この事業を今後の柱として育てていく」と意思決定したなら、それを自社事業のうちの10%相当を担うまでに育てるため、経営資源を集中投下すべきだ、と述べています。
この考え方は「当たり前」に感じるものですが、実際には、多くの調査や研究において、日本企業は長らくリスクテイクに消極的になっていることが示唆されています。
小林は、「新規事業に関しても、アジャイル型で、スモールスタートで、との声が多い。だが、そうして始めた事業が次世代を担うほど大きく育つには、やはり集中的な投資が非常に重要であると言える。それは、UXを浸透させるという意味でも非常に重要だ」としました。

DX成功のポイント

最後に小林は、冒頭で示した2つのDXのポイントについて、「ひとつには、組織やシステムを変革可能な“塊”でくくり出すこと。次に、自社の存在意義や向き合うべきソーシャルペインをしっかり掘り出していくこと。経験や体験をPoCを通して磨き込んでいくこと。そして最後に、圧倒的な投資による事業育成をすること。
この4つについて、しっかりとした経営者のコミットメントの下で実行していくことがDXの成功要因になる」と、締めくくりました。

電通デジタルは、事業変革と顧客体験変革のプランニングのご支援、アドビやSalesforce等のプラットフォームを活用したデータ基盤・システム基盤の構築、プラットフォーム上での広告やオウンドメディア、アプリ、ソーシャルコマース店舗も含めたコミュニケーションという3つのレイヤーで、UX変革としてのDXをトータルサポートいたします。

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小林 大介 Daisuke Kobayashi

株式会社電通デジタル 副社長執行役員
1996年、電通国際情報サービス入社。2004年の電通イーマーケティングワン設立に参加、2014年より同社取締役。2016年電通デジタル設立、執行役員に就任。2020年より現職。2021年5月に設立された一般社団法人「UXインテリジェンス協会」の副理事長を務める。

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