顧客の会員化や会員獲得が企業にとって重要であることは言うまでもありません。また、会員で居続けてもらうための施策を日々考え続けている担当者も多いことでしょう。こうしたテーマはコロナ禍の影響を受けて、さらに重要度が増しているとも考えられます。
このことは、国内有数の会員基盤を持つNTTドコモにおいても例外ではありません。同社では、2021年の挑戦として「カスタマーファーストの追求」を掲げ、それを実現するため、各組織がそれぞれの役割・プロセスを担っているそうです。ではその中で、どのように「顧客体験」と「ビジネス戦略」「データ/テクノロジー活用」をつなぎ合わせてCX向上に向けた取り組みを実施しているのでしょうか?
本稿では、実際に現場でDXを推進しているNTTドコモ マーケティングプラットフォーム本部マーケティングメディア部 会員基盤戦略 担当部長 南部美貴氏と、R&Dイノベーション本部 クロステック開発部 開発推進 担当部長 矢野達也氏に、これまでの取り組みや今後の構想について伺った内容をお伝えします。
(聞き手:電通デジタル DXディレクション事業部 事業部長 日向啓介、マーケティングDX第2グループ グループマネージャー 川原真哉)
本稿は2021年9月6日から4日間にわたって開催された「電通デジタルCXトランスフォーメーションウェビナーWeek」のセッションの採録記事です。
※所属・役職は記事公開当時のものです。
セッションの冒頭、日向は「コロナ禍でデジタル浸透が大きく進んだ。消費者の行動が変わり、企業もそれに合わせた変化が求められるようになっている。この流れに適応できない企業は競合他社に劣後したり、倒産が避けられない状態になってしまうことすらある」と指摘しました。
その上で、「コロナ禍の影響もあり、ドコモショップでは常に多くの来店客があったがほとんど見なくなった。他方、新しい料金プランの『ahamo』が誕生し、大いに話題になったことも記憶に新しい。そうした中での2020年度決算で示されたのが、3つのチャレンジだった。ここで“カスタマーファースト”という言葉が明記されているのを拝見した」と、水を向けました。
これに対し南部氏は、「カスタマーファーストはもともと取り組んでいたことではある。しかし、今回は『これまで通り喜ばれることをするだけでなく、お客様のニーズや状況を理解する』という決意も含めて改めて『カスタマーファースト』を打ち出した。これを実践するためにはデジタルの力は欠かせないと考えている」と述べました。
また、矢野氏は、「これまでもカスタマーファーストを主眼に置いて、デジタル化を目指していた。改めて決算をきっかけに宣言したわけだが、これを機に事業部とR&Dの部門がより一層、上流から融合しなければならない、と意識を新たにしている」と続けました。
両名の話を受け日向は、いまDX推進で求められる要素について、次のように解説しました。
「今日、良い商品やサービスに対するフィードバックがオープンになされるようになっている。商品やサービスで差別化できなくなってきた中、良質な体験による差別化は必須だと言える。お客様との接点を拡張し、企業が持つリソース・ケイパビリティ(データやテクノロジー)を活用して優れた体験の提供で差別化していくことが重要になってきている、ということだ」。
この時、注目しなければならないのは、スマホという接点によってサービス体験の提供による断続的な価値提供が可能になっている、ということでしょう。
南部氏も、「スマホは2年ごとに買い替えのタイミングを迎えるものだが、それだけが接点になってしまわないように、dポイントやd払いといったサービスで便利さという価値を提供し続ける必要があると考えている」としました。
ドコモの現在地
先述の「断続的な価値提供」という意味で、d払いやdポイントといったサービスは日常導線に寄り添った、非常に重要なものだといえます。とはいえ、競合他社が少なくない分野であるのは周知の通りです。
南部氏も、「お客様はd払いやdポイントと、その類似サービスを使い分けているようだ。より私たちのサービスを利用してもらえるよう働きかけることも大切だと考えている。キャンペーンをきっかけに利用していただき、『ここでも使えるのか!』『ポイントがよく貯まるな』と気付いていただき、次もその次も使っていただけるようになって、最終的にはメインユースのサービスになれるように、と考えている」としました。
他社サービスも利用している顧客に「d払いやdポイントをメインユースにしてもらう」というのは今日の状況を見ても一筋縄ではいかないとわかります。これに対し、「お客様が毎月使っているか? どれくらいの頻度・周期で使っているか? といった利用状況は重要なKPIになる」と、南部氏。
「NPS®も重要だが、利用頻度が高いということは満足感を得てもらえている、あるいは、必要性を感じてもらえている、と考えるようにしている」と続けました。
では、実際にどのようなコミュニケーションで利用を促進しているのでしょうか?
南部氏は、「いまは過渡期ではある」としながら、どんなお客様に使って欲しいかを定めてオススメしたいサービスをプッシュする「ターゲティング型」から、今お客様は何を求めているかを行動や興味をもとに推測してマッチングしたり、顧客を理解して適切なタイミングや回数で最適なオファーを送るといった「マッチング型」へと切り替えつつあることを解説しました。
その際、注意しているのは、「良いタイミングで先読みして、煩わしくない回数のオファーを出すこと」と、南部氏は強調します。
理想のCX設計と既存のコミュニケーション戦略のジレンマを越えるには?
多くの場合、事業ドメイン毎にCX(顧客体験)を設計し、施策を打つものだと考えられます。特にドコモのように様々なサービスを担当する事業部が存在する場合、横の連携を密に取り続けることは難しく、結果的にお客様側から見ると「オファーが多すぎる」と感じるおそれも出てくるでしょう。
ただ、事業ドメイン側の「オススメしたい」という気持ちを無下にすることも難しいものです。
こうしたジレンマについて南部氏は、「ドコモにはdポイントやd払いのほか、回線やコンテンツなど様々なサービスがあり、その担当部署の思いも汲む必要がある。彼らと議論しながら進めている」としました。
一方、川原は、「2019年5月から南部さんと一緒に『新規会員獲得』のあるべき姿を考えてきた。いまは最適なコミュニケーションの検討から実装までを行なっている。良い意味で“常駐の部外者”という視点を持ち合わせているのがドコモに常駐する電通デジタルのチームなので、ともすれば企業メッセージが強くなりそうな場面も一歩引いて考えながらコミュニケーション戦略を描くようパートナーとして取り組んでいる」としました。
南部氏は、「これまではサービス側を起点にコミュニケーションを考えていたが、ユーザーを起点にするとなって以来、様々なことが変わった。各事業担当者からは『自分たちがやっているのに』という気持ちを聞くこともあったが、電通デジタルの知見と合わせて向き合い、顧客軸で検討していくことで事業を横断したコミュニケーションの検討や各事業担当との連携もスムーズになっている」と感想を述べました。
そうしたことで起きた変化が、最近では、「お客様一人ひとりの視点でドコモを見てみると、事業ドメインを統合した視点で私たちも物事を考えなければならない」という意識の変化になり、それが浸透しつつあると言います。
外部パートナーや社内の専門家と連携することで生まれる価値
このような変化は、組織内のスキルトランスファーにも多いに影響すると考えられます。
これについては、「これまで若手社員は数年単位で様々な部署を異動していた。ITやデジタルの知見が少ない人も私たちの部署に着任することもあった。その都度、ノウハウや前後の経緯などの重要な情報を電通デジタルの常駐チームから伝えてもらっている。長く並走してもらえるのはそうした意味でもありがたい。
一方、私たちとしてもデジタル・IT人材を増やすよう変革が起きている。共に実務で成長していく、という考え方だ」と、南部氏。
さらに、デジタル・IT人材の実践的な教育の機会であり、かつ、自社にとっても実験的な取り組みとして、新たな顧客体験のあり方を外部の専門家らと模索を始めていると言います。
例えば、九州大学とドコモ内のR&D部署と共同研究した内容は、人の動きを可視化し、購買シーンにおけるCXの向上を目指す取り組みを行なった、とのこと。
「はじまりはdポイントを活用して社会に何か貢献できないか? という発想だった。来店前〜来店時に混雑状況・条件を通知し、イートインが混雑しているからテイクアウトにする、と行動変化が起こったらその分ポイントを付与したり、ピークシフトで来店すれば協力への感謝を込めてポイントを付与したり、といった取り組みを行なうことで、お客様はポイントが得られ、店舗は混雑緩和などが可能になる」と、取り組みの意義を語る南部氏。さらに、「これによってビジネスではあまり接点がなかったR&Dの部署ともタッグを組むことができた」と述べました。
一方の矢野氏は、「R&Dでは位置情報の技術を磨いてきた。位置情報を活用して人流を把握できれば、交通や医療ヘルスケア、都市デザインやFintech、コミュニケーションなどスマートシティの構想にも役立つものとなる。R&Dとして、事業と連携した技術開発を進めていきたい」としました。
矢野氏が述べたR&Dの知見は、企業内には何かしら眠っていることが考えられますが、どう社会に浸透させるか、課題になっている企業もまた少なくないものです。これを活用するには、やはり今回の南部氏と矢野氏のように、事業とR&Dの融合の機会を創出する必要があると考えられます。
日本企業に求められるDX推進のカタチとは?
最後に日向は、「別のKPIを持つ事業同士のコラボレーションはハードルが高いもの。そこを越え、さらに、自前主義に陥らずに外部の専門家とのコラボレーションも果たされている。そんなドコモは今後、DXをどのように進めていくか?」との質問を投げ掛けました。
これに対し、「『DXをしなければならない』という考え方ではなく、お客様に何を提供できるか、という視点が重要だと考えている」と、南部氏。
それを受け矢野氏は、「悩みながら進んでいるのがR&Dだ。今後は事業と同じ目線で進んでいきたいと考えているし、それにあたり要件や仕様を検討する段階から一緒に取り組んでいきたいと考えている。そうすることでカスタマーファーストも実現できるはずだ」と、締めくくりました。
PROFILE
プロフィール
この記事・サービスに関するお問い合わせはこちらから
TAGS
タグ一覧
EVENT & SEMINAR
イベント&セミナー
ご案内
FOR MORE INFO