2022.03.14

銀行業界のDXの現状は? 勝ち筋を見出すCX戦略の進め方

生活にデジタルが浸透したことで、銀行の事業モデルは変化を迫られています。事業モデル変革、事業成長の羅針盤となるのはCX(顧客体験)です。CXを中心にDXを推進する方法を、電通デジタル プロジェクトマネジメント事業部 清水 正洋が解説します。

 

※この記事は、2021年11月24日~26日に開催した「DX Conference Vol.1 by Dentsu DX Ground」のセッションを採録し、再構成したものです。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

電通デジタル CXトランスフォーメーション部門 プロジェクトマネジメント事業部 ビジネスデザイングループ
グループマネージャー

清⽔ 正洋

過去の成功に縛られる企業はデジタル時代に成功できない

銀行を含む多くの日本企業でDXが難航している理由は、過去の成功体験に起因しています。

  • 大量生産・大量消費に最適化した経営戦略・事業戦略
  • 労使一体型の経営
  • 年功序列の世代別階層構造
  • 事業単位・機能単位にサイロ化された縦割りの組織構造
  • ボトムアップコンセンサス型の意思決定
  • かんばん方式、KAIZENによる効率化、業務改善

これらは日本企業の標準的な経営モデルとして定着し、長期持続的な成長に貢献してきました。しかし、デジタル時代の到来により急激な変化を求められる現在、逆にDXの足かせとなりつつあります。

  • DXプロジェクトにおいて部署間の意識合わせで難航する
  • サービスの改善サイクルが遅く他社の劣後となる
  • デジタル/UX人材が不足している

といった課題を抱えて、なかなか変革が進まず、成長が停滞している企業が多くあります。「改善型イノベーション」に最適化された日本企業にとって、非連続で破壊的なイノベーションが求められる状況への対応が最重要課題となっているのです。

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デジタル化による銀行の事業モデルの変化

デジタル化で生活者の生活が大きく変化し、圧倒的な生活者情報を保有するトッププレイヤーが優位になりました。そうした状況で、銀行の事業モデルも変化を遂げてきました。その変化は「マッチング型」「ツール型」「ソリューション型」の3つのバージョンに分けられます。

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バージョン1:マッチング型

デジタル化以前のビジネスモデルでは、銀行は金融商品メーカーとの企業間契約を結び、メディアや店舗を通して商品やサービスを生活者に提供するのが一般的でした。このモデルをバージョン1とし、「マッチング型」と名づけました。まだ多くの銀行がこのバージョン1に属しています。

バージョン2:ツール型

デジタルが浸透するにつれて、インターネットバンキング、決済アプリなどをサービスという形で生活者に提供するようなビジネスモデルが登場しました。提供するサービスを充実させ、ツールにより生活者を囲い込み、ニーズに応じて金融商品メーカーと銀行をマッチングさせていくモデルです。これをバージョン2、「ツール型」と定義します。バージョン2には、おもにインターネット銀行が当てはまります。

バージョン3:ソリューション型

バージョン3の「ソリューション型」は、生活者のライフスタイルを把握し、ソリューションを提供するようなモデルです。一人ひとりに寄り添い、アプリを通して接点を拡大する傾向があります。バージョン3では銀行を中心に、金融商品メーカー以外の企業も含めてエコシステム化していきます。生活者の情報を持つ銀行がプラットフォーム化し、銀行からメーカーに取り組みを依頼するような産業構造の変革が起こっています。


ソリューション型には、他業界からの参入企業や、モデルチェンジでの新興サービスなどが分類されます。

ソリューション型の銀行としては、PayPay銀行が挙げられます。PayPay銀行は決済ソリューションとして先行し、多くの生活者の決済情報を取得しており、そこに根幹である銀行情報をオーバーラップしていく取り組みを進めています。

楽天銀行は、楽天市場をはじめさまざまな関連サービスにより、生活者の圧倒的な囲い込みに成功しています。銀行機能、決済機能をさらに充実させ、ソリューションのラインアップを広げて、空いたピースを埋めていくような活動が行われていると見受けられます。


変革のきっかけは生活者から見た”存在価値”の明文化

おもにバージョン1に属する銀行は、今後の変革をどのように進めていくべきでしょうか。きっかけとなるのは、生活者から見た自社の存在価値を、ミッション・ビジョン・バリュー・パーパスとして明文化することです。これらは時代の変化に合わせて自行の変革を進め、事業を成長させるための目標です。経営KPIに取り込み、一貫して実行する必要があります。

事業成長の羅針盤となるものはCX(顧客体験)です。CXを最適化していくには、次の4つの視点が指針となります。

  1. ビジョン
  2. ケイパビリティ
  3. オペレーションシステム
  4. ユーザーの状況

4つのうち、特に大事なのは「4.ユーザーの状況」です。生活者が金融商品を必要とするポイントがどこに発生するのかを考えます。たとえば、「ローンを必要とするタイミングはいつか」「どのような環境にある人がどういうシーンでローンを検討するのか」などを、的確に捉える必要があります。

ユーザーの状況を捉えるにはエンパシーマップやカスタマージャーニーを用いて、ローンを検討している生活者がどういった状況から資金ニーズが発生し、どのチャネルを使い情報収集し、誰に相談するのか、また商品やサービスのに対して一連にどういった心理的ハードルがあるのかを連続的に捉えます。

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カスタマージャーニーでシーケンス上に発生する負の状態を特定し、CXを向上させる

カスタマージャーニーで特定すべきは、商品以外の接点を通しても改善されない「負の状態」です。生活者が負の状態にあるときに、

  • どのような手段で高頻度に接点を持てば、よりよい体験に変えられるのか
  • どのような体験を向上させれば、企業接点をより太く長くつなげていけるのか

をしっかり考えて、シークエンスの中で高頻度に顧客とつながる機会をサブジャーニーとして切り出します。サブジャーニーを積み上げると、「生活者のライフスタイルのどの部分を更新するのか」、さらにその上位の「どんな生活の期待を立ち上げるのか」にしっかりと寄与する成長シナリオにつながります。この成長シナリオを、

  • 机上で考えるだけでなく現場で実現可能であること
  • ユーザーから需要があること
  • 事業として成長できること

という3つの観点で評価しながら、とるべき戦略を決定していきます。

銀行は、自行の商品やサービスを通じて、顧客と連続性のある関係を構築できるのが理想です。そのためには、生活者の負の状態が生じている複数のシーンを見極め、連続的にサービスを提供することを考えます。サービスの束を作っていくのです。

サービスの束ができれば、事業ドメインに連続性が生まれ、体系立てた戦略がとれます。事業を成長させるためのDXにおいて、中心に据えるべきはCXである。われわれはそのように提唱しています。


CXを中心にDXを支援するソリューション

電通デジタルでは、DX推進に必要な機能を次のように整理しています。

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ここにCXソリューションをマッピングしたのが次の図です。

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中核にあるのがUX(ユーザー体験)デザインです。顧客を深く知り、顧客のよりよい生活を実現するソリューションを磨き込むノウハウを中心とし、そこから上下にベクトルが向いています。

上向きのベクトルでは事業DX戦略、CX戦略、システム構想、IT組織改革構想のコンサルティングを行っています。さらに、サービスデザイン、UX組織開発を同時並行で実現します。

さらに、最上位支援として経営幹部向けのDX研修を行っています。勉強会を通して、われわれが今まで培ってきたノウハウを経営者、経営層の皆様にお伝えします。それにより中長期ビジョン、ゴールイメージを明確にし、現場の皆様に落とし込んでいくサポートをしています。

下向きのベクトルでは、データ活用の基盤設計・開発、運用していくための従業員体験設計とオペレーションシステムの開発を行っています。先ほど「ビジョン」「ケイパビリティ」「オペレーションシステム」「ユーザーの状況」という4つの視点によるCXの整理について紹介しました。その部分を支援する内容です。

他にも、下向きのベクトルでは、UX人材を中心としたアセスメント研修、OJTによる人材開発を提供しています。DXが進まない理由として、多くの企業でなかなかデジタル人材の獲得ができないという課題があることを前半で紹介しました。社内人材にスキルアップ研修を提供し、この課題を解決します。

事業構想や事業戦略、DX組織の変革、デジタル人材育成は、ぜひ電通デジタルまでお問い合わせください

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