デザインの役割がビジネス分野に進出し、CX/UX向上等のデザインアプローチを起点としたデザインプロジェクトは増加の一途をたどっています。世の中の不確実性の高まりとともに、プロジェクト実行は、既知の未知から未知の未知へと広がり、難易度が高まっています。
購買接点が目まぐるしく変化し、新たな購買接点を創出することが急務となっている今、CX最大化に向けたプロジェクトにどのように取り組むべきか? デザインの現場からデザインプロジェクト推進におけるポイントを考えていきます。
※この記事は、10月25日〜10月29日に開催した「Commerce Week 2021」にてコマースデザイン事業部 コンサルティングマネージャー齊藤恭子が発表した内容の採録です。
※所属・役職は記事公開当時のものです。
最初にCXデザインマネジメントとは何か、考えていきたいと思います。
まずは言葉の定義です。CXとは顧客体験のことを指し、購入前から購入後までの全ての体験、顧客が商品やサービスを体験して得られる体験価値の創造と定義されています。
デザインプロジェクトとは、エンジニアリングとクリエイティブをデザイン思考や人間中心設計などのフレームワークを利用しながらデザインし、プロジェクトとして落とし込んだものを指す、と定義します。
マネジメントとは、ご存知の通り、組織的な役割を持ち、組織の目標設定、計画、運営管理をすることを指します。もうひとつの側面としては、経営を指し、CXは戦略や定常・運用業務といった改善し続ける性質を持ち、プロジェクトは目的を達成するための期間が定められている業務とも定義できます。
これらを踏まえると、CXデザインマネジメントとは、「CXをデザインプロジェクトとして実行し、組織のCXを最大化に導く、CXに特化した手段手法」だと定義できます。
なぜCXデザインマネジメントを検討する必要があるか?
では、今なぜCXデザインマネジメントを検討する必要があると考えるのか、改めてお伝えしたいと思います。
ひとつ目には、VUCA・TUNA時代の到来による社会の変化や外的要因が挙げられます。VUCAとは、変動性、不確実性、複雑性、曖昧性の頭文字を取った言葉。TUNAは乱気流、不確実性、新規性、曖昧性の頭文字を取った言葉で、近年の社会情勢を言い表す際に用いられるようになりました。こうした言葉からもわかるように、未来を正確に予測し、計画を実行することが難しくなっているのは周知の通りです。
次に、エクスペリエンスの再設計の必要性について考えてみましょう。
デジタルディスラプションと言われるデジタルによる破壊的なイノベーションにより、既存の製品やサービスが破壊され、新しい製品サービスが生まれています。代表的な企業やサービスとしては、Netflix、フーマーフレッシュ(盒馬鮮生)、Uber、AmazonGO、Airbnbなどが挙げられるでしょう。こちらのサービスには、「UX全体がデジタル端末と統合されている」という特徴が共通してみられます。
このような変化の中に暮らしているユーザーは、当然ながら、さらによりよい世界を求めています。そのため、購買体験を向上するためには、更なる顧客体験の再設計が不可欠となります。
CX向上に向けた様々なアプローチ方法
では、CX向上に向けた様々なアプローチ方法はどのようなものがあるのでしょうか?
まず、デジタルマーケティングを考える上で検討すべき組織領域を、電通デジタルを例に整理してみたいと思います。
下図のように、DXコンサルティング、ITプラットフォームや次世代デジタルマーケティング、といった大きな領域があり、DX戦略策定、組織支援からデータプラットフォームデザイン、クリエイティブ開発、マネジメントといった組織領域が存在します。
次に施策群と必要な環境について確かめてみましょう。
施策については、各種広告、サービス設計、デジタル接客など様々な施策が存在します。そして、それらは各種データ設計に基づいて施策を導き出したり、評価をします。
そのデータを取るためにはデータ基盤の整備が欠かせません。そして、必要な業務領域と知識エリアとして、事業戦略、ビジョン策定から、例えばコンテンツマーケティング、UI/UX、プラットフォーム導入、運用業務、プロジェクトマネジメントなどが必要になります。
次に、デザインプロジェクトの影響を調査したものが以下の図になります。
2013年から2019年の中で実施したデザインプロジェクトにおいて問題発生箇所を調査し、PMBOKの第6版で定義されたプロセス群と、知識エリアに問題点をプロットしました。
※2022年2月 現在はPMBOK第7版が刊行
計画プロセス部分に課題、そしてそれに引きずられる形でプロセス間を相互に調整する役割を持つプロジェクト統合マネジメントに問題が集まっているのが分かります。
ひとつ前の図で示した通り、検討範囲や実施範囲、知識エリアが拡大している状況は、今まで積み上げてきた知識や経験だけでは対応できない、あるいは対応が困難となる場面が増えている、というわけです。そのため、プロジェクトはますます実行難易度が高まっていると言えます。
デジタルマーケティングにおけるエクスペリエンスデザインがどうあるべきか?
エクスペリエンスデザインについて、CXを中心に考えると、ブランドエクスペリエンス、ユーザーエクスペリエンスがあげられますが、
デジタルマーケティングにおけるエクスペリエンスを考えるときには、マーケティングやデータ戦略も忘れてはなりません。体験設計に注力するあまり、マーケティング・データ戦略がおざなりになってしまうことにしばしば出くわすことがありますが、体験の文脈とあわせて検討していく必要があります。
マーケティング視点での体験設計のポイントとして、コロナ禍でのデジタル普及がますます加速し、購買接点がさらに増加したことが挙げられるでしょう。増加した購買接点ごとのCX/UXを作っていくことや購買接点そのものを作る企業活動が増えていると思います。
既存からある業務体制に合わせて、その組織構造の中でマーケティング施策を考えていくと、チャンネルやファネルごとの施策を考えがちになりますが、CX改善と収益最大化も検討する際に必要なのは「全体のエクスペリエンスをどうするか」を考えていくことです。
体験設計を考えるデータ戦略についても、同様に検討する必要があります。
例えば、都心のビジネスパーソンたちの平日の行動を、コロナ前、コロナ禍、コロナ後で整理すると、行動や購買接点が変化していることが分かります。
つまり、どのようなデータを取得して活用していくのかは、体験設計とともに検討する必要がある、というわけです。
体験設計をする際の課題
2013年、韓国のとある駅に現れた壁一面のオンラインストアや日常生活でスマートスピーカーが活用されるようになったり、2018年の上海NIKEでは体験を中心とした店舗設計が行われたりと、このところ実施してみたくなるような魅力的なテクノロジーが実際に活用されている例はたくさんあります。
しかし、ここで大切なのは、テクノロジーありきの施策を検討するのではなく、よりよい体験設計をつくるためにはどのようにそうした先端テクノロジーを取り入れるか、ということを検討することです。
最新テクノロジーを取り入れる上での問題点を可視化する
ここで、あるUI/UX改善プロジェクトを例に、「先端テクノロジーありきで進めることの問題点」を確認してみましょう。
あるプロジェクトでは、始動当初、調査分析が十分でなかったことが発覚したため、調査分析プロジェクトを先んじて実施することになりました。そして、戦略に合わせてコンテンツマーケティング、オンライン接客、導入プロジェクト、プラットフォーム導入が同時進行で実施されていきます。そして、本題であるUI/UX改善プロジェクトの中で、サイト構築プロジェクト、コミュニティ構築等がさらに発足していきます。この状況に伴い、必要な関係組織や外部パートナーなどに参画してもらうと、非常に混乱しやすい状態になっていきます。
戦略ではコンサルティング会社A社と事業戦略部、コンテンツマーケティングでは代理店B社とデジタルソリューション部、UI/UX改善では代理店C社とデジタルソリューション、プラットフォーム導入ではプラットフォーマーと情報システム部、データ戦略部といったように、CXの設計が局地化して担当組織、施策対応会社がバラバラになっていきます。
これを、人材配置の観点で考えてみます。
ビジネスストラテジーとエクスペリエンスデザイナー、リサーチャーによりプロジェクトが発足し、戦略により新しいプロジェクトが生まれました。さらに段階が進み、戦略運用側にブランドデザイナー、マーケター、データサイエンティストクリエイタープランナーなど様々な諸職種が配置されます。
さらに段階が進み、プロジェクトマネージャーはスコープクリープを避けるため、プロジェクトを分割します。様々なプロジェクトが乱立していくので、プロジェクトチームとしてプロダクトマネジメントを開始します。このような状況の中、CXの検討というのは、当初からプロジェクトに参加しているメンバーに集中し、リソース面からも、全体最適やコントロールが難しい状況となっていきます。
長期戦略をもとに体験設計を考える際の問題点を可視化する
もうひとつ、ケースを見てみましょう。長期戦略(5か年構想)で、「2020年には全てがインターネットに繋がる」という世界を描き、それに向かった施策を計画・実行することになったとします。
そうすると、CXの発生が局地的に起こり、カスタマージャーニーがそれぞれに作られていくことになります。開始当初は構想と乖離は小さいものですが、徐々に変化が出てきます。現場で実践から生み出される創発的な活動によって全体CXの整合性が合っているのか、変更しても良いのかといった疑問が生まれることもでてくるでしょう。
特に今日ではビジネスのスピードが非常に速いので、長期プロジェクトや長期の構想は年を追うごとに陳腐化されるリスクがあります。先を描きづらい世の中で、長期戦略を変更せずに、愚直に対応し続けるといった姿勢がむしろ裏目に出てしまう、ということも考えられるものです。
このような場合、戦略が変化することを念頭に、将来の目標を流動的に描きつつ芯はブレないよう、CXの全体構想を示す必要があると考えます。つまり、グランドジャーニーという考え方が必要になる、といえます。
グランドジャーニーの役割と利点
前述の2つのケースに見られるような混乱を回避することにも繋がるグランドジャーニーは、「長期取り組みにおける戦略、体験設計の陳腐化を防ぐ」「オープンエンドの取り組み(=戦略・定常業務向き)か、クローズドエンド(=プロジェクト向き)なのか、判断することに役立つ」という役割が挙げられ、最新の体験設計の共有手段のひとつとも言い換えられるでしょう。
そして、グランドジャーニーは作ったままでは終わらず、現場での実践から見出される創発的な戦略の取り組みによって成長していくという特徴と、チャネルを超えた体験設計が描かれ、あくまでも体験設計にフォーカスされたもの(企業の長期戦略とは別に描く)である、という特徴も持ちます。
サイロ化せずに企業全体のCXデザインするために何が必要か
前述では、グランドジャーニーの作成を検討しましたが、現場での実践から生み出される創発的な活動によってグランドジャーニーに変更の必要性が発生した場合、それをコントロールする組織が必要になります。
このCXを管理推進する役割として、CXデザインマネジメントオフィスという組織が必要になると、私たちは考えます。
グランドジャーニーの変更をしても良いか、それに対する意思決定、新しいCXの考え方の共有、必要があればプロジェクトを統合、最適化する判断を行なうのが、このCXデザインマネジメントオフィスです。
さいごに
本稿では、CX全盛時代のデジタルマーケティングにおけるエクスペリエンスデザインがどうあるべきか、という問いに対し、グランドジャーニーの必要性やそれを管理する組織としてのCXデザインマネジメントオフィスの可能性を考えました。
しかし、エクスペリエンスデザインのマネジメントについては、業界を超えて新たにデザインしていく分野だと考えます。CX最大化に向けて、引き続き皆様と検討を深めていければと思います。
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