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2022.02.02

「イミ消費時代」に愛されるブランド“らしさ”を自社アプリに生み出す、CX起点のコマースデザイン

スマホやタブレットなどの台頭により、日々の連絡から買い物の支払い、読書、ゲームなど、今やアプリは我々の生活に欠かせない存在になりました。「顧客と最も近いチャネル」とされるアプリにおいて、企業はどのようなコマースデザインができるでしょうか。

電通デジタルでは、自社アプリのCX(顧客体験)をデザインする際に「アプリを起点としてブランドを好きになってもらうために、何ができるか」という視点が重要だと考えています。

「イミ消費時代」と呼ばれる現代、いかにオンライン・オフラインの体験を統合し、CXの価値を高め、顧客に使われ続けるアプリを生み出していけば良いのでしょうか。電通デジタルで実践しているアプリマーケティングのアプローチについて、電通デジタル コマースデザイン事業部 プランナー 高橋和希が語った内容をご紹介します。

(この記事は、10月25日〜10月29日に開催した「Commerce Week 2021」のセッションの採録です。)


「イミ消費時代」にコマースデザインはなぜ必要?

昨今の消費シーンを牽引するミレニアルズ(1980年代〜1990年代前半生まれ)、Z世代(1990年代後半〜2000年代生まれ)の消費インサイトの変化に伴い、高度経済成長期に始まった「モノ消費時代」から2000年代初頭の「コト消費時代」を経て、現代は「イミ消費時代」である、と言われています。

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「イミ消費」とは、ブランドの哲学や世界観に共感できるかどうかによって購買の意思決定を行うことを指します。イミ消費が発展してきた背景には、SDGsなど企業の社会的責任が問われ始めたことがあるでしょう。今や、企業は単なる「より高品質なモノ、サービスを作って売るだけ」の組織ではなく、社会的・文化的基盤を築く存在だと認識されているのです。

ただし、「イミ消費」の「イミ」とは、社会的・文化的な価値を生み出すポジティブな働きかけだけを指すものではありません。例えば、ブランドの徹底的な透明性を実現するため、発生するすべての原価をサイト上で公開し、顧客からの信頼性を勝ち取ることでファンを増やした事例もあります。このように、生活者の潜在的ニーズ、違和感などを解決・解消することも「イミ」のひとつです。

「イミ消費時代において、単に安くて便利なことは他社との差別化にならない」と高橋は指摘します。「自社ブランドが生活者にとって必要とされる価値や意味、存在意義(パーパス)を再定義し、それを体現するために一貫した顧客体験を再設計すべきだ。これらを通じて、消費者に『それでもここで買いたい』と思ってもらわなくてはならない」。


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つまり、「イミ消費時代」にブランドが愛されるためには、「商取引をデジタルネイティブな視点から再設計すること」(=コマースデザイン)が必要なのです。スマホ時代、アプリは生活者との距離が最も近いチャネルです。次章からは、そんなアプリを活用したコマースデザインで行われる3つのステップについて、ステップごとに詳しく説明していきます。

ステップ1:アプリのCX設計によって、アプリを使う意義をユーザーに感じさせる

コマースデザインの要となるのが、CX(顧客体験)の視点です。自社アプリでのCXを設計するにあたっては、アプリ単体の体験ではなく、ブランドの顧客体験全体を見渡す俯瞰的な観点から臨みましょう。ブランド全体を通じた顧客体験の中で、アプリが何を成し遂げられるかを考えることで、ブランド体験の価値を高めることができます。

c-a-b-i-f-y-a-t-w-b-l-i-t-a-o-i-c_03ここで、体験を俯瞰するための簡易CXフレーム(下図)を見ていきましょう。横軸にブランドとユーザーの接触フロー、縦軸にチャネルをとり、それぞれのフローでユーザーにどんな体験を提供しているかを書き出します。すると、アプリがどんな価値でユーザーに使われているかを俯瞰で確認することができます。

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「例えば、ブランド認知フローでは、オフラインチャネルには実店舗の視認や友人からの口コミなどを、オンラインチャネルにはデジタル広告の視認やWebサイトの訪問などをプロットする。既にアプリを持つ顧客なら、各フローで既存アプリを使ってできるコトやモノもプロットすれば、顧客にとって現在のアプリが持つ価値も俯瞰できる」と高橋は例示します。

現状を確認したら、新しい体験価値の創出を考えていきます。新しい体験価値の創出には「顧客の満足を高める」「顧客の我慢を減らす」「顧客に驚きを提供する」という3つの要素が必要とされています。高橋はこれを「良い面を伸ばす」「悪い面を除去する」「前提をなくす」「ユーザーを変える」という4つのアイデアの切り口に変換します。


c-a-b-i-f-y-a-t-w-b-l-i-t-a-o-i-c_054つのアイデアの切り口について、高橋はアクティブユーザー数の多いある飲料メーカーのアプリにおけるCX改善事例を用いて解説しました。特に機能アップデートで後から実装された「前提をなくす」「悪い面を除去する」「ユーザーを変える」という3つのCX改善に注目しています。

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前提をなくす
購買シーンでしかアプリを使わないという今までの前提をなくし、購買体験全体でアプリとのタッチポイントを生み、アプリのいい面を最大限に伸ばした。
悪い面を除去する
これまでの購買行動にアプリを加えるとなると、ユーザーに手間がかかりストレスになる。不便さを解消するため電子マネーを登録し、アプリだけで購買行動を完結できるようにした。
ユーザーを変える
周囲の人を巻き込む手段として、獲得したドリンクチケットをプレゼントできるギフト機能を実装。ユーザー(のアクション)を変えることに成功した。

このように、現在の体験フローをCXフレームに当てはめて俯瞰し、4つの切り口からブランドの魅力を高めるアプリの体験価値を規定または創出することで、ブランド全体の価値体験を向上させていくことがCX設計のアプローチと言えます。最終的には、アプリを使う人自身が「このアプリは自分にとって〇〇、だから使う」という理由や意義を創出することが、CX設計のゴールです。

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ステップ2:UI/UX設計によってユーザーによく使われるアプリにする

ステップ2のUI/UX設計では、CX設計で規定した「アプリが提供する価値体験」を軸とし、実際にユーザーが習慣的に使ってくれるような機能や画面に落とし込んでいきます。そのためには、Hooked Modelというフレームワークを使い、アプリの機能を1回限りの点ではなく、顧客体験という線で捉えることが重要だと高橋は考えます。

Hooked Model(下図)では、顧客体験を「トリガー(きっかけ)」「アクション(行動)」「リワード(報酬)」「インベストメント(投資)」という4つのプロセスに振り分けます。4つのプロセスを繰り返すことで、製品やサービスの利用が習慣化していくという顧客体験を一般化したフレームワークです。


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「アプリ開発の現場でよく起こる問題として、魅力的な機能を開発したのに使ってもらえないというものがある。こうした場合、たいていはユーザーのアクションとリワードだけにフォーカスしていて、トリガー(機能を知ってもらうきっかけ)やインベストメント(ユーザーの積極利用につなげる投資)のプロセスを検討していない」と高橋は指摘します。

前述の飲料メーカーのアプリは、一見、ドリンクチケットを得るという単純なリワードとアクションのみしかないように見えます。しかし実際は、アプリ内外でのわかりやすい説明、チケット獲得時の音やアニメーションなど挙動の楽しさ、決済の利便性など、リワードとアクションを支えるためのトリガーとインベストメントが緻密にUI/UXとして設計されています。

「ただ、Hooked Modelが実際にうまく機能するかどうかは机上の空論になりがちだ」とも高橋は述べています。この問題を解決するためには、「Design Sprint」という手法で短期集中、かつ、ユーザー対話型の手法も有効だ、と続けました。Design Sprintとは、短期間でデザイン・プロトタイピング・ユーザーへのアイデア検証を行うための課題解決プロセスです。

これまで、アプリ設計にはいわゆるウォーターフォール型の手法が採られてきました。この手法だと、実際の企画から世の中に出してユーザーの反応を得て改善を行うには、数ヶ月単位の歳月がかかってしまうでしょう。Design Sprintを使えば、このプロセスを数日で済ませることができます。本当にうまく機能しているかどうか、ユーザーの反応を見ながら確認することも可能です。


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「Design Sprintはアプリの機能のすべてに実施しなくてはならないというわけではない。しかし、ユーザーが頻繁に使う機能、ユーザーに使ってほしいと売り手側が望む機能には、ぜひDesign Sprintの手法を用い、ローンチ当初からしっかり使われるアプリにすべきだ」と高橋は強く訴えました。

このように、各種フレームワークや課題解決プロセスを活用しながら、アプリの機能を一連の顧客体験として具体化することが、UI/UX設計のゴールと言えます。

ステップ3:設計に沿ってアプリを開発・実装し、ブランドの体験価値を向上させる

ステップ1〜2で行ったCX設計やUI/UX設計に沿って、アプリを開発・実装するにはどうすれば良いのでしょうか。アプリ開発を検討している企業の中には、そもそもアプリでなくてもWebサイトやLINEなどのソーシャルメディアをチャネルとして活用すれば良いのではないかと考えるところもたくさんあります。これは、アプリ開発の初期費用が高いため容易に実装に踏み切れないこと、継続的にグロースするためにはどんなパートナーと組めばいいかわからないことが原因です。

チャネル選択時に評価される一般的な項目(下の表)を考えると、各チャネルは以下のような特徴を持っています。


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ネイティブアプリ(自社アプリ)
開発費用と期間は必要だが、機能の自由度が高く、顧客とのロイヤリティを築きやすい。
Webサイト(PWAを含む)
検索からの流入が必要なため、能動的なアプローチがしにくいものの、比較的コストを抑えて自由度の高いサービスを実装しやすい。
LINE(SNS)
プラットフォーム依存なため機能の自由度では劣るが、テンプレートを活用してスピーディなサービス提供が可能で、ライトユーザーとの親和性が高い。

「最も大切なのはブランドの体験価値向上であり、アプリに固執する必要はない。CX設計やUI/UX設計のステップを経た上で、各チャネルの特徴を理解し、適切なチャネルを選択すべきだ」と述べた高橋は、電通デジタルでは、開発費用を抑え開発期間も短くできるアプリ開発のソリューションを、パートナー会社と協力して提供していると紹介しました。

例えば、SaaSパッケージを使い、低価格・短期間でのアプリ開発を実現するパートナー会社の場合、プッシュ通知やクーポン、店舗検索などの基本機能がモジュールとして提供され、モジュールをそのまま活用すればコストも手間も抑えられます。シンプルなアプリからスタートしたいというニーズに最適です。

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さらに、モジュールだけでなく後からカスタマイズすれば、アプリに機能をどんどん上乗せしていくこともできます。このように、「初期段階」「顧客の需要が高まってきた段階」「効率よく良いサイクルを回す段階」といったフェーズごとの対応が可能なのも大きなメリットです。

コマースデザインをフルに活かし、初期からスクラッチ開発でデザインにも機能にもこだわったアプリを開発したいというニーズに応えたパートナー会社もあります。従来のウォーターフォール型ではないアジャイル開発によるプロジェクト進行で、開発段階からユーザーテストと改善を繰り返し、サービスローンチ時のリスクを軽減するとともに、初めから質の高いアプリを提供。これにより、ローンチ後のカスタマイズの手間やコストを最小限に抑えることができます。


c-a-b-i-f-y-a-t-w-b-l-i-t-a-o-i-c_12今や、生活者に最も近いチャネルとなったアプリ。「イミ消費」の時代に、どうすればアプリ起点でブランドを好きになってもらえるのか。その答えとして高橋は「アプリを使ったブランド体験を再設計することが必要。そのためのコマースデザインとして、CX設計→UI/UX設計→開発・実装という3つのステップを、デジタルネイティブな視点で設計し直すことが重要」と最後に締めくくりました。電通デジタルでは、これらの視点を踏まえたソリューションを用意し、ブランドのグロース支援を行っています。

高橋 和希 Kazuki Takahashi

コマースデザイン事業部 プランナー
アプリを起点とするオン / オフ横断したコミュニケーションデザインやサービスデザインを得意とし、戦略策定、開発ディレクション、UI / UX改善、プロモーション支援、コンテンツ制作など幅広い領域でのコンサルティング業務を担当。アプリ以外でも、外資系消費財メーカーにおける新DtoC事業のeコマース戦略や大手通信キャリアのCX設計など、チャネルに囚われず「体験設計」という切り口から数多くの案件に参画し、事業・サービスの価値向上に寄与している。

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