2022.01.27

売上最大化につなげる Amazon Marketing Cloud 広告データ分析の最前線

「Web広告の効率化、売上最大化が頭打ちになっている」「攻めの一手を講じたいが道筋を見出せない」「実施した施策に効果があったのかわからない」など、Web広告運用時にはさまざまな悩みに直面します。電通デジタルでは専門部署を立ち上げ、そうした課題に対してAmazon広告をより有効な一手として活用するために日々試行錯誤しています。本稿では、電通デジタル コマースメディア事業部 グループマネージャー 矢賀部純とAmazonコンサルタント/プランナー志賀靖が、Data Clean Room「Amazon Marketing Cloud(AMC)」の活用に焦点をあて、AMCの紹介だけでなく、売上最大化につなげる活用事例について解説します。

(この記事は、10月25日〜10月29日に開催した「Commerce Week 2021」のセッションの採録です。)

※所属・役職は記事公開当時のものです。

コマースメディア第2事業部
グループマネージャー

矢賀部 純

コマースメディア第2事業部
Amazonコンサルタント/プランナー

志賀 靖

Data Clean Room AMCとは?

Amazonが提供するAMCは、Data Clean Roomの1つです。まず、矢賀部がData Clean Roomが着目されているポイントとAMCとは何かについて解説しました。

Data Clean Roomとは、データ統合や分析といった特定の目的のために、限られた人がアクセスできるデータ環境のこと。ユーザーのプライバシーが保護された状態を確保しながら、広告効果を可視化する手段が求められている現況を背景に、現在注目を集めています。

Amazon Marketing Cloud(AMC)とは、広告主ごとにインスタンスが作成され、Amazon社が提供する広告プロダクトの実績データが格納されるData Clean Room。電通デジタルでは、広告主のもつファーストパーティデータを統合させた分析の提供についても開発を進めています。

AMCを活用することで、従来の広告実績の捉え方とはまったく違う見方ができます。

「従来の実績抽出は、広告管理画面からとれる実績と、カスタムデータダウンロードの2種でした。しかしAMCを活用すると、これまでの決められた世界の切り取り方に加えて、まったく新しい自由な世界の見方を可能にします」(矢賀部)

続いて矢賀部は、広告施策を実施する際の運用上の課題を次のように解説しました。

「通常、広告施策を実施する際には、仮説をもとに広告を設計しますが、まずは短期的な売上に直結する棚の確保をベースにして検索まわりの施策を構築し、キーワードの方向性を広げていきます。また、プル型施策だけでなくプッシュ型の施策を加えることで、さらなるリーチの拡大やプル型の施策の補強を行います。ところが、プル型施策もプッシュ型施策も個別に評価せざるを得ないので、何がどうなったらどういう仮説の立証に役立つのか、全施策を通して中長期的な売上最大化を狙うには何を明らかにして改善策を重ねていけば良いのかが課題になります」。

こうした課題を解決するためのAMC活用の切り口として、次の4つの視点が考えられます。

AMC活用の切り口①タテの目線:各検討フェーズにあるユーザーにプッシュでアプローチしたときに何がどれくらい購買を後押しできたのかが明らかにできれば、より適切な投資配分を検討できるのではないか。

AMC活用の切り口②ヨコの目線:プル型の検討プロセスの接点を可視化できれば、より実態に即した見込み顧客へのコミュニケーション設計が可能なのではないか。

AMC活用の切り口③全体を捉える:配信実績全体を捉え、分散しているデータを結合。任意の着眼点で切り取ることができれば、より効果を見込める全体の設計の見通しができるのではないか。

AMC活用の切り口④局所を捉える:ポイントを絞って傾向を見出せれば、即改善可能な運用の一手につなげられるのではないか。

AMCの活用事例

事例1 プロダクト横断での最適な予算投資戦略を考える<タテ・ヨコ目線>

志賀が最初に紹介したのは、タテ・ヨコ目線でアプローチした事例でした。潜在層やポテンシャルユーザーとよばれるファネル上部に存在するユーザー層のなかで、どこへの投資を行えば、効率良く購買層の割合を増やせるのかを検討したものです。

分析対象:DSPとスポンサー広告(SP)で、フルファネルでのコミュニケーションを行っているキャンペーン。

分析の前提:DSP、SPともにポテンシャルユーザーからロイヤルカスタマーまで、幅広い層に向けたターゲティングを設定。下図の通り、それぞれのターゲティングを認知促進(水色)と獲得(青色)の2つに分類し、認知促進向けターゲティングのどれが最も獲得施策、購買との距離が近いかを明らかにしていきます。

Zoom

AMCでの分析①認知→獲得:まずは認知向けの広告に接触したユーザーを抽出し、その中から広告接触後に獲得向け広告に接触して購買に至ったユーザーを抽出しました。このように、広告に重複接触したユーザーを時系列順に整理することで、認知フィールドにいたユーザーが獲得フィールドへステップアップした様子を確認することができます。

AMCでの分析②ステップアップ効率:さらに、ターゲティングごとにステップアップの効率を、CTR軸、CVR軸で評価。カテゴリB関心層や競合リタゲといった相対的に高いパフォーマンスをあげているターゲティングの予算を増額。逆に、パフォーマンスが低かったターゲティングを抑制し、全体の獲得効率の最適化を行いました。

Zoom

ポイント:AMC活用で実現できたこと

・DSP×SP プロダクトを横断した重複効果分析
・DSP=認知・SP=刈り取りという従来型の区分からの脱却
→ フルファネル視点での、プロダクト統合予算アロケーションの実現

事例2 指名検索への転換を生みやすいカテゴリを明らかにする<ヨコ目線>

2つ目は、ビッグワードの検索から商品の検討を行い、訴求商品を発見して指名検索を行うといった「ユーザーの購買検討プロセス」を可視化することで、ロイヤルカスタマーの創出につながりやすいキーワードや商品の領域はどこかを追求した事例です。

分析の対象:SPを使って、訴求商品と親和性の高いカテゴリや競合商品領域を発掘中のキャンペーン。

分析の前提:分析のゴールは、AMC中の広告接触のログを使って、「カテゴリワードA」「カテゴリワードB」「競合商品」という検討者向けのターゲティング3種のうち、どれが最も指名検索への転換につなげているかを明らかにすることです。

Zoom

商品検討中のユーザーがカテゴリワードで検索したり、競合商品を閲覧したりしている中で、まずは訴求商品の広告に接触。商品を認知した上で、その商品の指名ワードを検索し、指名ワードターゲティングの広告に接触して購買に至ります。こうしたプロセスを通じて、どのユーザー層が指名ワード検索を最も引き起こしやすいのかを調査します。

AMCでの分析①広告に接触したUU数:分析にあたり、まずは時系列を2つのフェーズに分けます。フェーズ1は、カテゴリワードを検索して広告に接触し、ユーザーが訴求商品を認知した段階。フェーズ2は、商品認知をトリガーとして購買意向が促された結果、指名検索を行う段階。下図が各フェーズにおけるユーザーの接触状況で、グラフは各ターゲティングの広告に接触したユーザー数を、ユニークユーザー(UU)ベースで示しています。各フェーズとも、競合商品、カテゴリワードB、カテゴリワードAの順に、広告に接触したユーザーが多いことがわかりました。

Zoom

AMCでの分析②転換率:フェーズ1からフェーズ2への移行割合で各ターゲティングのパフォーマンスを評価した結果、フェーズ1からフェーズ2への転換率は、競合商品、カテゴリワードA、カテゴリワードBの順に高くなりました。なかでも競合商品は最も優秀で、ユーザー数も多く、転換率も高いです。カテゴリワードでは、Bの方がユーザーの母数は多かったものの、転換効率でいえばAの方が高いことが発見できました。そこで、競合商品の投資量をカテゴリワードよりも厚めに設定。また、カテゴリワードに関しては、転換効率の良いAの投資を積極的に行うべきだと判断して再設定し、指名検索量の最大化を狙いました。

ポイント:AMC活用で実現できたこと

・広告接触を起点とするカスタマージャーニーの可視化
・キャンペーンの単純なパフォーマンスにとらわれない、新しい評価軸の創出
→「真に」購買行動の促進に効くターゲット戦略の確立

事例3 クリエイティブからターゲットを考える<全体を捉える>

3つ目の事例では、クリエイティブ表現とユーザーの興味・関心を最大限にマッチさせるにはどうすれば良いかについて切り込んでいます。

分析の対象:1つの商品を複数のクリエイティブ表現で訴求しているDSPキャンペーン。

分析の前提:ターゲティングは、訴求する商品が属するカテゴリやその商品に類似する競合商品をベースとして設定。各ターゲティングに、3種類のクリエイティブ(Creative1、Creative2、Creative3)が、最適化に応じてランダムに配信される設計としました。

AMCでの分析①オーディエンスインサイトの抽出:オーディエンスインサイトとは、購買行動の履歴をもとに、ユーザーIDベースで興味・関心のデータが紐づけられる機能です。この機能を利用し、キャンペーンに接触したオーディエンスの興味・関心の傾向を確認しました。すると大きく分けて、CTR、CVRの観点で、カテゴリA、カテゴリC、カテゴリDへの関心をもつユーザーからの反応が良いことがわかりました。

AMCでの分析②クリエイティブパターンごとの分析:オーディエンスインサイトはAmazon DSPでも確認できますが、AMCではUU単位のデータ集計が可能で、複数キャンペーンや広告グループをサマリできます。また、クリエイティブ接触者といった細かい解像度での集計を行うことも可能となるため、今回は、クリエイティブパターンごとのオーディエンスインサイトを分析。結果は下図のように、Creative1はカテゴリA、Creative2はカテゴリC、Creative3はカテゴリDとの相性が良いことがわかりました。

Zoom

この結果をもとに、商品のジャンルを軸として設定していたターゲティングを、ユーザーの興味・関心傾向とそれぞれのクリエイティブ表現との親和性にもとづいたターゲティングに変更し、パフォーマンスの最大化をはかることが可能になりました。

ポイント:AMC活用で実現できたこと

・クリエイティブレベルまでドリルダウンしたオーディエンスインサイト
・商品カテゴリ軸ではなく、クリエイティブとの親和性軸によるキャンペーンプランニングの実施
→クリエイティブ表現を起点とする、逆引きのコミュニケーションの開発

事例4 リーチを最大化する<全体を捉える>

4つ目は、キャンペーンのリーチを最大化する配信設計を目指す事例です。

分析の対象:モバイル配信でのリーチ最大化を目的としたDSPキャンペーン。

分析の前提:従来は、ターゲティング、クリエイティブパターン、Webアプリの広告枠の種類という3つの軸で広告グループを細分化し、各グループで最大限の配信機会を獲得できるよう運用していました。しかし、分析をするにあたり、広告グループを「ターゲティングのベースになっているユーザーの関心カテゴリごと」という軸で3種類(Group A、Group B、Group C)に分割しました。

AMCでの分析①各グループの重複状況の可視化:各グループの広告接触ユーザーを各広告指標に基づいてUU単位で集計し、重複状況を可視化したところ、下図のような結果となりました。

Zoom

インプレッション、クリック、コンバージョン、それぞれの項目において、Group AとBが比較的広範にユーザーが分布している一方で、Group CはAやBとの重なりが大きく、独自リーチを伸ばしていないことがわかりました。そこで、Cへの投資を止め、リーチ拡大の余地があるBへの投資に予算をアロケーションし、さらなるリーチの拡大を実現できるようになりました。

POINT:AMC活用で実現できたこと

・任意のグルーピングによる、UUベースでの重複状況の確認
・各指標×各グループにおけるユーザー分布の可視化
→インプレッション課金制のDSPにおいて、限られた予算の中でリーチを最大化させる最適な投資戦略を提示

事例5 より詳細な分析を行う<局所を捉える>

続いて志賀は、より詳細な分析を行える例として下図を示しました。

Zoom

AMCであれば、フリークエンシーレポートや時間帯別の配信パフォーマンス分析など、通常の管理画面ではレポーティングできない詳細なデータに関しても抽出できるようになると解説。「ポイントを絞って局所的な傾向を見出すことで、日々の配信パフォーマンスをさらに向上させる打ち手につなげられます」と、AMC活用の可能性に言及しました。

さらに、AMCの分析と電通デジタル開発の自動入札ツール「Kommerz」の連携で、パフォーマンス最大化に向けた細かいチューニングの実施も可能になると説明。AMCを活用することで、「既存キャンペーンの運用最適化をより詳細に進められるようになることはもちろん、プロモーション全体の戦略を一気に高度化させることができます」と締めくくりました。

PROFILE

プロフィール

この記事・サービスに関するお問い合わせはこちらから

EVENT & SEMINAR

イベント&セミナー

ご案内

FOR MORE INFO

資料ダウンロード

電通デジタルが提供するホワイトペーパーや調査資料をダウンロードいただけます

メールマガジン登録

電通デジタルのセミナー開催情報、最新ソリューション情報をお届けします

お問い合わせ

電通デジタルへの各種お問い合わせはこちらからどうぞ