2019.07.24

ECのカスタマーエクスペリエンスで重要なのは「施策改善」ではなく「3つのレイヤー」

顧客体験(カスタマーエクスペリエンス:CX)がビジネスの成功を左右する時代となりました。これからは、顧客と企業が接するすべてのタッチポイントにおいて、顧客に寄り添った体験を提供することが求められます。こうした変化のなか、CXの常識も「PDCA」から「BML」に変わりつつあります。事例を交え、最新動向をご紹介します。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

CXで成果を上げる米国、いまだ「CXとは何か」を議論中の日本

顧客に選ばれる購買体験を提供するため、デジタル技術を活用し、ECを含むあらゆる顧客接点の最適化に取り組む企業が増えています。先行する米国では、すでに成果を上げる企業も増えてきました。

たとえば、家電量販店のBest Buyもその1社です。同社は7年前に経営危機に陥ったものの、顧客志向でデジタル改革に着手し、業績は回復基調にあります。これらの先行する米国企業では、CXの重要性は前提となっており、もはやその定義については語られてはいません。

一方、多くの日本企業では、いまだにCXがクリエイティブや改善活動の延長と捉えられ、現場による取り組みで終わってしまっています。CXとは、すべてにおいて「顧客」を最優先させるという経営理念や哲学のことであり、心地よい体験やおもてなしを重視することでもなければ、一貫したメッセージを発信することだけでもありません。

そして、トップから現場まで、全員に浸透している必要があり、ベンダーが提案するツールを導入するだけで実現できるものでもありません。つまり、「CXは経営課題」なのです。

では、遅れをとる日本企業に、いま求められること、必要なことは何でしょうか。


効率主義の「PDCA」から顧客中心の「BML」へ

顧客が重要視される時代においては、「効率主義のPDCAから顧客中心のBMLへのシフトが求められます」と弊社CAO清水は説いています。

CX時代に求められるのは、施策の改善ではなく顧客体験の改善です。PDCAは製造業における品質、つまり『正解』が決まっている指標を最適化するためのアプローチであり、顧客視点のマーケティングを実現するには、他の計測手法が必要になってきます

デジタル時代のマーケティングでは「どんな顧客に受け入れられるのか」「異業種や海外含めたどんな企業と競合するのか」「技術はどう変化するのか」など、不確定要因が多く、単一の正解がありません。BMLモデルは、「Build(顧客体験の構築・提供)」「Measure(顧客体験の計測)」「Learn(顧客の理解)」の頭文字をとったもので、文字通り、望ましい体験を提供するため施策をプランし、実施し、顧客視点の行動や心理の変化を計測、把握します。そして、対象とする顧客の状態と行動・心理変容の仮説を定義(モデル化)していくプロセスです。

デジタルマーケティングのレポートも、「PVや直帰率、CPA、会員数や売上など、過去の実績を表す指標を並べただけのレポートは“古風なレポート”です」と清水氏は述べる。

これからの“顧客視点”のレポートはカスタマージャーニーにおける「入口」と「出口」だけでなく、認知や期待度、気持ちの変化など、どんな状態のお客さまが、どんな気持ちでサイトに来訪し、どんな行動を経て、心理や行動がどう変容していったのかを指標化しなければなりません。

意識の変化や態度変容が分かれば、顧客1人ひとりが見えてきます。Web上のデータや、リアルチャネルの売上データ、アンケートなどで聞いた満足度(定量、定性)データなど、行動・属性・心理に関するデータの統合的な把握によって顧客理解が深まり、モデル化することで、企業として行うべきコミュニケーションや施策が見えてきます。そのサイクルを回していくのがBMLモデルなのです。

特にECでこれを実現するために必要な取り組みとして、顧客と自社の双方にとって理想的な体験を提供するために、社内の考え方や意識、プロセスを再構築する必要があります。それには、これまでのECの常識から離れ、ツールやデータを活用することも重要です。


ECのCXデザインに必要な3つのレイヤー

では、現場では、実際にどのようなプロセスでCXをデザインしていけばよいのだろうか。弊社 プラットフォーム・データデザイン部門 CTO/SVPの寺嶋猛は、同社の場合、「タッチポイント」「プラットフォーム」「データ」の3つのレイヤーそれぞれの視点でカスタマージャーニーにどのように影響しているかを整備することが重要であると述べました。

まず、「タッチポイント」のレイヤーでは、CXデザインコンサルテーションとして、カスタマーのすべてのタッチポイントを分析。現在の状況とあるべき姿をクライアントとともに構築します。実際にCXデザインに取り組んだ事例として、あるコスメブランドの事例を紹介しました。

このブランドはグローバル全体でECを刷新することが決まっており、重要なマーケットの1つと位置づける日本でオムニチャネルの実現を目指していました。しかしながら、日本オフィスでは各部門、各担当でカスタマー像をばらばらでとらえており、コマース全体のあるべき姿が描けないという課題がありました。

そこで、弊社がCXコンサルテーションを実施。カスタマーへのリサーチ、ステークホルダーインタビューなどのリサーチを重ね、現状のカスタマージャーニー、および、あるべきカスタマージャーニーを定義しました。その際に、クライアントの各部署の主要メンバーと同社でワークショップを行い、現状の「ペインポイント」とあるべき姿を話し合うことにより、各部門の視点がそろえられ、全社で目指す方向性を決定するに至りました。

ペインポイントが出やすいのは、デジタルとリアル店舗のあいだです。各チャネルでのキャンペーンでの取り組み方のずれや、店舗在庫が確認できないなど、デジタルとフィジカルが横断するところに、顧客のペインポイントが多くあると分かりました。今回のプロジェクトでは、顧客のコマース体験のすべてのタッチポイントを洗い出したので、このような各チャネルにまたがるようなタッチポイントの分析ができたと考えています

CXデザインコンサルテーションを実施後、すぐに要件定義を実施。CXデザインだけで終わってしまうと、絵に描いた餅になってしまうことがあります。そのため、コンサルテーションの後の要件定義まで一貫して実施し、実現性の担保を行うことがプロジェクト成功のポイントとなります。CXのコンサルテーションだけではなく、システム開発の要件定義含めてプロジェクト化したのはそのためです。

CXデザインのコンサルテーションのアウトプットだけでは、要求に対する網羅性が低くなります。要求から現実的な要件に落とし込むときには、上記のアウトプットを理解しつつ、そもそもECとして、どんな機能があり、何を決めなくてはいけないかという着地点を意識しながら、双方の観点を擦り合わせていくことが重要になります。今回、要件定義を実施するテクノロジーのメンバーもワークショップに参加させて頂いたことから、要求から要件のフェーズへの移行が極めてスムーズに実施できました。


CXプラットフォームのあるべき姿

弊社では、魅力的なCXを実現する「ECプラットフォーム」として「Magento Commerce」の導入/活用に注力しています。Magento Commerceは、エンタープライズ向けのCXプラットフォームとして数多くの実績を持ち、「Adobe Experience Cloud」の一部として他製品とも連携できます。

「Magento Commerce」には3つのポートフォリオがあります。注文・決済などのEC機能を提供する「Commerce」、注文管理機能である「Order Management」、そしてBI機能を提供する「Business Intelligence」の3つです。この3つのポートフォリオにより、オムニチャネルをワンプラットフォームで実現可能となっています。また、Magento Commerceはすぐれたエクスペリエンスを実現可能にするための豊富な機能を保持しており、魅力的なCXを実現するには最適なプラットフォームとなっています。ここではその中でも、CX向上に特に役立つ4つの機能を紹介します。

1つ目は、「ページビルダー」です。これはコンテンツ管理の機能で、開発者に頼ることなく簡単に思い通りのコンテンツを作成できます。

優れたCXを実現するには、カスタマーのセグメントに合わせて細かく施策を実施する必要があります。そのためには、効率的で柔軟なコンテンツ編集機能が必要となりますが、ページビルダーは、このニーズを実現してくれます。コンテンツ要素をドラッグ&ドロップで追加できますし、要素の大きさも画面上で自由自在に変更でき、本番環境へのアップロードのスケジュール設定など、便利な機能を備えています。

2つ目は「ステージングダッシュボード」だ。これは、コンテンツを実際のユーザー目線で横断的にプレビューできる機能です。たとえばキャンペーン実施の際などは、セールのカテゴリー追加、LP制作、バナー制作、クーポン、セグメント設定などさまざまな作業が発生しますが、Magento Commerceではこれらを見やすいチャート形式で一覧でき、顧客がいつどのような体験をするかが簡単に確認できます。

3つ目はOrder Management System(OMS)です。MagentoのOMSは複雑な在庫にも対応しており、複数のロケーションにかかる在庫を一元管理が可能となっている。これにより、オムニチャネルの実現が容易になり、コマース全体の体験の向上が可能になります。

そして4つ目が「充実したモバイル対応」です。このほかにも、Magento Commerceは早くからモバイルファーストの思想を取り入れており、最近ではPWAに対応したPWA Studioもリリース。他のプラットフォームに先駆けて、モバイルへの取り組みを強化しています。


CX最適化の事例

弊社では、「Magento Commerce」を用いた事例を数多く有しています。その1つに、あるアジアの電気製品ブランドにおける米国・欧州向けサイトのリニューアルの事例があります。

同サイトはブランドサイトとECが分離しており、顧客の購入意欲が高まったときに適切な購入導線が提示できていませんでした。また、カテゴリごとに組織が独立していたため、それぞれが独立して施策を打ちたいが、ECは共通でシステム部門が管轄していたため、スピードのある対応が難しいという課題もありました。

そこで、Adobe Experience Manager(AEM)とMagento CommerceをAPIで連携させ、ブランドサイトとECサイトを統合。さらに、クライアントはAEMのワークフロー機能を使い、カテゴリ毎の独立した承認フローを実現。これにより、マーケティング(AEM)とコマース(Magento)はシームレスに連携しているものの、マーケティング、コマースそれぞれの担当が自身の領域にフォーカスできるようになり、組織構造に合わせた権限管理、ワークフローを実現できました。

「データ」のレイヤーについては、「Adobe Analytics Cloud」の一部である「Adobe Analytics」を用い、ある高級グルメ通販サイトで、顧客データをベースにした新たな分析方法を導入した例を紹介しました。

具体的には、顧客視点をもとに「期待」「検討」「初回購入」「活用」「定着」の5つのユーザーステップを定義。流入チャネルごとに、短期的な評価と長期的な影響、両方の視点でデータ分析を行うというものです。

たとえば、長期的視点では、上記の5つのステップにおける指標を固定化し、検討から初回のお試し購入への進み具合など、ステップ転換度や、ユーザー育成度を検証しました。こうした分析においても、カスタマーそれぞれの心理を定義することが重要であり、短期的な効果を追うだけではなく、長期的な観点でデータを追跡することも大切になります。

弊社は、グローバルで1000人を超えるコマースのスペシャリストを擁し、さまざまな顧客のCX向上の課題に向き合っています。

(※本記事は、Adobe Symposium 2019での講演内容をもとに再構成したものです)

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