2020.04.28

いま改めて考えるこれからのeコマースの在り方〜現状のビジネス継続とアフターコロナでの事業戦略として〜

新型コロナウイルスは、すでに私たちの行動・生活様式に大きな影響を及ぼしています。 例えば、日常的にテレワークをし、オンライン会議を開くことは珍しくなくなってきましたし、子ども達がオンラインで習い事のレッスンをする機会も増えています。また、自宅に“巣ごもり”していても閉塞感を覚えないように、空間を楽しむサービスがいくつも誕生しています。 このように、「家の中で、いかに快適で安全に過ごせるか」を工夫する時代のなかで、eコマースの在り方を改めて考えることは、今後の事業を強くしなやかに育てることにつながると考えられます。 本稿では、4月28日にアドビ システムズ株式会社と共催したオンラインセミナー「いま改めて考えるこれからのeコマースの在り方」をレポートすることで、eコマースの可能性やOMOの実現とそれを構想する上で重要なCX(カスタマーエクスペリエンス)の考え方についてご紹介します。

いま、デジタル対応への期待値が高まっている

第1部のパネルディスカッション「これからのeコマースを考える」は、電通アイソバー(現 電通デジタル)関西支社CXコミュニケーション部エグゼクティブテクニカルディレクター船井宏樹の、新型コロナウイルスの感染拡大防止を目的とした緊急事態宣言の後にどのような行動変容が起こったと感じているか? という問いかけから始まりました。

これに対し、同社プラットフォームコンサルティング部エグゼクティブプランニングディレクター口脇啓司は、
「1月20日から3月29日までのドラッグストアの購買行動について200万人に対して電通リテールマーケティングが調査したところによると、感染拡大の報道以降は“ついで買い”が発生しにくくなり、目的買いが中心の買い物客が多くなっていることが分かった。10〜20代の若者は店舗を訪れること自体が少なくなり、eコマースを利用するようになったと考えられる。一方、50代以上は来店回数が伸びている。
調査期間内での総購入金額は全体で増えているものの、1回あたりの購入額や点数は減少しているようだ」と、データを示しました。

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また、アドビ システムズのプロダクトエバンジェリスト安西敬介氏は、Adobe Digital Economy Indexをもとに米国やカナダでの購買行動の変化について、「除菌ローションや手袋、マスク、抗菌スプレーをeコマースで購入するケースが急増している」と述べ、
「これまで、物を販売するチャネルは、eコマースのような『デジタルで提供している領域』と、飲食店のように『フィジカルでしか提供できない領域』の間に、『どちらでも良いがフィジカルで提供していた領域』があった。しかし、この領域が半ば強制的に『デジタルで提供する領域』になるよう求められるようになっている」としました。

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このように、これまでデジタルの場では買わなかったものを買うようになったり、店舗を訪れるにしても「自分の欲しいものについて、在庫があるか」をサイトやアプリ、SNSで事前に確認するようになり、消費行動の場のデジタル・シフトへの期待値が高まってきたことは、新型コロナウイルスの影響による消費行動の変化の象徴的な出来事のひとつだと言えそうです。

そうした変化が起こっているマーケットで事業を推進するなら、次の2点について考える必要があるでしょう。

●OMO(オンライン・マージ・オフライン)体験はどのようなものが考えられるのか?
●eコマースと店舗の利用比率や愛着度の差はどのように変わっていくのか?

また、検討した方向性を踏まえて、次の3つのフェーズの対応策を模索し、段階的に通常通りに事業を再開させる出口戦略を描くことも重要だと言えるでしょう。

Phase1:現状のビジネスをどう継続させるか
Phase2:どう復帰させるかのプランの検討
Phase3:プランに基づき復帰後の世界へ

これらを考えるにあたり、「これまで想定していたカスタマージャーニーも大きく変更する必要が出てくるかもしれない」と、安西氏は指摘します。


「どこで買っても同じくらい満足」という体験を提供できるか?

先述のような現状のビジネス継続から復帰後の世界に向けた出口戦略を考えるうえで、「eコマースをどう位置付けるか」という点は極めて重要な問いだと言えます。 また、おそらく、「これまで“サブ”として捉えていたeコマースに本腰を入れる」あるいは、「eコマース化していなかったが、早急にプロジェクトを進めよう」と考える企業も増えると見込まれます。

確かにeコマースは、目下の状況においては、物流の問題さえクリアできるなら、ユーザーとスタッフの双方にとって、安全性が高いビジネスモデルだと言えるかもしれません。 しかし、そもそも売り上げ実績の面でも同じようにポジティブな見方ができるのでしょうか?

これについて、口脇は、アパレル業界の2〜3月店舗/eコマース週次実績をもとに次のようにeコマースの可能性について解説しました。

「3月月間売り上げは、昨年対比で、アパレル店舗での売り上げは60%程度まで減少している。一方、eコマースは120〜130%に伸長したとある。ただ、eコマースの伸びは非常に大きいものの、合計すると昨年対比で65%程度まで売り上げは落ち込んでいるとのことだ。
つまり、eコマースは店舗の売り上げ減少分を5%押し上げただけ、という厳しい状況だということであり、売り上げに対する店舗とeコマースの構成比を考えると、eコマースはまだまだ店舗を補填する存在にはなれていない、ということが分かる。
アパレルのEC化率は前年度平均11%なので、この11%が売り上げ5%押し上げに貢献したと考えられるが、EC化率20%以上のブランドだけを抽出して見てみると、eコマースによって15%ほど総売り上げを押し上げた、との結果も見られる。やはり、eコマースの比率が高いほど店舗の損失を補填できる可能性がある、と言えそうだ」。

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このことからも、eコマース化は現状の事業継続を支える存在になる可能性が期待できます。しかし、だからこそ、eコマースの運営はきめ細かく、利用者にがっかりさせないような設計が求められるでしょう。特に、店舗顧客が(強制的に)eコマースを利用すると想定した場合、彼らが店舗を利用した時と同じくらい満足感を得られるよう、eコマースでの体験を構想することが不可欠です。

具体的な取り組みのひとつに挙げられるのが、適切でシームレスな在庫管理の実現です。
「NPO団体CMOカウンシルのレポートによると、顧客の47%は品揃えが悪く不満が募るといった経験をさせられたブランドからは商品を購入するのをやめる、との指摘もある。店舗で購入する際の心地よさのひとつに『在庫やサイズ・色違いの有無を尋ねたら答えてくれる』というものが挙げられるが、こういったホスピタリティを感じる体験をeコマースでもできるか、といったことを丁寧に検証していく必要があるだろう」と、口脇。

続けて、在庫管理の重要性について、「店舗とeコマースのショップでの在庫数をきちんとインテグレートさせて管理することで、顧客は買うモチベーションが保たれてCXは向上する。一方、事業者側も販売機会の損失を避けられる」とし、「各チャネルの在庫連携が可能になれば、『店舗にはないけど、eコマースで購入できる』など、チャネル間の壁をなくし、迅速な対応が期待できるだろう」としました。

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オフラインとオンラインの境界線を溶かす

従来、店舗とeコマースの運営について考える際には、それぞれのメリット/デメリットにフォーカスが当てられてきました。

しかし、前述のように在庫連携等によって店舗とeコマースの壁をなくせば、次のような「店舗でできること/できないこと。eコマースでできること/できないこと」を相互補完しながらCXを提供することに注目が集まると考えられます。

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店舗やeコマースをはじめとした包括的な顧客体験を

オンラインとオフラインの境界線を溶かすような展開は、消費者の行動にこれまで以上に寄り添うことになるかもしれません。しかし、それをうまく導く方法や、どちらの体験も一貫したブランドによるものだと感じてもらうには、どのようにアプローチすればいいのでしょうか?

そのヒントのひとつとして、口脇は、「新型コロナウィルスの世界的流行とビジネスの変化」という記事から、以下の内容を引用しました。

「Direct-to-consumerのスタートアップ企業の中には、新型コロナウィルスの広がりとともに、リアル店舗を一時閉店することになり、それに対して、SNSを通じてファンとのダイレクトなコミュニケーションをとっている企業もあります。リアル店舗からオンラインへのスムーズなシフトを図るべく、企業の方針やオンラインでのサポート状況を丁寧に説明し、さらには、企業理念に触れつつ、理解を求めています。人々が信頼できる繋がりを求めている時だからこそ、ブランドとの絆をより確かなものにしよう、そうした企業の姿勢が伺えます。
(中略)
消費行動の変化とともに、こうした非常時において、顧客や一般の消費者に対して、何ができるのか、各ブランド企業の姿勢が問われている時でもあるかと思います。短期的な視点ではなく、中長期的な顧客との関係づくりに優先順位をおき、コミュニケーションを考えるべきかと思います」

こうした考えを踏まえて、「これからの顧客体験を考えるなら、チャネルそれぞれの特性を捉え、eコマースシステムを基幹としてeコマースでは補いきれない体験をほかのチャネルで解決する。店舗もひとつのタッチチャネルとしてそこでしかできない体験を提供する場所へ、との発想転換が必要だ」と、口脇は指摘します。

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つまり、「店舗はこれまで通り重要な位置を占めるものの、それ以外のチャネルの重要性を理解する必要がある。すべてのタッチチャネルを一括する基盤を構築し、より洗練された顧客体験を全方位的に展開するべきだ」というわけです。


オンラインとオフラインをひとつの世界にするために

では、ここまで述べてきた“オンラインとオフラインの境界線を溶かしたOMOの世界”では、どのような価値を顧客にもたらすことができるのでしょうか?
船井は、OMOは、「欲しいと思った時にその瞬間その場所で」「オンライン/オフライン関係なく購入できる」「ストレスなく手元に届く」を実現できる、と言います。

(出典:Salesforce Q1 Shopping Index)
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そのような世界観を構築するために、船井は、「最適なCX(顧客体験)デザイン」「顧客とのタッチポイントの充実」「マルチチャネルに対応したプラットフォーム(各チャネルの仕組みの整備)」の3つを挙げ、OMOを支えるためにどのようなことをすべきか、電通アイソバー(現 電通デジタル)のフレームワークを取り上げました。

Point.1 CXデザインプロセス
電通アイソバー(現 電通デジタル)では、CXをデザインするにあたり「4つのD」をもとにデザインプロセスを検討・実践してきました。

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●Discovery(調査)
ステークホルダーやエキスパートへのインタビューや競合分析などを行なう

●Define(ターゲット定義)
調査をもとに、だれにリーチするのかを明確にする

●Design(デザイン)
ワークショップやカスタマージャーニーのマップづくり等を通して施策を検討し、優先順位を定めていく

●Deliver(実装)
プロトタイピング、ユーザーテストを通して反響を確かめたり、KPIの定義を行なう

これらを通じてCXをデザインすることを第一歩とし、さらに設計したCXを繰り返し検証しながらより洗練されたCXを実現していくことが重要だと考えています。

Point.2 チャネルの充実
CXデザインと同様に、顧客が「買いたい!」と思った時にストレスなく購入できる環境を整えるべく、お客様との既存の接点はどんなものがあって、理想としてどうあるべきなのか? 考えて整理・充実することも欠かせません。

Point.3 最適なプラットフォーム
タッチチャネルを充実させる際、忘れてはならないのが、「これらをどう管理するか」ということでしょう。個別に管理することは、データを分散させることを意味し、適切な顧客体験を検討する上でのピースを失うことにもつながりかねません。
情報を統合したものとして結びつけることは、CXを洗練させることやOMOの実現に不可欠だと言えます。

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電通アイソバー(現 電通デジタル)含むIsobarグローバルネットワークは、これまでに取り組み、蓄積してきたプラットフォーム開発のノウハウを専門拠点に集約することで、グローバルレベルのコマースプラットフォームの構築においてのベストプラクティスを日本市場に提供できるようにしています。
電通アイソバー(現 電通デジタル)は「We are the CX Design Firm.」として、クライアントの最も大切な顧客に、最適な体験を設計・提供できるよう、これからも支援を続けていきます。

オンラインセミナー動画はこちらよりご視聴いただけます。

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